32 元天使というレッテル
何が起きたのかわからなかった。
「くっ……はっ……」
いつの間にか地面に押さえつけられ、息ができない。
ひゅうひゅうと喉がなる。
嗚呼、これは2回目だ。
1回目は魔王と出会った時の……
「天使が。ここで何をしている。」
声の主は恐ろしく低い声で地面から空中へ私を持上げる。
しかし返事をしようにも首を抑えられていては声が出せない。
「あぁ、言わなくていい。どうせ天使の考えていることなんてろくなことではないだろうからな。」
その言葉に涙が溢れそうになった。
『私はもう天使じゃない。悪魔だ。』
そう、言いたかった。
「幸い、シアと妹君からここは死角だ。あいつは気づいていただろうがな。妹君を傷つけたくなかったんだろう。」
もう、そろそろ意識が限界だ。
誰か………
「兄上?」
途切れそうになる意識の端に、困惑した表情のクレイが見えた。
「クレイか。」
「あ、兄上、何をしているのですか!ルシアをはなしてください!!」
「は?お前、寝ぼけているのか?これは天使だぞ!?」
「知っていますそんなこと!いいからルシアをはなしてください!!」
「そんなことだと………?天使をみすみす逃がせというのか!!」
「ルシアもう天使ではありません!!立派な悪魔です!!」
途切れる意識の中で、その言葉はとても暖かく心に響いた。
(クレイ、私、あなたのこと勘違いしてたのかもしれない。)
そうしてルシアは、糸の切れた人形と化した。




