忌み子2
180は超えるであろう身長に、ゴリラの様な体格。
ライオンの様な髪型に、殺人鬼の様な鋭い眼光。
その父親は俺を見るなり、岩の様な拳で殴りかかってきた。
しかしその拳は顔前でピタリと止まる。
風圧のみが、俺の髪を揺らした。
「お久しぶりです、父上。」
「おぉ、昨年までは泣き喚いていた童が強くなった様だな!」
黒袴にライオンの様な金髪。
父上は笑顔で俺を抱きかかえ、満面の笑みを零す。
「久しいな、冬夜!」
ワシャワシャと髪を乱されるが、どこか心地良い。
それにこの安定感のある体格。
分家の立場の父上が今神宮院家で潰されていない理由が分かる。
「見ない間にまたデカくなりおって!」
「父上には負けますよ。」
「ほぅ!口も達者になったな!」
俺の成長ぶりに少し驚きつつも、まぁ着いてこいと促され玄関を出る。
お辞儀をしながら見送る花江さんに手を振り着いていくと、門の前に黒塗りの車が停車していた。
「今日はお前の門出の日だからな、本家へ行くぞ。」
運転手に挨拶しつつ後部座席に乗りながら、そういえばそんな行事もあったなと思い出す。
神宮院家に限らず、陰陽師の家系の者ならば必ず五歳の誕生日に「契約ノ儀」を行う。
(やっと式神と契約出来るのか。)
陰陽師にありがちな式神。
しかしそれはマンガやアニメ等とは少し違う。
一人につき一体のみ。
それが式神の決まり事。
よくある人形の紙に、式神を降ろすのだ。
その式神の階級に従って戦闘力からその家での地位まで変わってくる。
「父上や母上の期待に答えられるよう頑張ります!」
俺はそう笑顔で答えた。
※
本家に踏み入った俺は、着替えを済ませて宴会場の様な広間に父上と共に通される。
中には神宮院家の有力者やその子供達が座り、どうやら俺達を待って居たようだ。
「さて剛弥よ、そこの忌み子を連れて参れ。」
嫌味ったらしく俺と父を呼ぶのはこの家一番の権力者である、神宮院 トキ。
御歳75歳にもなる俺の婆ちゃんだ。
お辞儀をし、婆ちゃんの方へ歩く。
「冬夜よ、久しぶりじゃな。」
耳元で婆ちゃんが囁く。
そう、婆ちゃんは俺の味方なのだ。
そりゃそうだろう、直系の孫なのだから。
しかし、他の皆の前では冷たくせざるを得ないのだ。
「さて、今日は神宮院 冬夜の契約の儀。しかと皆で刮目してやろうぞ。」
皆の冷たい目線が俺に突き刺さる。
渡された人形の紙「形代」に祝詞を書き込み、陰陽師の力の根源とも言える気を込める。
形代は一瞬光り、そして静まる。
しかし、それ以外何も起こらなかった。
「なんと、忌み子は陰陽の力も使えないのか!!」
誰かが発した言葉に一同が騒ぎ出す。
こころなしか、婆ちゃんと父上も曇った顔をしている気がする。
「そんな厄介者、今すぐ間引くべきだ!!」
「そーだそーだ!!神宮院家の面汚しめ!!!」
騒ぐ面々。
皆一様に立ち上がり、俺の事を好き勝手罵る。
「静まれいッッ!!!!!」
空気を震わす父の声。
拳を握り締め、唇も噛み締めている。
一瞬で広間は静まり返った。
婆ちゃんも、見る人にしかわからないくらいに額に青筋を浮かべて震えていた。
自分の子、孫が罵られて良い気持ちになる奴なんて極めて僅かだろう。
それが理解出来る今の俺は、少し申し訳無い気持ちになっていた。
そんな中、婆ちゃんが口を開く。
「神宮院 冬夜は、これより先も私の別邸で庇護の身とする。」
一同に動揺が広がる。
居ても魑魅魍魎を引き寄せる忌み子で、陰陽師として働く事も出来ぬ者を一生守っていくと言ったのだ。
「トキ様、不精ながら何故その様な忌み子を守るのでしょうか?神宮院家の名を汚す行為に取れまする。」
一人の髭面の男が声を挙げた。
「晴彦か。不服があるなら申してみよ。」
「では有難く。この先もその忌み子を守るというのならば、皆を納得させる形にして頂きたい。」
「ほう?何か案があるのかい?」
「えぇ、うちの夏希と勝負をさせ、少しでも役に立つのを証明出来るのならば皆も納得出来るかと。」
晴彦の言葉に、婆ちゃんと父も今にも怒鳴りそうだったのを俺が手で制す。
(全く、ここん家の人間は血気盛ん過ぎやしないか?)
「いいでしょう、その勝負を受けます。」
その一言で、晴彦を筆頭に神宮院家一同は驚いた顔をする。
何故ならば、忌み子として扱われていた冬夜は消極的で無口な子と伝わって居たからだ。
それに、なんの力も無いときた。
驚かない方がおかしいまである。
その証拠に、婆ちゃんも驚いている。
父上だけは最初のやり取りから何かを感じ取っているようだが。
「フン、やる気だけはある様だな。だが、貴様に勝ち目は無いぞ?いいのか?」
ニヤニヤしながら晴彦が言う。
短髪黒髪の少年、夏希もこちらを下卑た視線で見ている。
それもそのはず。
隔離されていた俺の耳にも夏希の噂は届いている。
神宮院家始まって以来の逸材だと。
普通ならば勝ち目は無い。
そう、昨日までならばだ。
俺は心を込めてあの言葉を言う。
「ステータスオープン!!」
名前:神宮院 冬夜
種族:人間
level:1
HP/MP 9999/9999
STR:999
VIT :999
DEX:999
AGI :999
WIS :999
【所持スキル】
全属性攻撃up
全属性耐性up
全属性魔法攻撃up
状態異常無効
創造神の加護
想像神の加護
オリンポスの祝福
etc...
【称号】
救世主 勇者 賢者 魔導師 聖者 王 魔王 剣聖 etc...
「まぁ、今の俺はこんなもんか。」
目の前に映ったウィンドウには、転生常連者としての実績が残されている。
陰陽師の子供ごときに、このステータスで負けるはずが無い。
思わず少し頬が緩んでしまう。
「すてぃたす???」
晴彦は聞きなれない言葉に首を傾げている。
もちろんこのウィンドウは晴彦達には見えない。
「どうしました?やらないんですか?」
こちらを睨む夏希に向けて放つ。
夏希には悪いが、この勝負に負けはない。
(まぁ、この身体がこのステータスに耐えられたらの話だがな。)
「こ、後悔しても知らないからな!!!」
冬夜の挑発に激昂した夏希は叫んでいた。
それが自分の首を絞めるとも知らずに。