19 なかないで
「……お前、最近私のこと、避けてるだろ……」
「避けるなど、そのようなことは……」
そう言いかけてから、我が君の今にも泣いてしまわれそうな表情にはっとする。
「嘘……私が前にお前の傷を『引き受けた』時から、なんだかよそよそしいの、わかってるんだからな……」
「そ、れは………」
ルイとの一件もあり、距離を置いていたのは確かだ。しかし、それでかえって我が君を悲しませてしまうことになるとは……
「……申し訳ございませんでした。」
そう謝罪すると、より一層悲しそうなお顔をされる。
「あれはなっ!私が皆に死んで欲しくなくてやったことなんだ!だから……」
目の前の女性はぽろぽろと涙を零し始める。
「だから、嫌いにならないで……」
我が君の口から漏れたのは、意外な言葉だった。
私が我が君を?嫌いに?
「嫌いになるなどとんでもございません!!私は我が君を敬愛しております!!」
「……ほんと?回復魔法も使えない、お荷物だと…ぐすっ、思ってないっ?」
本当にこの方は、何を仰っているのか。
「思うはずがございません。私の主は貴方様ただお一人。死に至るその時まで、我が君のお傍に。」
「死ぬのはだめっ…死んじゃやだ……」
手の甲で目を擦る少女に、ハンカチを差し出した。
「どうぞお使いください。」
「ありがと…」
「それでね…あの………」
「?」
「もう、私のこと避けないで。クレイは…や、優しい、から、私のこと傷つけないために距離を置いてたのかもしれないけど……」
私は優しくなどない。我が君を傷つけたのだから。
「わたしも、頑張って強くなるから。配下に守られるだけの魔王じゃなくなるように、頑張るから。……近くに居るのに、遠いのは、悲しいよ。」
そう言って、また静かに涙を流す。
その姿は頭に残り続けるルイの言葉をかき消すには十分すぎた。




