22 嘘のぬくもり
「…なにしてるの?こんなところで。」
「ぅ…ぐすっ、道に、迷っちゃったの…」
とても良い香りのする少女は涙を浮かべそうつぶやく。
ここは森の奥深く。抜けると吸血鬼の城がある。
だから、吸血鬼以外のための道などあるはずもない。
ならばどうしてこの少女は迷い込んでしまったのだろう。
「ここは危ないよ。吸血鬼が住んでるんだ。」
匂いに誘われ傍によった。
こういう時、年齢の割に見た目が子供であることが、とても役に立つ。
「こわい吸血鬼?」
「そう、こわい吸血鬼。」
そもそも吸血鬼に怖いも何もあるのだろうかと思ったが、少女に疑問を抱かせないため話を合わせる。
「それなら、あなたはここでなにしてるの?」
「…僕はこの森のふもとにある村に住んでるんだ。木の実がないか探していたんだよ。」
彼女の甘い香りが、僕に嘘を重ねさせる。
「森の入口の村は吸血鬼に襲われて、今は誰もいないんじゃ…」
失敗。
てっきり収容所から逃げ出した餌かと思っていたが、ふもとの村がもうないことを知っていることから、どうやらこの子は本当の迷子のようだ。
「うん、そうだね。」
彼女の信じる事実にこれ以上嘘が混ざらないよう、肯定だけを返した。
「あなたも、ひとりなの?」
「……え?」
「あなたもひとりぼっちなの?」
予想の斜め上をいった少女の言葉は、彼女なりに僕の境遇を推測した結果だろう。
「……うん、そうだよ。僕も…ずっとひとりだ。」
嘘ではない。
そう言うと突如頭の上に小さな違和感を覚えた。
「よしよし」
「……………!?」
頭を撫でられたのは生まれて初めての経験で、こんなにも心乱されるものなのかと動揺して後ずさる。
「?嫌だった?」
「い、いや、そういうわけじゃ…」
「そっか!」
そうしてにっこり笑う彼女に涙の痕はなく。
「一緒に村まで帰ろう」
そうしてさしのべられた手は、頭を襲った違和感と同じ大きさをしていた。




