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1.金の御殿

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プロローグ

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『俺は本当はもっとやれるはずなんだ……!』


 岸間がんま 大心だいしんは、その格好のいい名前からは想像のできないレベルの屑だった。小学校の時から友達の財布を盗んでいた岸間は、中学でいじめられ不登校に。そのままひきこもりながらフリーターをやり、今この時彼は45才の誕生日を迎えた。ネットでは「こどおじ」と煽られ、そのストレスは親に向かった。彼が床をドンドンと蹴るのは、「飯はまだか」という70代になる母親への合図だ。


 50-80問題という言葉がある。つまり、50代になる子が80代の親を介護する、というものだ。親の年金によって生きている彼にとって、それは約束された未来であり、決して他人ごとではなかった。かといって、彼には正社員になろうという気はさらさらないようだった。


 彼は暇を持て余してネットでのギャンブルにはまっていた。巷では「ビットコイン」なるものが流行っている。彼は上がり続けるビットコインに家の全資産をつぎ込んだ空売りをして、大損をぶっこいてしまった。焦りがそうさせたのだろうか。莫大な借金を背負った今となっては、それはもうどうでもいいことだった。


『リセットだ……!』


 ゲーム脳の彼が至った結論はそれだった。そして、彼は首を吊った。



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異世界で高利貸しが暴利をむさぼるようです


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 淡い日の光に目が覚めた。大心は涼やかな風の吹く大草原の丘に横たわっていた。気持ちのいい風が頬を撫でる。大心はしばらくその風を堪能していたのだが、数十分経った頃だろうか。素朴な疑問を口にした。


「どこだここは……?」


 俺は確か自殺したはずじゃなかったか?とするとここは天国?前世での俺の行いはとてもすばらしいものだった。「こどおじ」という煽りにも負けず、年下の正社員の上司のいびりにも負けず、必死に生きてきた。だからこそ天に召されたのだろう。


 大心はあたりを見回した。丘のふもとに、街を取り囲む城壁が見おろせた。城壁があるということは、天国といえども、戦争と無縁ではないようだ。彼は早速街の入り口の門に並ぶ馬車の列に加わった。自分の番が来て、入ろうとすると門番に止められた。


「おい、止まれ。変な格好をしているが、通行証はないのか。」


「通行証?なんだそれは」


 若い門番の不遜な態度に、つい悪態をつく。といっても、相手は武装している。あまり強くは出られなかった。


「知らないのか。それならそっちにギルドがあるから、手続きをしてくれ。」


 ギルドは街の入り口の近くにあった。街の中は中世のような古びた建物が並んでいる。天国には金がないのだろうか。門番にギルドの受付に連れていかれた。


「このものには通行証がないようだから、身分証明を発行してくれ。」

「わかりました」


 受付は愛想よく答える。そして変な機械をこっちに向けてきた。


「おい、何をする」

「今からギルドカードを発行します。じっとしていてください」


 機械の色が変わっていき、カードが浮かび上がった。変なところだけ技術が進んでいるようだ。そしてカードを渡された。


「犯罪歴などはなく問題ありません。これが身分証として使えます。クエストはそこの掲示板に張り出されているので、気に入ったものがあればもってきてください」


 いつの間にか門番は去っていた。掲示板をのぞいてみると、薬草採取やスライム退治などのクエストがあった。薬草採取が難易度Gとあり、簡単そうなので受けることにすると、受付から地図と薬草の絵や特徴が書いた紙が渡された。大心はネットゲームをやりこんでいてスキルだけはあったので、ここのルールにもはやく順応することができたのだ。クエストの報酬は基本給の500G+薬草グラム×10Gだ。1G=1円くらいのレートなので、1kgくらいは欲しい。早速薬草があるという街はずれの丘に向かった。


 道中スライムを発見する。大心は武器を持っていなかったので、これをスルーした。初見は回避が鉄則なのだ。そして丘に薬草が生い茂っているのを確認すると採取をした。帰り道にも同じスライムがまだいたが、スルー。今は金だ。食費、宿代を稼がなくてはならない。武器を手に入れるまでスライムは放置だ。何を得るかではなく何を捨てるか、だ。今はスライム狩りを捨てる。


 ギルドで測ると薬草は1.2kgあった。かなり頑張ったので、むしろ少ないぐらいだと感じた。とはいえ、初日に12,500Gというのは上出来だろう。支払いはギルドカードで行われた。さながら現代のキャッシュレスのようだ。ギルドカード回りだけ妙に時代が進んでいるのを若干不審に思ったが、ここは天国だということを思い出し納得した。


「腹が減ったな」


 ギルドの外に出ると日が傾いていた。一日中飲まず食わずで働いたし、宿も探さなければならない。そんな時、目の前を馬車が通りすぎるのを見た。


「奴隷……?」


 馬車のなかには首輪をつけられた人たちが乗っていた。話には聞いたことがあったが、現代の平和な日本を生きてきた大心にとって、間近で見るのははじめてだった。現実離れした「リアル」の生々しさに、大心は道端に歩いて行き、吐いた。


「クソ、ここは天国なんかじゃねぇ・・・異世界だ!」


大心がそう悟るには十分すぎる光景だった。


 その後、宿を見つけたが食事が出ないようだったので、外で食べた。異世界外食である。価格は1,000G程度で日本とほぼ同じだ。宿代は一泊5,000Gだった。払い終わると手元には6,500Gが残ったが、明日も働かなければならないと考えると憂鬱だった。しかし働きつかれていたので、すぐに眠ってしまった。


 翌朝、水浴びを済ますとモーニングを外でとり(800G)、武器屋を探した。残り5,700Gで手ごろな武器を買って、昨日のスライムを狩りたい。しかし、宿の受付に聞くと、街にあった武器屋は最近つぶれたようだった。冒険者が少ないため売り上げがよくなかったようだ。そのため、武器屋の主人は登録料が払えず奴隷となったようだ。登録料が払えないと奴隷になるというのは不可解だったが、それを聞くと当たり前だと笑われたのでそれ以上聞けなかった。


 

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