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運命の岐路


 そいつは暗闇の中から唐突に現れた。


 僕の照明が届かない場所、すなわち曲がり角の先から、飛び出すように先頭にいた主さんに向けて跳躍する。

 主さんは突然現れたそいつに怯み、一瞬対応が遅れる。

 だが、隣にいたソアラが主さんにとびかかったそいつを剣で叩き落とした。


 そうしてそいつとの邂逅を済ませた後、僕たちはそれの姿かたちを初めて確認した。


 そいつは、3つ首の化け物だった。

 大きさは大きな犬くらいの大きさで、下半身がなかった。

 もとは四足歩行の生き物だと思われたそいつは、前足で体を引きずることで動き回っているようで、そいつが体を前に進めるためにズルズルという音が鳴り響く。

 叩き落とされたそいつは素早い動きで壁の方に這いずっていき、手を壁に貼り付けて体を持ち上げる。


 そいつはそのまま、天井に逆さまで張り付いて、僕たちの方を見て威嚇するようにイ“――――と鳴いた。


「どうやら、こいつがあの場を作り出した犯人みたいだな」

「何、あの魔物……」


 ルナルナはああ見えてグロテスクなものが苦手だ。

 そのせいか、ちぎれ飛んだ半身を無理やり動かしているようなその風貌の魔物に、嫌悪感を示している。

 この戦いで、彼女は役に立たないだろうなと判断しつつ僕は、改めてその魔物の方を見た。


 先ほどの音と照らし合わせてみると、こいつはきっとエメラルダが言っていた“ゴミ”という奴だろうか?

 そいつは、天井に張り付いて威嚇した後、今度はその見た目におびえて隙を晒しているルナルナにとびかかってきた。

「ルナルナ!!」


 僕はとっさにそいつの前に腕を突き出して、それを阻止する。

 しかしその代償として、3つの頭に同時に腕がかみつかれてしまう。そして――――


「あ、腕が飛んだ」

 僕の腕が食いちぎられて持っていかれてしまった。


 このゲーム、部位にダメージが入りすぎたり、特殊な攻撃をもらうと今みたいに部位が飛んで行ったりする。

 その場合当然失った部分は使うことができないから、手早く回復させる必要があるのだ。


 まぁ、僕は回復に特化した慈母信徒だからこの程度のことでは慌てたりしない。

 素早く自分に『溢れる生命』を掛けて欠損を回復させる。

 この魔法は対象に過剰ともいえる回復を与え、部位欠損すら感知させ、ついでに周りの味方のHPを20%回復させるという魔法だ。

 失われた僕の腕が、みるみるうちに回復していく。


「レティ! 腕が! レティの腕が!!」

「心配しないでルナルナ、それよりもみんな! そいつしとめて!」


 僕の腕と言う犠牲を無駄にしてはいけない。

 ということで心配するルナルナを横目に、僕はみんなに指示を出す。

 最初に動いたのはやはりソアラだった。


 彼は僕が指示を出すより前に、僕の腕を食いちぎり地面に着地したそいつに剣を突き立てていた。

 だが、代償強化なしでは攻撃力が足りないのか魔物は呻きながらも、すぐに次の行動を開始しようとする。

 次に動いたのは意外にもレナだった。


 彼女は右の手のひらから骨の蛇を2匹出して、魔物を締めあげる。

 そして左の手のひらから、黒い剣を出して突き刺した。


 レナは本体のステータスはこの中の誰よりも低いのだが、攻撃力は素のソアラよりは圧倒的に高い。

 これはこたえたのか、魔物の動きが一瞬止まる。


 そこに主さんが拳を叩きこんだ。

 魔物の3つあるうちの頭の一つがつぶれた。


「レティ!! 今だぜ!」


 主さんの合図が入る。

 それに合わせるように僕はがんじがらめにされ、串刺しにされているそいつをつかんで、後方に向けて放り投げた。


「よし、逃げるよみんな!!」


 あれも一応生き物っぽいので、殺してはいけない。

 こういう時、僕がいないだけでもあれにとどめを刺すという動作ができるのだけど、あいにく僕の縛りのせいで殺生に制限がかかっている僕たちは逃げるという選択肢しかなかった。


 ヌチャヌチャズルズルザザザザザザザザ


 先ほど投げた魔物が、後方から僕たちを追いかけてくる音が聞こえる。


「レティ、あいつあのなりで意外と速いぞ! あれやれ!!」

「うぅ……まぁ、僕のせいで倒せないからやるしかないよね。展開、不殺聖域!!」


 僕は逃げながら後方に向けて『神授魔法:コン』由来の『聖域展開』を放つ。

 すると、薄く蒼い光が灯ったと思うと、僕たちを追いかけてきている魔物の動きが止まった。

 否、止まったのではない。


 極端に遅くなったのだ。


 『聖域展開』というスキルは、神授魔法を与えてくれた神様の力に関連する聖域を展開することができる。

 調和の女神様であるコン様の聖域は、その中にいるものの状態異常を直したり数値を書き換えたりすることができる聖域を作り出すことができる。


 僕が作ったこの“不殺聖域”と名付けた聖域は、STR、INT、AGIの数値をVIT、MND、LUKに与えるという効果。

 もととなった数値はこの時一時的に0になる。

 また、一応状態異常回復の効果も付与してある。

 つまり、この聖域の中では殺人はできないし、そもそもいつも通りの動きができなくなるという我ながら凶悪極まりない聖域となっている。


 一応、弱点もある。

 第一に、自分たちにもこの効果はかかるという点。

 これで相手を無効化して一方的に攻撃というのはできないのだ。


 第二に、聖域の外から攻撃されたら無抵抗で攻撃を受けるという点。

 だがこれはVIT、MNDが大幅に上がっているはずだからあまりダメージはないと思われるから大した問題はない。


 そして第三、燃費が悪い。

 MPを2000使って5分しか持たない。

 聖域ないの殺生を封じたいなら、慈母神由来の聖域である“回帰聖域”(命名は僕)を使った方が、燃費がいいのだ。

 だが、こうして追いかけてくる相手を聖域に捉えるという使い方をすれば、簡単に闘争が成功するという点で今回は“不殺聖域”を使っての逃亡を選択したというわけだ。


「よし、これなら逃げきれそうだよ」

 僕はアイテムボックスから取り出した魔力回復薬を飲みながらちらりと後ろを確認して言う。


「よっしゃ、このまま突っ切っちまうぜ!!」

 先頭を走る主さんは、目的地なんて定まっていないはずなのに迷いなく全力疾走で走る。

 その後ろをソアラが走り、次に僕、最後に脚が遅いレナを担いだルナルナがついていく。


 そしてその疾走は偶然か、それとも必然なのか、とある場所で止まった。


「ん? なんだあの扉――――?」

「……中から人の気配」


 それは、エメラルダの研究室の前だった。

 僕はあの場所を知っている。だが、それを彼らに伝えるかどうか迷う。

 

 思えば、何故僕は彼女のことを彼らに秘密にしているのだろう?

 彼女はNPC…この世界だけでの存在だし、彼らは現実世界でいつも僕を助けてくれる友達だ。

 隠す必要なんてないはずなのに、結局ここでも言い出すタイミングがつかめなかった。


「よし、入ろう」

 主さんが扉に手を掛けた。

 しかし、その扉にカギがかかっていることを僕は知って―――――ギイィ…?

 

 あれ? 開いた?

「よし、突入だ」


 主さんが開いたならばとずかずかと中に入っていく。

 そして、すぐに息を呑んで

「来るな!」


 と言った。

 何かあったのだろうか? と思い駆けつけようと思ったが、続いて主さんが叫ぶ。

「レティ、ルナルナの目を塞げ!!」


 何があったんだろうか? あの研究室には見てはいけないようなものはなかったはずだ。

 そうは思ったが、とりあえず僕は指示通りにルナルナの目を隠した。


 そしてその状態で、僕はちらりと部屋の中を覗く。


「———っ!? これはいったい?」


 研究室の中には、首なし人間が何体も横たえられていた。

 それだけではない。

 解体され、部位ごとに分けられた人間のようなものも放置されている。


 それらは何かしらの液体―――保存液だろうか?———につけられた状態だった。


「これはいったいどういうことだよ…」

「……先ほどの魔物が殺した人間はここにつれてこられているみたいだ。そしてこれは…何かの実験に使うのだろうか?」


「おいちょっと待てソアラ、お前ここに入る前、人の気配があるって――――」

「……む、確かに…だが、誰もいない? いや、いる。この部屋にまだ確かに誰かいる」


 ソアラが気配はするが姿が見えない敵に警戒心を抱く。

 ここに人がいるとするならば、それは一人しかいないだろう。


 彼女が、何らかの方法で僕たちから見つからないようにしてそこにいるのだ。


 僕が何を言おうかと考えていると

「あぁ、今日は材料がいっぱい手に入るいい日だ」


 彼女―――エメラルダの声が前方から聞こえてきた。

 それで正確な場所を特定したのだろう。ソアラが迷いなく抜剣して主さんの背後に向けて剣を振りぬいた。


 そこにエメラルダがいるなら、ソアラになすすべなく斬られてしまうと僕は思った。


 お世辞にも、エメラルダがソアラより強いとは思えなかったからだ。

 だけど、僕の予想は簡単に裏切られる。


――――――パキ…ガシャァン!!


 ソアラの剣が、空中で突然粉々になった。


「くっ!?」

 何をされたのかを理解できなかったソアラは、警戒の色を一層強くして柄だけになってしまった剣を捨てて新しいものを構える。

 それと同時に、エメラルダが姿を現した。

  

 彼女は見慣れない外套を纏っていて、おそらくそれの効果で透明になっていたといったところだろうか?

「やるねえ君…まさか私に傷をつけるなんて、驚いたよ」


 エメラルダは不敵に笑い、手のひらをこちらに向けてきた。

 そこには本当に薄皮1枚だけだったが、切り傷がついていた。


 逆に言えば、ソアラの斬撃を受けてもその程度で済んでしまっている。


「ふっ、こいつが今回のイベントのボスってことか。いいじゃねえか、不気味な感じが強敵っぽくて」

 先ほどまで透明のエメラルダに気づかず、まんまと背後を取られていたにもかかわらず主さんも不敵な笑みを返す。


「おぉ…なぜかは知らないけど戦う気満々だね。でもどうして? あなたは私と戦おうとしているの?」

「どうしてって……人間の死体を集めているやつがまともなやつなはずがない。だから戦うんだ」


「君は異常者相手だったら誰彼構わず手を出すのかな? まあいいよ。やり合いたいなら君も素材にしてあげるから。ま、鬼の君は使い道がないと思うけどね。それで? 鎧の君は?」

「……攻撃されたからだな」


「攻撃されたから? 先に私の住まいに侵入した不審者は君たちだろう? 私は不審者を排除しようとしただけだよ。ま、いいよ。君は―――半吸血鬼かな? ま、鬼よりは使いやすいだろう。で? 目隠しされている君は―――いいとしてそっちの女の子も私と戦うつもりかな?」

「私? うーん…」


 レナは僕をちらりと見た。

 僕は目だけで好きに返せとレナに促した。

 すると彼女は小さくうなずいて

「私は…お姉ちゃんが戦うって言ったら戦うよ。あ、ちなみにお姉ちゃんはこっちのエロい修道服を着た人のことね」


「ふぅん、つまんないの。その体は欲しかったんだけどね。で? 最後に、君―――聖女様は私と戦うのかな?」


 エメラルダは、どこか悲し気な目をして僕を見た。


 僕は――――僕は―――――――



遅くなって申し訳ありません。

次回投稿は明日か明後日のどっちかには確実に出すくらいには頑張ります


【tips】

レティの持つ聖域の名前一覧

慈母=回帰聖域

勝利=聖戦聖域

約定=誓約聖域

正義=不可侵聖域

調和=不殺聖域


感想より

Q、人体錬成と言えば鋼の……

A,作者はあの作品大好きでしたねぇ

 ぶっちゃけ割と今回のイベントあれを参考にした点が何点か……

 



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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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