表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/51

稀代の天才錬金術師


「結局、聖女様も力に頼るってわけね。いいわ、その方がわかりやすいし手っ取り早いもの」

 ため息をつきながらも、エメラルダは最前列にいた主さんに蹴りを放つ。

 華奢な女性の蹴り―――通常なら、鬼であり筋肉の塊の主さんには通用するはずもないその蹴りを、彼は受けるという選択肢を捨てて全力で回避する。

 その判断は正しいだろう。


 もし、手で触れたときと同じことが脚でもできるなら、あの脚は触れた瞬間大ダメージ。

 当たり所によってはゲームオーバーだ。


 そして、初手で蹴りから入ってきたことを見ると、確実に脚に触れただけでも例の力は働くだろうと予想できる。


 主さんがバックステップで攻撃を回避する。

 この研究室は狭いわけではないが、体の大きな彼が全力で動き回るには少し手狭だ。

 また、長物も机などが引っかかって使いにくい。

 そのため、緩慢な蹴りであったが、反撃に出れるものは限られていた。


 エメラルダの蹴りに合わせて動いたのはソアラと僕と、僕の妹のレナの三人だった。


 まず、レナがケイブバットの目を召喚してエメラルダの解析を試みた。

「ごめんお姉ちゃん、ほとんど見えない。今のでわかったのはレベル200の職業錬金術師ってことだけ!」

「レベル200!? 僕たちの平均レベル60程度なんだけど!?」

「つまり油断はできないってことだよ!! 相応の力は持っていると思っていい。寧ろ、手で触れられただけで物を破壊するんだからそのくらいあってもおかしくないってことだよ」


 レナは戦うとき、まず初めにケイブバットの目の能力を使って敵の解析鑑定をする。それで読み取った能力をもとに自分がどのような戦法を取るのかを決定しているのだが、今回はその解析が裏目に出てしまう。


 僕たちにもたらされた情報は、逆に僕たちの戦意を削いでいった。


 そんな情報のやり取りをしている間にも、ソアラは動いていた。


 一瞬で近づき、麻痺の追加効果がある剣でエメラルダに切りかかる。

 先ほどまでとは違い、手のひらで受けることができずなおかつ首を狙った攻撃。

 レベル200という数字は僕たちを震撼させたが、ソアラにとっては全力で切りかかっても死なないという情報であった。


 ソアラの剣が、エメラルダの首に吸い込まれるように突き刺さる。


「ぐっ…やっぱり、半吸血鬼君が一番危険だねぇ…」

 一瞬怯むエメラルダ。

 おそらくだが、彼女は戦闘慣れしていない。

 手を触れればどんな相手でも倒せるからか、それともほかの理由があるのかはわからないが、ソアラの洗練された戦いの動きや、主さんの荒々しいけどそれが一番強いとわかっている動きではない。

 触れれば大概の相手は倒せるからか、相手に触りに行く動作に迷いがないが、その分それが悪手であっても突き進んでしまう危うさがそこにはあった。


 現に今、彼女は一番危険と判断したソアラを真っ先に殺そうと動いた。


 首に刺さった剣は手を触れるまでも無く、バラバラになった。

 だが、刺さった剣が壊れるまでの時間は手で触れたときと比べると圧倒的に長い。


 これを見れば、手で触れずとも例の力は使えるみたいだけど、発動までに時間がかかるらしい。


 エメラルダは、一番自分にとって脅威足りうるソアラにまっすぐ手を伸ばした。

 ソアラは今しがた剣を失ったばかり、直接手で触れられないから反撃はできない――――そう思ったのだろう。

 だが、それはソアラという剣の達人を舐めすぎている。


 そう来るのがわかっていたかのように、彼は彼を触りに来るエメラルダの手首を逆につかみ、その勢いを利用して壁に向けて放り投げた。


「なぁ!?」


 驚きの声。

 それも仕方のないことだろう。

 あちらの勝利条件はこちらに触れること。


 僕たちは戦闘をしているつもりだが、向こうはおそらく鬼ごっこに近い感覚だったと思う。

 勿論鬼役はエメラルダだ。

 そんな中、鬼に向かって自ら手を伸ばすものがいたとして、驚かずにいられるだろうか?

 それが、命がかかっているとなればなおさらだ。


 だが、この戦いは触れられるかどうかが大きな要素の一つにはなるが、触れられたからと言って敗北が確定する戦いではない。

 エメラルダは、そこを少し勘違いしていた。

 ソアラは、その認識の差を逆手にとって彼女を投げ飛ばしたのだ。


 壁に向かって投げたのは、壁なら簡単に壊されないだろうという算段からだろう。


 事実、エメラルダは壁に激突して床に向けて落下した。

 代償として、ソアラの鎧の右手の籠手は壊れてしまい同じく床に落ちる。


 そして最後に僕だ。

 このやり取りの間に、主さんに『生命の糸』を括り付けた。

「主さん、一回だけなら死んで大丈夫だよ!!」

「まったく、主使いが荒いやつだなぁ!!」


 保険をかけられたからか、主さんが動き出す。

 相手はレベル200の敵だ。


 手札を切られる前にある程度押してしまおうというのが僕たちの共通認識だった。


 床に落ちたエメラルダは起き上がりながらも、迫りくる主さんに向けて手を伸ばす。

 主さんはそれを見て踏みとどまり、横に跳んで別の角度から攻めようとした。

 だが、エメラルダはそれに合わせて手を向けるだけで主さんの進撃を止める。


「くっ、あの”待った”ポーズが防御になるの卑怯すぎるだろ!」

「なら、魔法ならどうかな?」


 主さんは保険がかかっているといっても、それを無駄に消費するつもりはなく、慎重に立ち回っている。

 そこに、杖を持ったスケルトンの腕を召喚したレナが氷の魔法弾を起き上がったばかりのエメラルダに向けて放った。


 エメラルダは、迷いなくその魔法を手で受ける。


 すると、手のひらにあたったように見えた氷の魔法は、かき消されたように姿を消した。


「嘘ッ、魔法でも無理なの?」

「だが、防御したってことは体に当たればダメージにはなるはずだ。3方向から同時に攻撃すれば腕は2本しかないからあの守りを突破できるはずだぜ!」


「愚かね。今程度の魔法なら手で触れなくても体には届かないわ。防御したのはいわば癖よ」

「やってみなくちゃわかんねえだろうがよ! レナ、やれ!!」


 主さんの号令にあわせるようにレナが先ほどと同じ杖を持った骨の腕を今度は3つ召喚した。

 それらはそれぞれ、氷、雷、闇の魔法を別々の方向からエメラルダに向けてはなった。


 すると彼女は、今度は宣言通り防御行動をとらずに体で受けて――――それらの魔法は消えてしまった。


 しかし、やはり境界線はその肉体なのだろう。

 服は一部凍り、焦げていた。

 それを見た主さんが何かを思いついたのかレナに指示を出す。


「レナ、ありったけの氷魔法をぶつけてやれ!!」

「え? 効かないけどいいの?」


「ああ、とりあえずやるんだ!!」


 命令の意図はわからなかったが、言われた通りにするレナ。

 レナは骨の腕を連続で大量に出現させて連続で氷の魔法を放たせる。


 それらはエメラルダにすべて直撃し――――そして当然のように掻き消えた。


 だが、変化もあった。

 エメラルダがブルリと体を震わせたのだ。


「成程……これが狙いね。筋肉だるまだと思ったら、多少の知恵も回るわね」

 氷の魔法の斉射が一通り終わった後、それにさらされていたエメラルダの服には霜が降りていた。

 というか、服だけが凍り付いていた。


 主さんは直接魔法ダメージが入らないなら、その身に纏う服を凍らせて凍傷を受けさせようとしたのだ。

 しかしその目論見は失敗に終わった。


 エメラルダの体を震わせた凍った服は、少しすると元に戻ってしまった。

「なあ?!」


 これには主さんも驚きを隠せない。

「これ、返すわね」

 エメラルダが何をレナに投げつける。

 僕はとっさに射線上に立ち、錫杖で飛来した何かを受けた。


 エメラルダが投げたものだ。

 どんな効果があるかがわからない。

 僕は最大の警戒をしながら、何が起こるのか身構える。


 だが、それはこつんと錫杖に弾かれ地面に落ちるだけで特に何も引き起こすことはなかった。


 レナはいったい何を投げつけられたのだろうか?

 そう思い、地面に落ちたそれを見た。


「これは――――氷?」

「ええそうよ。それがあると寒いんですもの」


 確認するようにつぶやいた僕の言葉、それにこたえるエメラルダ。

 これがあると寒い?

 ということは、この氷は先ほどまで彼女の服にくっついていた霜だったりするのだろうか?

 だとすると、どうしてそれがひとまとまりになってここに?


「くっそ、誰かぁ! 何かわかったか!?」

 いくら攻撃しても大した痛痒も与えられないことに苛立ちを覚えた主さんが部屋に響く声で叫ぶ。

 だが、答えは返ってこない。

 僕も必死に頭の中で情報を整理する。


 他のみんなと違い、僕は唯一エメラルダと事前に出会っておりいくらかやり取りをした。

 だから僕が一番情報を持っているはずなんだ。


 エメラルダと言えばなんだ?

 まず、僕と彼女の出会いはこの部屋でペティと呼ばれるクマにつかまったところからだったっけ。

 それで、少しだけ話して別れて、僕がここにきて再開して。


 その後、ハト声のネコを見せられたっけ?

 で、内面を見るか外見を見るかの話になって、内面って言ったら家族と会わされた。


 初めは見た目におっかなびっくりだったけど、よく見るとただのいい人だった。

 見た目だけは異形の、ただの人間味あふれる優しい家族だった。


 そして今、エメラルダは人間の身体を求めていて、それなりの数を手に入れている。

 それに彼女は家族のあの姿は自分のせいだといっていた。


 となれば、彼女は人間の形をあのような化け物にする術がある?

 そして、人間の肉体を求めているところから、彼女は人間の意識をどうにかして別の体に移すことができる?

 思えば、声が違う動物はすべてそうして生まれたのではないか?

 彼女はレベル200の錬金術師らしい…

 となれば、彼女の錬金術は魂に触ったりすることができるほど高い域にあるということで―――

 その錬金術は戦闘にも応用されているのではないだろうか?


 そう、例えば―――――


「ルナルナ、頼みがあるんだ!!」

「え?う、うん! わかった。レティのためなら何でもするよ。私何をすればいい?」


「いらない武器をせーのの掛け声で投げてほしいんだ!」

「わ、わかったよ!」


「いくよ、せーーーの!!」

「今!」


 僕は掛け声の直前、前に向けて走る。

 それに一瞬遅れてルナルナの予備として持っていた戦斧が投擲される。


 僕は錫杖を振りかぶり、戦斧が合わさるタイミングでエメラルダにそれを振り下ろした。


「やぁ!!」

 掛け声とともに振り下ろされた僕の錫杖と、ルナルナの投擲した戦斧が同時に、同じ場所にたたきつけられる。

 それは、エメラルダの左の手のひら。


「同時に攻撃すれば突破できると思ったの? もしそうなら期待外れね聖女様」


 エメラルダの手のひらに触れた二つの武器は、ソアラの剣と同様バラバラに崩壊した。


 僕は、金属の残骸となって煌めき落ちるそれを必死に目で追った。

 僕の考えが当たっているなら、”そういうもの”があってもおかしくはない―――――


 そう思い、必死に目を凝らした。

 そして、見つけた。


「レティ!!」

 後ろからルナルナの悲鳴が聞こえる。


 いったい何が―――――あ………


 破片を見ることに集中しすぎた。

 気づけば、僕の目の前にエメラルダの手のひらが迫ってきていた。




【tips】

現在エメラルダの討伐報告はなし

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

doll_banner.jpg
お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ