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(この籠は檻なんかじゃない。)
誰もいない、ただ広く静かな部屋で一人。
笑い声の絶えない談話室だった場所で、そう思った。
…あの時、走っていってしまった我が君を止めようと手を伸ばした瞬間。
黒い靄に包まれて。
次に目を覚ましたのは、失ったことに気づいた時だった。
主が帰ってくることは無かった。
八つ当たりだ。
止めなければいけないのに止められなかった。
助けたかったのに助けられなかった。
誰よりも自分がそばにいたかった。
そんなことを2人に向かって叫び散らした。
2人は私を責めなかった。
そのことがまた怒りをかき立てた。
いっそ死んでしまおうと思った。
我が君と同じところへ行きたいと。
でも、だめだった。
我が君の残したこの籠を見ていると、ただただ悲しくて涙が止まらなくなって。
嗚呼、私はこれ程までに貴方を愛していたのだと。
今になって気づいても、もう遅いというのに。




