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21 月の思惑
城への帰途に、彼は思う。
「とても良い香りだった」と。
姫は笑うとよく香る。
いつまでも変わらない、懐かしい匂い。
「おっと、『姫』はお気に召さないのでしたね。」
そんなことを考えながら、くすりと微笑む。
その横顔は悪戯を思いついた子供のよう。
嗚呼、次はいつ逢いに行こう。
あのとろけるような甘い香りに溺れたい。
キールの牙が月に反射して鋭く光る。
あの美しい首筋に自分のモノである印をつけたいと思う反面、傷をつけたくないという思いがせめぎ合う。
全く、困ったお人だ。
彼女はどれだけ私を悩ませれば気が済むのか。
「でも、そんな悩みももうすぐ終わる。」
私が貴方を迎えに行くから。
どうかそれまで……
(誰のモノにも、ならないで。)




