108
ルシア「これが……人間の街。」
リキ「思ってたのと違う?」
ルシア「わりと。こんなに進歩しているなんて、知らなかったわ。」
リキ「そっか。なら楽しめそうだな!」
ほら、またそうやって笑うの。
リキ「どこか行ってみたいところとかあるか?」
ルシア「初めて来たんだし、ないに決まって……ぁ、」
こんな時でも、あなたのことを考えてしまう。
ルシア「………美味しい食べ物のお店、とか。」
お土産を買って帰ったら、あなたが喜ぶかなって。
元のあなたに戻ってくれるかなって。
リキ「おっしゃ!食いもんな〜だったら………」
聞こえないや。
私、何やってるんだろ。
リキ「………ァ、ルシア!」
ルシア「………あ、」
リキ「おいおい、ぼーっとしてると危ないぜ?ちゃんと着いてこいよ。」
そうして手を引かれた。
私がこの人間の集う場所で襲われても、リキが危険だと思うようなことにはならないだろう。
でも、私はこの場所で、私以外の全てが弱い人間の街で。
誰よりも弱かった。
リキ「…ぅおっ……とと、おい、大丈夫かルシア?」
ルシア「…………結局、したかった話もしなきゃいけなかった話も、してないのを分かっていてまだいいやって放置して。」
リキ「ルシア……?」
ルシア「その結果がこれよ!みんな、みんな……おかしくなっちゃった…」
あぁ、どうしよう。
何もかももう遅いんじゃないかと思うと、怖くてたまらない。
ルシア「…私しか、知らないの……」
リキ、あなたの知っていた魔王は。
あなたが好きだった魔王は。
もう、私の記憶の中にしかいないのよ。




