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ルシア「……私は天使じゃない。最初に言ったでしょ。頭痛いの、やめて。」
キール「…聞きなさい、天使。」
ルシア「っ…、なんでっ、そんな……あんた、私を悪魔だって……認めて、くれたんじゃなかったのっ!?」
キール「………あなたは天使です。いいですか…」
ルシア「よくなんかないわよ!!今すぐそれをやめてよっ…!!!」
キール「……ではルシア。あなたは何故今の現状が不満なのですか?」
ルシア「ぇ……」
キール「それが答えです。あなたの本質は悪魔ではない。その黒い翼がなければ悪魔を名乗れない。違いますか?」
ルシア「…どうして、いま、そんなこと……」
キール「あの日。メアが会議から帰った時からずっと、『おかしい』と感じていたのではないですか?」
ルシア「やっ、やっぱり、あんたも…」
キール「まぁ、あの程度は些細なことですね。…むしろあれだけで済んだのが怖いくらい。」
ルシア「……些細な、こと…?」
キール「えぇ。…この際ですから話しますが、私と魔王シアの2度目の戦いは私が会議室に入ることが出来ない時点で敗北が確定していたのですよ。」
ルシア「2度目の戦い!?なによ、それ…!!」
キール「私はずっと偽りの中に生きるメアを救いたかった……でも、その願いは終ぞ叶わなかったのですね。」
ルシア「だからぁっ…!何の話よ…!!」
キール「まだわからないんですか。」
ルシア「わからないわよ!!わかるわけないでしょ!!私は知らないことばかり、メアのことだって悪魔のことだってなんにも知らないのよ!!」
キール「それでよく、能天使が務まっていましたね。」
ルシア「っ、うるさい!!!天使天使いわないでっ!!!」
キール「疑問に思ったことはないのですか。何故兄妹なのに兄であるシアが先に魔王に君臨しなかったのか。」
ルシア「…不思議に思ったことはある。でもそれは、メアの方が魔王としての適正が高かったからでしょう?違うっていうの?」
キール「確かに、メアは魔王の器たるに相応しい才能を持っています………しかし魔王シア、彼は化け物です。」
ルシア「化け物って…」
キール「『情動操作』に『精神麻痺』……そして『記憶切断』。今まで誰も持ち得なかった力を、思い出を塗り替えることの出来るその力を持っている。…それを幼い頃からメアに使い続けています。」
ルシア「ちょっ…、ちょっとまって!?そんな、そんなことしたらメアの思い出は………」
キール「彼女の思い出は、もうずっと前から魔王シアの作った偽物……兄の創った偽物の世界で生きているのですよ。」
ルシア「なっ………ん、で」
キール「本人曰く、メアを幸福にしたいのだそうです。」
キールは遠くを見つめ、他人のように言う。
ルシア「…違うよ。違う。そんなの、メアの……あのこの幸せじゃない。」
キール「そう。」
ルシア「…違う……そんなの、間違ってるっ…………あんたは、あんたは止めようと思わなかったの!?」
キール「思ったに決まっている!!」
ルシア「っ、」
キール「そろそろいい加減にしろよ天使僕も限界だ…僕がこの100年間どれだけ努力して情報を得ていたと思っているんだ…!!」
ルシア「……ごめんなさ…」
ルシア「魔王シアに………直接、」
キール「直訴しに行こうというのか?そんなことをすれば次にメアの記憶から消えるのはあなたになるんだぞ!!」
ルシア「そ、そんなのっ…………やってみなきゃわからな……」
キール「僕は既に一度メアの記憶から消えている。」
ルシア「…ぇ、そんな、」
キール「百年前の話……とはいえ、その時からすでに魔王シアの力は絶大だったという訳だ。」
キール「正直に言おうルシア。僕はメアが好きだ。愛している。百年前出会った時から一目惚れだった。それから毎日、彼女のことを思わなかった日はない。」
キール「…だからもう、忘れられたくないんだ。もう嫌なんだ。こんな思いは、もう……」
ルシア「……だから、諦めるの?」
キール「それしかないだろう!?僕だって根本は魔王シアと同じだ!!メアを悲しませたくない!メアに幸せでいて欲しい!あいつのやり方は間違っているし正すべきだと思っている…!!……でも、心のどこかで、そういうやり方もあると納得しかけている自分がいる…それが無性に…」
ルシア「……悔しい?」
キール「……ああ。」




