表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

本領発揮

 聖域は僕の切り札と言っても過言ではないほど強力なスキルだ。

 狙った相手を聖域内に留めておかないといけないという欠点こそ存在すれども、効果範囲内に存在している限りその効果は絶大で、今までは発動さえすれば安心を得られる最強の魔法であった。


 だが、今、それがいともたやすく破壊された。

 その事実は、僕の動きを数秒止めるに至った。


 その隙をついたエメラルダは、真っ先に僕を狙ってくる。

 幸いにも、主さんとルナルナが間に割って入り何とか妨害に成功したから何にもならなかったが、僕のショックは大きかった。

 そんな僕に、真っ先に声をかけてくれたのが主さんだった。


「おいレティ、今の聖域、次いつ使えるようになる?」

「えっと…5分後?」


「よし、なら5分経ったら再展開だ」

「でも、また無効化されるだけじゃ…」


「それでもいいんだよ。真っ先に聖域を壊したってことはそれだけ脅威だったってことだ。あの道具がどれだけあるかわからないけど、無限ってことはない。その内なくなるはずだ」

 主さんは冷静に先ほどの出来事を分析して最適解を導き出す。

 彼は、普段は馬鹿みたいな男だけど、ここぞというところでは誰よりも頼りになる男だった。

 僕はそんな主さんを見て、少し格好いいなと思いながら自分の不甲斐なさを恥じながら構える。


 エメラルダは、5分後に聖域が再展開されるならばそれまでに勝負を決めればいいといわんばかりに攻撃的になっていた。

 華奢な女性がまっすぐこちらに向けて走ってくる。ただそれだけなのに僕たちにとってはそれが脅威となっていた。


 まっすぐ直進するエメラルダを止めたのは、レナによる骨の壁。

 エメラルダの錬金は小さいものを壊すのには一瞬だが、大きなものになると少し時間がかかるみたいで、一時的に進行を妨げられた。


「まったく、鬼の人もお姉ちゃんも、そしてその彼女気取りの女の人も甘々だね。要するに錬金による防御が突破できないから困ってるわけだよね? それなら手っ取り早い方法があるじゃない!」

 レナは自信満々にそう言って、自分の腕に重ねるようにゴーレムの腕を召喚して近くにあったそれをつかみ上げた。そして、骨の壁の処理が終わったばかりのエメラルダに向けて全力で投擲した。


「———っ?!」

 それを錬金で防御しようとしたエメラルダだったが、咄嗟に腕をクロスさせて防御することを選んだ。

 結果、彼女はそれがぶつかった衝撃を一身に受けて少し後退してしまう。


「ほら、この武器は壊されなかったでしょ?」

 レナはそれを見て得意げに言って次の用意をした。

「うっ――――…」

 逆に、ルナルナは顔を青くして気持ち悪そうにした。


「———聖女様、君は妹にどんな教育をしているの?」

 エメラルダも、これには少し思うところがあったみたいだ。

 彼女は受け止めたそれ――――首なしの人間の死体を近くに落として僕に向けてそう言った。

 その質問は僕も答えに困る。

 そもそも、レナは設定のせいでそれが人間の死体に見えているかどうかも怪しい。

 一応、会話の流れでこれが首なし死体ということはわかっているはずだからそこを突かれると何も言い返せない。

 

 僕が答えに困っていると、レナは得意げな顔のまま答えた。

「ふふん、私は残忍な魔王だからね。それが有効なら、人間の死体を武器にすることくらいはするさ」

 レナは第二投を放つ。

 ゴーレムという魔物は、物理攻撃、物理防御が高く体力が多いという特徴がある。

 そのゴーレムの腕を持ったレナの投擲はかなりの威力がある。

 それを回避してしまえば、たとえ錬金で壊さなくても壁に当たった死体はかなりのダメージを受けたり、つぶれたりしてしまうだろう。


 これが普通の戦闘ならば、物質の投擲以上の効果を及ぼさないだろうこの死体投げは、人間の死体を素材にしたいエメラルダからしてみれば致命的な攻撃だ。


 これを壊されてしまえば、彼女はせっかく得たものを失ってしまう。そうなれば、もはや敗北したも同然だった。


「ほらほら、受け止めないと壊れちゃうよ」

「うわぁ…悪役だ…」

「一応いうけど、縛りを追加しようって言ったのは君だからね?」

「うえぇ…」


 ゴーレムの腕のぶんぶん振り回して、投げた直後には次の死体を手に取るレナ。

 最近は息をひそめていたが、縛り通りの残忍なロールプレイと言ったところだろうか?


 しかし、この戦いかたは若干一名、精神的ダメージが深刻な人が出てくる。

 僕はその一名、ルナルナを呼び戻して目隠しを渡してあげようとする。


「いいや。目隠ししたらちゃんと戦えなくなっちゃうから、それはしまっておいて」

「でも、つらいでしょ? ここは僕たちが何とかするから、君は後ろのソアラと合流して動物たちの足止めに――――」


「私は、レティのことを馬鹿にした、あなたの苦労を知らないで貶めた彼女に一泡吹かせてげたいのよ。あなたの恋人として、あれは看過できないわ」

「ルナルナ……わかった。一緒に最後まで戦おう」


 彼女は、自分の嫌悪感より僕のことを想って戦うことを選んだ。

 僕としては、僕の名誉なんてものよりルナルナがつらい思いをしないようにしてほしかったが、僕のために我慢して戦うといってくれた彼女の言葉が少なからず嬉しく思えてしまい、止めることができなかった。


 そうして、僕たちはエメラルダに立ち向かう。

 彼女も、流石にこのままではまずいと思ったのだろう。


「あ!!」

 レナが声を上げる。

 エメラルダが、死体を破壊し始めたからだ。


「素材は―――まぁまた集めなおせばいいよ。幸いにもここに5つある」


 彼女は今ある人間の死体を全部破棄して、僕たちを新しく素材にすることに決めてレナの投げた死体をバラバラにした。

 そうなってしまえば、レナの攻撃は通用しなくなる。

「なら、これならどうですか? 聖域展開、“誓約聖域”聖域内でのスキルの使用を禁止します」


----パリン

 僕が聖域を発動させるとすぐにエメラルダがそれを無効化した。

 だが、その直後――――


「聖域展開“誓約聖域”聖域内でのスキルの使用を禁止します!」

「なっ!?」

 僕は“誓約聖域”を展開した。

 展開された聖域は僕たちとエメラルダをとらえ、そのスキルの使用を封じた。


 聖域の連続展開は想定していなかったみたいで、彼女はさすがに驚いた顔をしていた。


「僕は聖女ですよ? 5つまでなら聖域を連続発動できるんですよ!」

 エメラルダは僕のことを聖女と知っていたが、これは知らなかったらしい。

 聖女になる条件は半数以上の女神さまから認められて神授魔法を得ること。


 そのことを知っている人間は、きっとほとんどいないだろう。

 だから聖域が多数展開でき、その効果が違うことなんて予想がつかなかったのだろう。


 僕はその不意を突いた。

 一つの目聖域はブラフ、あれは正義の女神様由来の聖域―――“不可侵聖域”だ。ただ聖域内外を切り離すだけの聖域だ。

 彼女はこの戦いでは効果がないであろう聖域にアイテムを使ってしまった。


 そして今、慌てたように次のアイテムを取り出して聖域の解除をしようとしている。

 だが、その隙を見逃す僕の仲間たちではなかった。


 主さんがこの時を待っていたといわんばかりに殴り掛かる。


 スキルの使用禁止は僕たちにも影響がある。

 それなのに彼女が慌てて聖域を解除しようと試みているのは、スキル―――特殊能力なしでは分が悪いと判断したからだ。

 そのことから、彼女のステータスはルナルナや主さんみたいなステータスを伸ばして力押しするようなものではなく、とある特殊技能に特化したレナのようなスキル構成をしていると考えられる。

 だから、レベル200とレベル60、3倍以上のレベル差があってもその一撃が入れば大ダメージは必至だった。


 主さんの一撃は、エメラルダの防御のために掲げられた腕の上から本体に確実なダメージを与えた。

 そしてそこに、ルナルナの追撃が入る。

 死体の投擲が収まったからか、少しだけ顔色がよくなった彼女は、主さんの攻撃でよろけていたところに戦斧を叩きこんだ。

 何もできなくなったレナは応援していた。


 肩口からバッサリと斬撃が入る。

「ぐぅ―――舐めるなぁ!!」

 エメラルダの口から苦悶の声が漏れる。

 だが、それを何とか耐えたエメラルダは例の液体を何とか落として聖域の解除に成功する。

 そして反撃に出る。

 結果、ルナルナの戦斧はバラバラになってしまった。


 エメラルダは苦しそうにしながらも、床に手をついて立ち上がる。

 僕は失ってしまった魔力を回復させるために魔力回復薬を一気に飲み干し、彼女に尋ねた。


「これでもまだ、戦うのですか? そこまで傷ついてまだ、人間を素材にすることに固執するのですか?」

「うるさいなぁ聖女様は―――父が、母が、兄が受けた痛みは、苦悩はこんなものじゃないから。私はこの程度で止まらない、止まれないのよ」


「あの人たちは、あなたに傷ついてまで戦ってほしいと本当に思っているんですか!?」

「知らないよ!! でも、私はやる。それが!私が決めた道だから、私ができる贖罪だから。聖女様も、いい加減しつこいわ!」

 まだ、僕の声はエメラルダには届かない。

 だけど僕はあきらめるつもりはなかった。話を聞いてもらえるまで、僕は続けるつもりで戦いに臨む。


 エメラルダはまだまだ戦うつもりで、失われた体力は薬を使って何とか回復させようとしていた。

 本来ならば回復は許したくない場面なのだが、スキル無効化が働いていない今はうかつに手が出せない。


 僕がちらりと後ろを確認して、あの錬金術の防御を正面から突破できる可能性があるソアラを見た。

 気づかないうちに彼の周りには大量の動物が殺到していて、彼はそれを一人で捌いていた。

 おそらく、僕がここにいるからだろう。

 動物たちは一匹たりとも殺されることはなく、剣で手足を突き刺されるなどされて床や壁に縫い付けられていた。


 あれだけの敵を相手にしているソアラに、助けを求めることはできなさそうだね。


 そう思い、僕がどうにかしてまた5分稼ぐか防御を突破する方法を考えようとした。

 その時だった。


―――――ギイィ…


 この研究室の奥の扉が、内側から開いた。

 そしてその中から、自然に生まれたとは到底思えない異形の存在が3体、こちらの部屋にやってきた。




【tips】

レナには人間の死体が中から綿が出たぬいぐるみに見えている

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

doll_banner.jpg
お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ