こういうことをするのは大体身内
僕を捕獲した魔王はその翼で空を駆け、そのまま魔王城へ僕を連れて行く――――――わけではなく、どこかの洞窟に降り立った。
地面に降りた魔王は僕をゆっくりと降ろすと、その仮面を外す。
そして、その顔を僕のおなかに押し当てて息を大きく吸い始めた。
僕は飛んでいる最中にどこからか現れた触手にとらわれてしまっているので抵抗はできない。
同時に、僕の目の前にハラスメント防止のための設定をオンにするかというウィンドウが開いた。
女性にこうしてべったりされるというのは悪い気はしないが、僕にはもう心に決めた女性がいるのでNGだ。
それと同時に、僕のおなかに頭をつけていた女性は弾かれて後ろに飛ばされる。
「っなんで!?」
「いや、何でも何も見知らぬ人のおなかに顔を突っ込む人はハラスメントコードに引っ掛かりますよね!?」
「くっ、こうなったら箱に入れて愛で続けるだけで勘弁してあげる!」
魔王は悔しそうに僕を洞窟の奥に連れて行った。
その先には、急ごしらえの牢屋のようなものがあった。
僕はその中に放り込まれた。
「これからずっと愛でてあげるわ。覚悟しなさいよね」
魔王はそう言って踵を返して洞窟の外へと向かって歩いていく。
その背中に向かって、僕は声をかけた。
「そういえば響、GWの宿題ってもう終わった?」
「うっ、まだだけど……じゃない!! な、何のことかしら?」
「やっぱり、響だったか……」
初めからおかしいと思っていたのだ。
百歩譲って魔王なのはいいとして、僕のことを聖女と呼んだのが初めに違和感を得た部分だ。
それに、今日僕があの場にいるというのを知っているのも僕とソアラを除いたら響だけだ。
この条件がそろえば、魔王という自称もまた意味を成してくる。
響が引いた縛り内容は”残忍な魔王”だからだ。
つまり、響は仮面などで自分の正体を隠しているつもりだったのかもしれないけど、行動のせいでバレバレだったということだ。
普段の僕は目が見えないから、現実世界での響の顔は知らない。
だからもし、そのアバターが現実の顔そのままだったとしても気づけなかっただろう。
だから響は、顔ではなく行動に気を付けるべきだったのだ。
「ばれてしまっては仕方がない。私は魔王にしてあなたの妹、マザー=レゾナンスである。魔王を前に頭が高いぞぉ」
魔王改め、響改め、マザー=レゾナンスは何やら光魔法格好いいポーズをとりながらそう名乗りを上げた。
とりあえず、僕たちの苗字が母屋だからマザーで響⇒共鳴⇒レゾナンスという感じに名前を付けたんだろうなとだけ思った。
「それで、マザー=レゾナンス……長いからマザーでいいや…マザーは僕をここに閉じ込めてどうするつもりなのさ」
「くくく、魔王が聖女を捕まえたらやることは一つしかないわ。聖女を性女へと転職させるためにあんなことやこんなことをするのさ……あと、マザーはかわいくないからレナって呼んでお姉ちゃん」
「ん、了解。でも、あんなこともこんなこともシステム的にできないよね?」
「……う、うるさい。お前はもう籠の中の鳥なのよ。これから覚悟しておくことね」
「そう、それと、一ついいかな?」
「な、なに?」
「どうやら、お迎えが来たみたいだから僕はそろそろ帰らせてもらうよ」
「え? きゃぁ!」
僕と会話を続けるマザー=レゾナンス改めレナは突然後ろから切りかかられたため、悲鳴を上げて前へ転げる。
それで何とか攻撃は回避できたが、大きな隙を晒してしまうこととなった。
レナに攻撃したその人物が、その大きな隙を見逃すはずはない。
手に持った剣を振り上げ、転げているレナに剣を振り下ろした。
「っ、ゴーレム!!」
レナが叫ぶと、レナの背中から岩でできた腕が現れてその一撃を防ぐ。
その間にレナは立ち上がり体勢を立て直す。
そして、襲撃者の正体を見た。
「あなたはいったい誰なのかしら?」
「あ、その人さっきの鎧の中身」
見覚えがなかったから聞いたレナに、僕は後ろから補足をしてあげる。
そう、襲撃者の正体は先ほど廃墟に取り残された男、ソアラであった。
ソアラは重厚な漆黒の鎧を脱ぎ去り、レナを追いかけてここまで来たのだ。
何故鎧を脱いだのかは僕にもわからないけど、一度その顔を見ていたから誰なのかはすぐにわかった。
「来てくれたんだねソアラ。このままだと僕はここで監禁生活を送ることになるところだったよ」
「……最悪、死ねば街に戻れるけどな」
「やだなぁ、自殺もNGに決まっているじゃない」
再開した僕たちは軽い言葉をかけあいながらも、無事を喜んだ。
ただ、その展開を面白くないと思っている人物が一人。
「どうやってここまで!? ここに来るまでには大きな川があるからたどり着くのは容易でないはずなのに」
「……飛んできた」
ソアラはレナの疑問に簡潔に答えた。
そして、その証拠を見せるかのようにその体を蝙蝠に変える。
ソアラはダンピール、半吸血鬼だったからか体を蝙蝠に変じられるみたいだった。
その能力を使ってここまで追いかけてきてくれたのだろう。
そして、鎧は飛ぶのに邪魔だから脱いだのだ。
僕がひそかに感じていた疑問が今のやり取りで解消されたと同時に、ソアラが動いた。
人の姿に戻り即座にレナに切りかかる。
それを見た僕はあれ?と違和感を覚える。
今まで見てきたソアラの攻撃と比べて、明らかに避けやすそうなものだったからだ。
僕の思った通り、響は横に飛ぶことで簡単にそれを避けた。
そしてソアラはそのまま剣を振りぬき―――――僕を閉じ込めている牢屋の格子を数本、真っ二つに切り裂いた。
「嘘っ、切れるの!?」
「……剣王で鉄を切れない者は存在しない」
ソアラが格子を切ってくれたので僕は牢屋の外に出ることができた。
素早く外に出て、僕も加勢と構える。
「レナ、これで形勢逆転だね。君を手にかけるわけにはいかないから僕としては逃げてほしいんだけど」
「冗談、チョーっと不利になっちゃっただけ、ここからそこの男を排除してまた捕まえてあげるわ」
縛り上げ、レナを倒してはいおしまいとはならないから逃げてほしかったんだけど、それがわかっているのかレナは抗戦を選択。
レナが拳を構えると、その腕が骨に覆われる。
「何度か見たけど、どうなっているのアレ?」
「……まだ確かなことは言えん。情報を引き出すぞ」
レナの体は棒立ちで、骨の腕だけがソアラに向けて伸ばされた。
ソアラはそれを剣で受け流す。
次は反撃だ―――と思ってみていたら、受け流された骨の腕の中腹くらいから僕を攫った時にも見た骨の蛇がソアラに向けて首を伸ばす。
それはもう見た、と言わんばかりにソアラはやすやすとそれを回避する。
だけど、レナの猛攻はそれでは終わらない。
なんと、骨の蛇から今度は腐った腕が伸びてきたのだ。
まずい、僕はそう思ったが、ソアラはそれも予想していたのだろう。
戻した剣で骨の蛇を叩いて弾き飛ばし、腐った腕を遠ざける。
そこで、僕の『生命回帰』が発動する。
対称はレナの両腕を覆う骨の腕だ。
骨ってことはおそらくアンデッドだ。
回復魔法が効くはずだ。
僕の予想は正しく、骨の腕がボロボロと崩れ始める。
腕しかないから耐久力は低い?
そう考えるのもつかの間、骨の腕の下から先ほども見た岩石の腕が生えてくる。
「ねぇソアラ、あれ一体どういうことなの!?」
「……本体を叩かなければいけないことだけはわかった。多少無理にでも近づくぞ」
「うふふっ、あなたたちに私を倒すことができるかしら?」
レナがそう言うと、彼女の周りを白い繭が覆った。
繭は半透明で、レナの姿はこちらからでも見える。
そしてその姿は、岩の両腕を持っていたレナではなく、僕と会話をしていた時と同じただの女の子の姿のレナだった。
ただし、その両腕には竪琴が抱かれている。
そして、先ほどまでレナの腕にくっついていた岩の腕は繭の外周から生えていた。
何をするつもりだ?
そう思うより先にレナが動いた。
レナが竪琴を弾き始めたのだ。
戦闘中に演奏?と一瞬疑問に思ったが、何らおかしなことではないと気づく僕。
これはゲームだから、あの演奏に何ら頭の効果があってもおかしなことではないからだ。
どんな効果が出ているのか、現状ではわからない。
だから僕たちは当初の予定通り、レナに近づくことにした。
「もう少しで攻撃が届く!!」
「……あぁ、だが、これは……?」
「どうしたのソアラ!?」
ここまで快進撃を続けてきていたソアラの動きが急に悪くなった。
僕の体も重くなったような気がする。
また、急にレナの攻撃が苛烈になった。
これにより、少しずつではあるけど前に進んでいた僕たちの足が完全に止まった。
繭の外周から触手が生え、触手の先端にはゾンビの顔がついていてかみついてくる。
岩の右腕の前腕から刃が生えたかと思うと、左腕の前腕から水が噴き出してきてその水が意志を持って襲い掛かってくる。
しかし、先ほどからの魔物を用いた攻撃――――あまりにも多様性が過ぎる。
レナもゲームを始めたタイミングは僕と同じ、僕が不殺のせいでレベル上げが遅れていたのがあったとしても、せいぜいソアラよりレベルが少し高いくらいで落ち着ているはず。
そんな中で僕たちを圧倒できるほどの攻撃性能。
これは異常なことだ。
ソアラは普通に育成していると思われる高レベルプレイヤー相手にも余裕で対処できる実力を持った人間だ。
そのソアラが防戦一方になるほどの飽和攻撃。
これにはからくりがあるはずだ。
僕がそれを解き明かさなければいけない。
ソアラは必死に防いでくれているが、このままではじり貧だった。
「どうしたの? 私に近づいて切り刻むんじゃなかったの?」
レナの指が竪琴の弦に触れる。
ポロン、ポロンと音を立てるたびにレナの攻撃が強くなっているように思える。
苛烈な攻撃を防ぎ続けてくれたソアラだったが、ついにゾンビの頭から唐突に表れたゴーストにまとわりつかれその対処に追われた瞬間に刃のついた岩の腕が直撃して後ろに吹き飛ばされた。
そして、盾を失った僕も触手の先から突然現れた拳に殴り飛ばされる。
その攻撃を食らって、僕の中に一つの可能性が生まれた。
僕たちは、大きく吹き飛ばされて壁に激突して落ちた。
偶然にも僕たちは、同じ場所に落ちてソアラが僕の下敷きになる。
「わわっ、ごめん」
僕は素早く立ち上がりソアラを自由にしてあげる。
「……レティ、何かわかったか?」
ソアラは素早く身を起こしながら僕にそう聞いてくる。
「とりあえず、あの唐突に出てくる魔物のほうは何となくって感じかな? ソアラのほうは?」
「……音の意味は何となく、といった感じだな。あれは弦一本一本にそれぞれ効果がある支援武器だ」
「つまり、どういうこと?」
「……音を鳴らせばこちらが弱まり、あちらが強くなる。以上」
「……対処法は?」
「……音を止めること――――だろうが…」
「繭で最低限の安全を確保しているから難しいってことね」
「……攻撃の正体は?」
「あれは多分だけど召喚術。召喚術で呼び出した魔物を起点に別の魔物を呼び出して攻撃させることであの異常な攻撃性能を生み出している」
「……つまり、どうすれば勝てる?」
「本体の性能はそれこそ無振りレベルで低いはず。一撃でもまともに攻撃が入ればもう動けない。だけど、問題もある」
「……耐久力が低すぎて殺してしまうかもしれない…ということか?」
「うん、だけどソアラの状態異常特化の武器ならもしくは」
「……あぁ、殺さなくて済むだろうな。それで、魔物の攻撃の対処法は?」
「見かけに騙されない。ソアラ、僕に気にせず信じてまっすぐ走って」
「……わかった。期待している」
僕たちはこれまで戦ってきた中で読み取った情報を交換して素早く作戦を立ててそれを実行に移す。
ソアラは、僕を置いて一人繭の中にいるレナに向かって走り始める。
「破れかぶれの突貫ってわけね。いいわ、相手してあげる」
近づくソアラにレナは猛攻を加える。
そして、僕にはほとんど攻撃が飛んでこなかった。
やっぱりだ。
レナの攻撃には射程がある。
先ほどからずっとレナの召喚する魔物は体の一部しかなかった。
だからそれ単体で動くことができず、何かにくっつく形で召喚されていた。
だから、ある程度離れると攻撃が容易ではなくなる。
そして、繭に覆われることによって防御力を得たレナだけどその代わりに移動を捨てている。
結果、距離を取れば攻撃はほとんど届かない。
先ほど、壁に当たって二人とも倒れたときにとどめを刺されなかったのもこれが理由だ。
「ソアラに『守護の加護』を」
僕は攻撃の脅威がほとんどない場所からソアラに加護を与える。
僕を信じているソアラは防御を考えていない。
致命傷になりそうなものだけを回避して前進を続ける。
「ふんっ、その調子じゃあすぐに体力が尽きて終わりよ」
「そうはさせない!」
ソアラが被弾してHPが減ったら僕が『生命の抱擁』で回復させる。ソアラはダンピールの種族特性で『魔法回復量低下Ⅳ』がついていて回復効果が薄いが、それでも半分は人間だからだろう。
回復魔法がちゃんと機能している。
「くっ、吹き飛ばしなさい!」
止まらないソアラに焦りを抱いたレナが杖を持った骸骨の腕を繭から生やす。
そして魔法を放とうとした。
だが、その瞬間骸骨の腕に僕の『生命回帰』が突き刺さる。
腕しかないアンデッドなんて僕の回復魔法の敵じゃないね。
モグラたたきのモグラ役程度の脅威でしかない。
「アンデッドじゃ無理ね。でも、これならどうかしら?」
次に出てきた腕はアンデッドのものではなかった。
獣のような腕だ。
そうでなくても、まだ『生命回帰』は使えないから対処はできない。
獣の腕が放った炎の魔法が、ソアラを包み込む。
ソアラのHPは僕からは見えないが、ガンガン削られているだろう。
「あははははっ、これじゃあ私のもとへたどり着く前に死んじゃうわね。あなたも災難ね。死地に飛び込ませられるのだもの」
「……大丈夫だ。レティはやってくれる」
「まったく、信頼が熱々だよソアラ」
レナからはきっと、ソアラの体力が見えているのだろう。
勝利を確信していた。
僕が『ヒール』や『プチヒール』をかけても間に合わない減少量のはずだ。
でも、僕には切り札がある。
それは『信仰魔法:慈母神Ⅲ』で習得した『生命譲渡』の魔法だ。
これは自分のHPを失わせてその分他者のHPを増やす魔法だ。
これなら、僕のHPの99%分を一瞬で回復させることができる。
「————ッ!!? これはっ」
急激に増えたHPでも見たのか、レナが焦りの表情を浮かべる。
だけどもう遅い。
鉄をも斬りさくソアラの剣がレナを守る繭を切り裂いた。
それと同時に、繭につながっていた召喚獣たちが消えていく。
そして、ソアラの剣がレナの肩を貫き、レナは動けなくなりその場に倒れ伏した。
完璧に麻痺の状態異常が入ったらしく、レナは動き出す様子はなかった。
「やった、やったよソアラぁ!!」
「……終わったな」
僕は勝利に喜びソアラに飛びついた。
彼はぶっきらぼうに一言だけこぼした。
今回は鎧がなくあまり痛くなかったので勝利の喜びを表すように強く抱きしめた。
そういえば言い忘れていました。
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皆さんこのような催促は他作品で山ほど見て飽きてきていると思いますので、今作ではこの一回のみとさせていただきます。
次回投稿は変わらず明日の正午です。