10 特権だった
魔王様のお世話係という職に着いてから、かなり濃い生活を送ってきたと思う。
朝の弱い魔王様をたたき起こして、服を着替えさせて、仕事をさせて、料理を持ってきて、お出かけに付き合わされて、お風呂に入れて、眠そうにしているところをまたたたき起こして。
自我の強い魔王様に振り回されてばかりの日々だが、それを嫌だと思ったことは一度もない。
彼女の生活に自分がいることが、とても嬉しかった。
魔王様は、ご自分が思われているよりも配下からの信頼が厚い。
その中で僕が一番魔王様を知っているという優越感は、どうしても拭えなかった。
「ルイ〜私ねぇ〜、クレイが好きなんだぁ〜」
いつしか寝ぼけまなこで魔王様はそう言った。まぁ言わなくてもわかりやすい方なので知ってはいたが。
悔しかった。
魔王様を一番理解しているのは自分なのに。
弱音も愚痴も、ほかの配下には語れない話をずっとずっと聞いてきたはずなのに。
どうして僕じゃないんだ。
それでもよかった。魔王様が幸せなら、他はどうでもいい。
けれど……
クレイは魔王様を傷つけた。苦しめた。この胸の内に広がる憎悪は、決して拭えはしない。
荒く息を吐く魔王様を見る。眠っているが、苦しそうに咳き込み、うなされている。
「魔王様……」
魔王様の額に手を添える。
嗚呼、僕が貴方の苦痛を引き受けられればいいのに。
大丈夫、ルイが悲しむ必要はないんだよ。
そう言われた気がした。




