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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

諦めの悪い小幡くんと流されやすい高崎くん

作者: 雪佳

 「先輩、ポッキーゲームしませんか?」


夕方の校舎。他に誰もいない生徒会室で後輩である書記の小幡くんが突然そう言い出した。




「ポッキーゲーム?」

「お互いにポッキーを食べて、たくさん食べられた方が勝ちってゲームですよ」


机にバン、と手を置いて身を乗り出して熱弁する小幡くん。

興味ない風を装って卓上の書類をまとめているが、実は俺だって知っている。


(そんな殊勝なゲームじゃないだろう)


異性間の接触を狙って行われるアレだろう。

知ってるんだぞ俺だってこれでも。

両端からそれぞれ口をつけた2人がサクサク食べ進めて、最終的に唇と唇が触れるのを狙うやつだろう。

知ってるんだぞ、俺だってそれくらい。

とんとん、と書類を机に叩いてそろえて、気のない風を装って立ち上がる俺に、小幡くんは諦めない。


「ね、先輩ポッキーゲームしましょうってばぁ」


棚に書類を仕舞う俺の背中にじりじり近づいてくる気配を感じる。

生徒会の役員会議の時はずぅっと黙っていたくせに、2人きりになるとこれだ。べったり背中にくっつこうとするのはさっと踵を返して阻止する。

となると、顔と顔を見合わせる事になる事に、そうなってから気がついた。

俺よりも高い身長だから、自然と上を見る形になる。その目もおねがい、と言っているのをばっちり見てしまった。


(危ない危ない。流されてはいけない)


耐えろ修一。


「なんだって俺とポッキーゲームがしたいんだ君は」

「先輩と仲良くなりたいんだって言ってるじゃないですか、全く。何回言わせたら気が済むんです?」


ぷくっと頬を膨らませる姿がリスみたいで可愛い、と確か副会長の篠田が語っていたのを思い出した。

俺には駄々をこねる幼い子供にしか見えない。というより、そんな幼い子供を装っている腹黒い大人にしか見えない。


(知ってんだぞ俺は)


君、昨日うっかり飲み物忘れちゃったんです。って言いながら俺の飲みかけのお茶飲んだよな。

その後、鞄にオレンジジュースのボトル入ってるの見たぞ。計画的犯行で間接キスを奪った前科持ちは不満そうな声を漏らして抗議する。


「先輩もポッキー食べられてwin-winじゃないですか」

「ならそれぞれで食べよう」

「もう、先輩ったらつれないなー」


悲しい、なんて言いながら鞄の中を漁る小幡くん。そんなにポッキーゲームをしたいなら、そこらの女子や男子に頼めば良いのに。

君のファンクラブがある事だって知ってるんだぞこっちは。


(なんだってこんなに好かれてるんだかなあ)


なんの身に覚えも無い。しかし、小幡くんに好かれている事だけは分かる。

いつからこんな事になっていたかは、ちょっと思い出せない。


「はい、どうぞ」


いかにも不満です、とばかりにポッキーを差し出される。さすがに手から食べる、訳にはいかないので受け取る。

小幡くんは先ほどまでの異様な執着を忘れたかのように、1人でぽりぽり食べている。


(諦めてくれたのか)


ホッとして、もらったポッキーを食べる。随分久しぶりに食べた気がした。

向こう側から食いつかれたらどうしよう、かとハラハラしていたが、さすがに小幡くんもその気は無かったようだ。

一本を無事に食べきる事に成功した。


「ごちそうさま。じゃあ、俺はそろそろ」

「待って下さい」


帰るよ、と言おうとした所を腕を捕まれる。諦めたんじゃなかったのか小幡くん。


「あーん、させて下さい」

「いやそれはちょっと」

「ひどい!ポッキー代にあーんして下さいって言ってるだけなのに」


だってそれ明らかに下心あるだろ君。

腕を振りほどきたいが、しっかり捕まれているので振りほどけない。


(これはきっとやるまで離してもらえないだろうな)


それでも彼はそれを苦痛にも感じないだろう。俺と一緒にいられる時間が長くなって嬉しいです、くらいの事は言ってのけるはずだ。

仕方ない。ポッキーの一本や二本、あーんしてやろうではないか。


「分かったよ」

「さっすが先輩!じゃあこれお願いしますね」


さっとポッキーを渡される。そして、あーん、と口を開いた。俺の手を掴んでいない方の手で、早く早く、と口の中を指さしている。


「ほら、いくぞ」


はいあーん。小幡くんの口にポッキーの端を入れたその時。ぐいっと手を捕まれて引き寄せられる。そのまま、口に催促していた手に顎を捕まれて驚きに空いた口にポッキーの持ち手が差し込まれ、銜えさせられていた。


(こいつぅぅぅううう!)


さくさくさくさく。小幡くんの唇がポッキーの上を滑るように近づいてくる。俺は手持ちのクッキー部分を銜えているだけで動けない。むしろ首をそらしたいが、顎を捕まれているのでできない。

さくさくさくさく。いよいよ真ん中を過ぎた。これはもうこのまま顔が近づいてくるのではないか。


(このままキスされたらどうしよう)


どうしようどうしよう。不本意極まりない。

ドッドッドッド。心臓が警報のように騒いでいる。


小幡くんのまつげ、思っていたより長い。


そこに気づいた瞬間。

さくり、と唇から数センチの所でポッキーが折れた。


耳に心臓が移動したのか?というくらいに自分の鼓動が大きく聞こえる。

助かった、と言ったら小幡くんは気を悪くするんだろうが、気が抜けて動けない。


「ごちそうさまです」


うふふ。上機嫌な小幡くんからようやく顎が解放された。すぐさま距離を取る体の条件反射。


「先輩ってば、目、大きくさせて面白い顔してましたよ」


良い物見せてもらったんで、あとこれあげますね。ポッキーの赤い箱が手に押し込まれる。

にこにこ、というよりにやにや、が相応しい表情をして小幡くんは生徒会室から去って行った。


(とんでもない男だ)


手に持たされたポッキーをどんな顔をして食べれば良いというのか。

顔が熱くて、堪らない。



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