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ごみ

遅くなって申し訳ない


 この異形となってしまった3人は、エメラルダの実の家族である。

 そのことを聞いたとき、僕まず何を思ったのだろうか?


 その答えは、「何も思わなかった」だった。

 確かに、姿が人間ではない、それどころか特定の種族で指すことすらできないその姿を見た僕は、かわいそうとは思っただろう。

 しかし、何があってそうなったのかを知らない僕はそのことについて何かを考えることができない。


 今、彼らからは悲愴的な感情を感じないし、その姿については特に彼らは何も感じていないのではないのかと僕は考えた。

 そして、そう考えてしまうと僕が何かを想うことが無駄なもののように思えて、僕はそれ以上彼らについて考えるのをやめた。


 つまり、異形の者となってしまったエメラルダの家族については、何も思わないことにしたのだ。

 そしてそのことを知った僕は、少しの間彼らと話をすることにした。


 まずは、一番近かったカエルのお兄さんからだ。

「お兄さんは下半身が魚ですが、不便ではないのですか?」

「足が魚だと動かなくても誰も何も言わないからね。そういう意味では、便利かな? 君は? その聖職者の格好をしていると知らない人からも頼られるだろうけど、そういう意味では不便ではないかな?」


「そうでもありませんよ? 僕は聖職者以前に旅人ですからね」

「? その旅人っていうのは?」


「うーん、説明が難しいのですが、端的に言えば何にも縛られずに世界中を旅する人種のことでしょうか?」

「へぇ、今はそんな夢みたいな人間がいるんだねぇ…エメも、僕たちにずっと構っていないでそんな旅人みたいな生活をすればいいのに……」


「そういえば、お兄さんから見たエメラルダさんってどんな方なんですか?」

「エメ? エメはねぇ……そうだね、天使…かな?」


「なるほど?」


 次に、お母さんの方に話を聞きに行ってみた。

「お母さんは蛇の下半身がついていますが、それがあったら飛びづらいでしょう? 不便だとは思わないんですか?」

「ああ? これね。これはものを拾ったりするのに便利だし、そのほかにも色々使えるからないよりはあった方がいいって感じね。この体になってそこそこ経つし、今更なくられたらそっちの方が不便さね」


「へぇ、その体は長いんですね」

「もうかれこれ……どのくらいになるかね? 日にちなんて数えてないし、外とのつながりも無いからねここは、どのくらいこの姿なのかは覚えてないよ」


「あー…そうでしたね。ところで、お母さんから見たエメラルダさんってどんな子ですか?」

「あの子はねえ、いつまで経ってもかわいい私たちの娘だよ。私たちは今、あの子のおかげで生きているようなものだから、感謝もしてるしね」


「ふむふむ…」


 最後に、お父さんの方に話を聞きに行く。

「そういえば、お父さんとお兄さんはパーツに統一感がありますが、お母さんは哺乳類鳥類爬虫類とばらばらですよね? 何か理由とか知っていたりします?」

「お? あれか? あれはおじさんがエメラルダに頼んでお母さんを蘇らせるときに着けてもらったんだ。いかしてるだろ?」


「えぇ……そのこと、お母さんは知ってるのですか?」

「いいや? 多分知らねえ。でも便利だって言ってたから問題ねえだろ」


「それはそうですが……ところで、お父さんから見たエメラルダさんってどんな方ですか?」

「エメラルダ? そりゃあもちろん、天使以外には見えねえよな」


「あはは……あなたたちはやっぱり家族なんですね」

「当たり前だ。俺たちはどんな姿になっても、硬い絆で結ばれた家族だよ」

 エメラルダのお父さんは、それだけは絶対に帰ることのできない事実であると、自信満々に言い放った。

 ああ、やっぱりこの人たちは、見た目はいびつになってしまったけど、心はずっと人間のままなのだろうなと、それぞれと話してみて感じた。


 全員に話を聞いた後、ふとエメラルダさんの方を見てみると、彼女は何か満足したような目でこちらを見ていた。

 そう言えば、まだ彼女に話を聞いてなかったなと思った僕はそちらに近づいていき、彼女に話かけた。


「いい家族ですね。そう思いません?」

「うん、あれが私の家族。姿かたちが変わっても、中身はずっと変わらない。やっぱり、人間は中身だよね」


「ですよね」

 僕たちはそうやって話をした後、この部屋を後にして研究室の方に戻ってきた。

 僕がメニュー画面を開いて、ちらりと時間を確認してみると、もうそれなりに時間がたっているのに気が付いた。

 

 そろそろ戻らないと、と思った僕は、エメラルダさんに断りを入れて一度みんなのところに戻ると言おうとした。


「エメラルダさん、そろそろ集合時間が近いので、一度僕は戻りますね」

「そ、なら送ってあげるからついてきなさい」


「えっと、道は覚えているので一人でも帰れますよ?」

「念のため、よ。私の家族が結構あなたを気に入ったみたいだからね。安全に外まで送り届けてあげる」

 エメラルダさんは、そう言って先導するように研究室の外に向けて歩き始めた。

 そういえば、前回外に出るときにも何かと出会わなかったかと聞かれたような記憶がある。

 …もしかして、この研究室がある場所には何か危険なものが出るのではないか?


「あの、ここには何かいるんですか?」

「ふふっ、何がいるんだろうね? ……冗談よ。強いて言うなら私が捨てたゴミがね。溜まっていて危ないんだよ」


「ゴミ?」

「えぇ、動くゴミよ。とにかく、私と一緒にいれば安全だから一緒に行きましょう?」


 彼女は僕の手を取って、研究室の外に出た。

 それから、真っ暗な通路を少しの間歩き続ける。


 コツ、コツ、コツ、コツ

  コツ、コツ、コツ、コツ


 二つの足音が少しずれて通路内に響く。


 コツ、コツ、コツ、コツ

  コツ、コツ、コツ、コツ

     ヌチャ…ザ…ザ…


 エメラルダと僕の足音が、交互に聞こえる。

 そしてその中に、僕たちが出したものではない音が、聞こえた。


 何か、粘性のあるものが地面についたような物音と、何かを引きずるような音。

 前来た時には一度も聞かなかった音。

 先ほど、エメラルダに聞いた話も相まってその音が気になって仕方がない。


 僕は耳に意識を集中させて、音の発生源を探ってみる。


 コツ、コツ、コツ、コツ

  コツ、コツ、コツ、コツ

 ザ……ズルズル……ザ…グバァ

「ぎゃああああああああああああああああ!!!」

 !!?

 僕が集中して音を聞いていると、突然叫び声が聞こえてきた。

 それは、集中していなくても聞こえてくるような大きな声で、この真っ暗闇の通路の中に響き渡る。

 僕と手をつないで、前を歩いていたエメラルダさんにもそれは聞こえたみたいで…


「どうやら、侵入者が入ったみたいだね」

「え?」


「さっき言っていたゴミが、侵入者を襲いでもしたんだろう。ま、ゴミはゴミでも粗大ゴミだからね。びっくりしたんじゃない? それより、もうすぐ外だよ」

「あ、え、はい。……見に行った方がいいのでは?」


「そうかもだけど、君には時間がないのでしょ? どうせ大したことはないし、私がこの後確認しておくから、君は気にしないでいいよ」

 エメラルダさんはそう言いながら、僕の手を引っ張り歩き続けた。

 そして、彼女の言葉通りすぐに外の光が見え、僕は外に出ることができた。


「じゃあ、またね」

「はい」

 僕たちは小さくそう言い合って別れた。


 僕が空を見ると、そこにはレナが飛んでいて地上を見下ろしている姿があった。

 僕がそちらに向けて手を振ってみると、彼女は僕に気がついて降りてきてくれる。


「どうだった?」

 降りてきて一番にそう聞いたレナに、僕は答えていいかわからなかった。

 エメラルダのこと、その家族のこと、襲われたらしい人のこと、話すことが渋滞していたからだ。

 僕はまず、エメラルダのことについて軽く話をすることにした。

 僕がここで出会った時の経緯を話し、その後は彼女がこの島で何かを研究しているらしいことを話す。

 次に話したのはエメラルダの家族のこと。

 といっても、こちらは詳しいことは僕にもわからないから簡潔に、エメラルダの家族は人間ではなかったくらいのことを軽く話しただけに終わる。


 そして最後、ゴミの話。

 僕が今出てきた場所には、”ゴミ”とエメラルダが呼称する何かがいて、それが誰かを襲ったか、それを見た誰かが叫び声を上げたかしたこと。


 僕の得た情報はその程度のものだったけど、レナはにっこりと笑い僕の頭を二度、撫でた。


「よしよし、流石は私のお姉ちゃんだね。えらいえらい、じゃあみんなも待っているだろうしそろそろ戻ろうか」

 レナは以前と同じように僕を抱き寄せると、そのまま腕の力を強くして空に向かって飛びだった。

 みるみるうちに地面が遠くなっていく。


 レナに運ばれて僕は初めの海岸に戻ってきた。

 そこには、僕の仲間の残り3人が丁度戻ってきたところだった。


「お、聞いてくれよレティ、俺たちはついに地下への道を見つけたんだぜ!!」

 僕たちが降りてきたのを見た主さんが、僕に向かって興奮したようにそう叫んだ。

 後ろにいるソアラとルナルナはあきれ顔だった。


「あんた、さっきもそうやって興奮して他の人たちに情報抜かれたの、忘れたわけじゃないでしょうね?」

「おっと、悪い」


 聞いてみた話によると、どうやら主さんたちが僕の情報をもとに探索をしていたところ、地下への道を発見したらしいのだが、それでテンションが上がった主さんが叫んでしまって他のプレイヤーが寄ってきてしまいそのことがばれてしまったみたいなのだ。


 そして、その先は僕たちがいない状態で入るわけにもいかず、時間も時間なので合流を優先。

 結果として、島の地下の一番乗りを譲る羽目になってしまった、と言うことらしい。



「そういえば、この島も人が増えて来たね。今どのくらいいるのかな?」

「それならメニュー画面のイベントの欄から見れるぜ。確か30人ぴったりだったはずだ」


 そう言われて、確認してみると確かに、そこには30/100という数字が書かれていた。

 つまりこの島は最大100人が同時に存在できて、今は30人いるということだろう。


 そう思いみていると、その数字が不意に29/100に変わった。

 ログアウトでもしたのかな、と僕は特に気にも留めずにメニューを閉じた。


「それで? そっちは? 何かわかったか?」

「え? 僕たちの方は…」

「はいはい! この島よく見たら魔法陣みたいになっていて多分それが嵐を発生させているっぽい?」


「成程、脱出にはその魔法陣の破壊が必要になってくるかもしれないってことだな」


 僕が何を言おうかと考えている間に、レナが先に見つけたものを言ってしまった。

 そして、それは僕の知らない情報だった。


 おそらくだけど、僕を待っている間に見つけたんだろうな。


「よし、じゃあ合流できたことだし、早速島の地下に行ってみようぜ!!」

 主さんが音頭を取り、僕たちは島の地下に向かうことになった。

 もちろん、主さんが見つけた方の入り口で




◇――――――――――――――――――★


コツ、コツ、コツ、コツ


 真っ暗闇の中、一定の間隔で硬いものが地面にあたる音が鳴る。


コツ、コツ、コツ、……


 それはとある女性の足音であり、それはとある場所で止まる。


「ふむ、予期せぬところでいいものが手に入ったね」

 女性は暗闇の中、それを一切意に介さずに地面に一部は失われているが大部分が残っているそれを見て、うんうんとうなずいた。

 

「ゴミだと思っていたけど、いい仕事をするときもあるのね……まぁ、ゴミはゴミだけど」

『………』

 

 女性が足元に落ちているそれに手を伸ばしている間、物陰からそれを見ている者がいた。

 だが、何か音出すわけでもなく、姿を現すわけでもなく、ましてや、襲い掛かるわけでもなかった。

 物陰に身を潜めて、見つからないように必死に隠れているそいつの目には、女性に対する明確な怯えの感情があった。

 早くここからいなくなってくれ。

 見た目のせいで人から恐れられる立場であるそいつは、そこにいる女性に対しては逆に恐れる立場であった。


 本能からくる怯えを必死に押さえつけ、物陰に身を潜めるそいつに一切意識をやることもなく、女性は落ちているそれに触れた。


「……やっぱり、生のまま持って帰った方がいいかな?」

 そこで、何か意見を変えるかといったように呟いて、女性は落ちているそれを触れるだけではなくつかみ、そしてローブの内側に隠していた袋に入れた。


 その袋は、明らかに落ちていたそれが入るような大きさではなかった。

 だが、中にそれが入っても、形を変えることなくすべてを飲み込んだ。


「よしっ、今日はいい日だな~。いーいひーだーなーあはん♪」

 

 スキップでもしそうな陽気な声を上げ、女性はその場から去っていった。

 女性が物を回収した後、そこには血だまりだけが残った。



山場は超えたのでこれから更新ペースを少しずつ戻せると思います

【tips】

残酷描写は各々プレイヤーがメニューから制限することができる

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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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