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答え合わせ


 もうすぐそこまで迫った手のひら。

 僕が気づいたときにはもう腕を差し出して防御するということすらできないくらいにそこまで迫っていて、あ、僕死んだな、と半ば他人事のようにその手のひらを見つめていた。


 あと一秒もしないうちに、僕の頭はあれにつかまれてバラバラにされるのだろう。

 直前にエメラルダの力の正体の一部を確認した僕だからこそ、その未来を疑っていなかった。

 しかしその時、

「ぼさっとしてんじゃねえぞ!」

 という声が聞こえてきて、僕の身体が横に大きく吹き飛ばされた。


 それによって、僕は文字通りの魔の手から逃れることができ、そして代わりに僕を突き飛ばした人物―――――主さんが代わりに攻撃を受けることになった。

 そしてその結果、主さんの体がはじけて消えてしまう。


 だが、その直後、光の粒子が集まったと思うと、その中から倒れた主さんが現れた。

 今のは、肉体が残らなかった場合の『生命の糸』での蘇生演出だ。


 倒れた主さんはソアラが素早く回収してくれ、僕たちは再びにらみ合いの状況下に置かれることとなった。


「で、レティはいったいどうしたんだ? 敵の前でぼさっとしてよ」

 新たな『生命の糸』を主さんに括り付ける。

 『生命の糸』はこのゲーム内で珍しい蘇生能力を持つ魔法であるが、一度に一つしか設置できないという欠点があるのだ。

 僕が新しい糸を使っている間、主さんが先ほどの僕の行動についての解説を求めてきた。


「これ…」

 その答えは、僕の手の中にあった。

 離脱の際、握りしめていた僕の手には、一つの金属片があった。


 それは、円柱に刃がついたいびつな金属片。

 これは先ほど僕とルナルナの攻撃の際に砕けた武器の破片だ。


「あ、これがどうかしたのか?」

 しかし、主さんはそれを見てもいまいちピンと来ていないみたいだった。


 だから僕は言葉を続ける。

「この金属片は、僕たちの武器になかった形なんだ」

「どういうことだよ」


「だから、僕たちの二つの武器をどんな砕き方をしても、こんな形ができることはないはずなんだ」

「ということは?」


「僕たちの二つの武器は、混ざって砕けているってこと。そしてそれが、エメラルダの防御の正体だ」

「混ざって…錬金術師…成程、そういうことか!」

 ここまで聞いて主さんもそのことを理解したらしく、納得したようにうなずいた。

 そう、今まで僕たちの攻撃が通用しなかった理由…ソアラ以外の攻撃が通用しなかった理由はすべて錬金術によって防御されていたからに他ならなかった。


 彼女は触れたものを錬金術によってばらばらに分解して武器を壊し防御し、肉体を破壊し攻撃しているのだ。

 しかし、それをするには少なからず時間が必要なのだろう。

 だからこそ、攻撃力は低いが元来の技術によって圧倒的な剣速で敵を切るソアラの攻撃は、少しだけ彼女の防御を突破することができたのだ。


「成程なぁ。錬金術でバラバラか…言われてみれば理解はできたが、実際にできるものなのか?」

「できるんだろうね。なにせ今、僕たちの目の前でやってのけているんだから」

「うん? これに関しては思ったより簡単だよ? 手で触れて、てきとーに簡易錬金を発動するだけだから、大した技術は使ってないよ」

 僕たちの情報共有の会話に、エメラルダがあっけからんとしたようすで参加してくる。


 これを大したことのない技術と言ってのけるのは謙遜か、はたまた実際に彼女にとって大したことがないことなのかは判断がつかなかった。

 僕が押し黙ると、エメラルダはあれ?といった表情を見せて、言葉をつづけた。


「ああ、君たちは錬金術を知らないから難しそうに見えるんだね。知ってる? 錬金術って失敗すると素材がダメになるんだよ」

 にやりと笑みを浮かべるエメラルダ。

 彼女は、自分は素材指定をして雑に錬金をすれば素材は勝手に崩壊すると言った。


 それだけで、あらゆるものは壊れるしあらゆる生物は殺すことができると

 錬金術は魔法ではないから、手を触れる必要があるのが欠点だけどねと言って自嘲気味に笑う。

 しかし、それを簡単なことと切って捨てるエメラルダを、僕の本能は恐れた。


 錬金術とは、そんなに都合のいいものなのだろうか、と。

 もしそうなら、この世界の旅人はみんな錬金術師になっているはずだ。


 これは発売されてからそれなりに時間がたっているゲームで、錬金術師という職業を選んだ人もいるはず。

 その人たちが、同じような使い方をひらめかなかったわけではないはずなのだ。


 しかし、僕は今の今まで錬金術師がそのような存在だということは聞いたことがなかった。

 きっと、何か特別な技能が必要なのだろうと、僕はそう結論付けた。

 そしてそれを何でもないことのように言う彼女は、きっと僕たちの想像もつかないくらいに高みにいる存在なのかもしれないと、僕は恐れたのだ。


 だけど、だからと言ってここまで来て引くわけにはいかない。

 僕の主張を押し通すためにも、ちゃんと家族と向き合ってもらうためにも、僕は戦うしかないのだ。


「そういうわけでみんな、素材にならないように気を付けてね!」

 エメラルダの技能の正体を暴いただけで、その突破方法は今のところ思いつかなかった。


 だが、それでも、少しだけ前に進めたと実感できた僕はみんなに号令をかけて拳を構える。

 これで殴り掛かれば、僕は一瞬でミンチだが、戦闘の意志を見せるためのポーズとして構えた。

 


 それが、不意打ちに何とか反応できた要因だった。

「…入口、敵!」

 ソアラが突然何かに気づいたように叫んだ。


 それに反応した僕がちらりとそちらを見てみれば、いつの間にか入り口からこの部屋に入り、そしてすでに両手を掲げて今にも振り下ろそうとしているクマの姿があった。


 そのクマの下には、最後列でエメラルダに警戒を示していたレナの姿。

 彼女の本体はひ弱だ。

 だからあれを受けたら、一撃でお陀仏だ。


 そう思い、丁度近くにいた僕はレナを突き飛ばして入れ替わるようにクマの下に入る。

「にゃあ!」

 僕は腕を上に掲げて、クマの一撃を受け止めた。


 腕にとんでもない衝撃が走る。

 腕が折れてしまったのでは、肩が外れてしまったのではないかと思うほどの衝撃だった。

 だが、それを耐えきった僕はすぐに自己回復をして立て直す。


「うにゃん?」


 僕たちを襲ったクマは、ネコのような声を出していた。

 間違いない、このクマは――――


「ペティ、君が一番乗りだよ。いい子だね。あとでご褒美をあげよう」

「うにゃああん♪」

 やはりペティだった。


 人懐っこい声で鳴きながら、獰猛な目で僕たちを睨みつける。

「やべえな。挟まれちまったか。あのクマも結構強そうだぜ?」

「それに、あの人今一番乗りって言ったわよね? ってことはまだ増えるってことじゃない? そうなると結構やばいよ」


 戦況を分析した主さんとルナルナの会話が聞こえてくる。

 僕は先ほど突き飛ばしてしまったレナを抱き起しながら、ペティの方を向いた。


 ペティは、僕を倒すべき敵としてしか見ていない。

 そんな鋭い目でこちらを見ていた。

「お兄ちゃん、ごめん。ありがとう」

 動揺しているのか、僕の呼び方がお兄ちゃんに戻っているレナをひとまず隠すように少し前に出て、僕はペティをけん制するために拳を少し前に突き出すように構えた。


 だが、奴はそんなことをお構いなしと言わんばかりに頭から突っ込んできた。


「———っ、『契約の鎖』!! 対象はペティ、契約内容はペティの攻撃を禁ずる代わりに僕にスリップダメージ!!」

 とっさに僕は『契約の鎖』という魔法を発動する。

 これは対象に自分と強制的な契約を結ばせる魔法だ。


 強制契約ということで契約に対する対価は相当なものになる上に、継続時間も10秒だけというけち臭い能力だ。

 消費も大きい。

 だが、その代わり契約が成功してしまえば確実に相手の動きを止められる最強クラスの魔法でもあるのだ。


「ぐ、ぐうぅ…」

 僕とペティが鎖でつながれる。

 それと同時に、胸が締め付けられるような苦しみに襲われる。


 この苦しさは対価として設定されたスリップダメージによるもの。だとすれば、契約は正常に作動しているということだ。

 『契約の鎖』は強制契約であるが、絶対に成功する魔法ではない。

 対価がシステムに見合わないと判断されれば簡単に弾かれてしまうのだ。


 僕のHPが毎秒5%ずつ減っていく。

 契約が切れるころには、僕の体力は半減してしまうだろう。


 だが、10秒もあれば十分だった。

 前方にいたソアラがここまで下がってきて、一瞬のうちにペティを切りつけていく。そして拘束から5秒足らずでソアラが攻撃を止める。


「……麻痺毒確認」

「わかった。ソアラはここで入り口を守ってもらっていいかな?」


「……承知した。だが、大丈夫なのか?」

「何とか頑張ってみるよ」

 僕たちはそう言い合って別方向に走る。

 ソアラは入り口の方に、僕はエメラルダの方に


「いいのかい? 私の防御を少しだけとはいえ抜ける彼がいないと勝てないんじゃないかな?」

「いいんですよ。少なくとも、僕はあなたを倒すために戦うわけじゃないんですから!」

 後ろはソアラがいるから大丈夫と信じている。

 だから、僕はこっちを何とかするために唱える。


「ということで、まずはその防御をどうにかして剥がしたいと思います。とりあえず、『聖域展開』、誓約聖域からです! 誓約は聖域内でのスキルの使用禁止です」

 僕は奥の手の一つである、『聖域展開』を発動させた。

 エメラルダの錬金術は強大な力だといっても、スキルによるものだ。

 だからスキルの使用を封じてしまえば、彼女はある程度無力化できるはずだった。


「ふぅん…聖域、ねぇ……さすがは聖女様って言ったところかしら?」

「よっしゃ、ここからは俺の独壇場だな!」


 スキルが使えなくなれば、必然的にステータスが高いものが有利になる。

 だからこそ、ステータスが高い主さんやルナルナがかなり戦いやすくなる―――――はずだった。


「とりあえず、これは許されないわね」


―――――パリン

 エメラルダは聖域の存在を確認するとすぐに、服の下から一本の試験官を取り出してそのまま床に落とした。

 床に激突し、高い音を立てて割れた試験管の中には、真っ黒な液体が入っていて、それが飛び散る。


 そして、黒い液体は一瞬で薄く広がったと思うと――――


「え? これは…」


 僕の聖域をきれいさっぱり消し去った。




息抜きに短編かいたりしてたら5日も空いてた…

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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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