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ルシア「久しぶりね。」
懐かしい悪魔がやってきた。
でも、心の底で望んでいた人物とは違う。
もう俺はそれが誰だったか思い出せない。
「…そうか?お前達悪魔の基準じゃ久しぶりじゃないんじゃなかったか。」
思わず嫌味が口をついて出た。
別に会いたくなかったわけじゃない。
むしろ会いたかった。
もう一度会って、この心に空いた穴の意味を知りたかった。
ルシア「そうだったかしら。……忘れたわ。」
そう言って彼女は悲しそうに微笑んだ。
その時、彼女は世界一美しい天使のように見えた。
思わず、涙が零れてしまうほどに。
ルシア「…どうしたの?」
きっと、彼女はわかっているんだ。
俺の悲しみを。
俺の虚しさを。
「……あの時から、ずっと…ずっと考えてたんだ。ずっとずっと誰かが来るのを待っているんだ。それが誰だかわからないんだ…」
ルシア「うん。」
「なぁ、教えてくれよ。俺は、一体…誰を忘れてしまったんだっ……?」
大切な人だったはずなんだ。
だってこんなにも心が苦しい。
きっと俺のせいなんだ。
俺の弱さが、その人を忘れさせた。
「………俺が、もっと強ければ…」
俺にもっと力があれば。
俺が、ただの人間じゃなければ。
……俺が悪魔であれば。
変えることのできないイフを恨んで泣いた。
ルシア「それ以上はだめよ。」
突然、ふわりと悪魔に抱きしめられた。
けれど溢れる涙は止まらない。
なにがだめだというのか。
ルシア「貴方は人であったから彼女に会うことが出来たの。それは私も同じ。私も……元天使でなければ彼女と出会うことはなかったかもしれない。」
ルシア「今は頭をからにしなさい。でないと……神に目をつけられるわ。」
そう言って俺の頭を撫でる。
神………神か……神なら、俺をその人と同じに…してくれるだろう、か……
ルシア「……おやすみ、リキ。今はゆっくり休んで。間違っても、神になんて祈らないで。」




