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天才錬金術師エメラルダの物語 序・中

 

 あぁ、兄が笑っている。

 ぁあ、父が見つめていて、母が照れている。


 そんな、普通の人間にはありふれた光景だが、私にとってはそれだけで心温まる光景だ。


 笑う兄はカエルで、見つめる父は豚、照れる母は蛇だ。

 その見た目は、もはや人間と呼べるものではない。だが、私は私の家族が未だに人間であると信じている。

 いくら見た目が異形の者へと変貌しても、その心は、魂は人間であり、私のかけがえのない家族であることには変わりないのだと、私は信じている。


 ふと、兄の方に目をやると、最近私の前に姿を現した自称聖女のレティが見えた。

 彼女は何かをうかがうように私の方を見てきて、ふと不思議に思ってその近くにいた兄の方に目をやると、視線で自分たちの関係をばらしたという意思が伝わってきた。


 そうか。

 兄が言っていいと判断したなら、きっといいのだろう。


 私はそのことには特に何も感じなくなった。

 そもそも、私の家族が今、現在楽しげな雰囲気を出せているのは紛れもなく、あの聖女であるレティのおかげだったし、彼女は口だけかもしれないが見た目より中身を重視すると言ってくれた。


 私がその言葉を鵜呑みにするわけではないが、少しだけなら信じてもいいのかもしれないと思わせる程度には、私の家族との関係は悪くなさそうに見えた。



 カエルの兄、豚の父、蛇の母。


 これらはすべて、僕の手によってこうなってしまった。

 家族は気にしないと言っているが、心の底ではあんな体になってしまって気落ちしているのではないかと、気にせずにはいられなかった。


 なにせ、私の家族は私のことをいつも一番に考えてくれるような、優しい――――優しすぎる家族だったから、きっとそのことは私には悟られないように隠しているはずだといつも勘ぐってしまう。

 

 私の家族があんな姿になってしまったこと

 そのことに対して誰が悪かったのかと問われれば、私は街以外なく自分の名前を出すだろう。


 私は、自分で言うのもなんだが錬金術に対して稀有な才能があった。

 小さいころから、思うように物が作れたし、それを使っていろいろな問題を解決できた。


 私は帝国出身の下級貴族で、大きな手が特徴的な父と、貴族の令嬢らしさのない快活さを持っている母、そして私のことを常に気にかけてくれる兄に囲まれて暮らしていた。

 私は、常日頃家族の愛を感じ、それに報いるようにと錬金術に手を出した。


 今思えば、私が錬金術に手を出さなければ今もみんな笑って過ごせてたのかな?

 そう思わずにはいられない。


 私は錬金術を独学で納め、上達し、そして家族の愛に報いるようにありとあらゆるものを生み出した。

 それは、世間に出すというものではなく、自分の家の中だけで使う程度の便利なもの。


 足りなくなったものを他のものから生み出したりする程度の錬金術。


 だけど、それは私の気づかないうちにだんだんと高度なものになっていって……

 気づけば、私は石ころから鉄を生み出すようになり、鉄から銀を生み出し、銀から金を生み出すことができるようになった。

 つまり、石ころが金塊に変わるのだ。


 まぁ、体積がかなり減るから労力はかかったけどね。


 ある日のこと、母に自分の手作り金塊をプレゼントしたことがあったな。

 金は貴重なもの。

 それはわかっていたから、きっと喜んでくれるはずだ。そう思って、私は母にそれを持って行ったんだけど、母は微妙な顔をしていたと今でも記憶に残っている。


 兄に持っていったら無邪気に喜んでくれたんだけど、父に持っていったら渋い顔をされたこともはっきりと記憶している。

 何が悪かったのか、当時の私にはわからなかった。

 

 父は優しく、二度と石から金を作らないようにと、錬金術は少し便利くらいがちょうどよいと私に言い含めた。

 家族が好きな私だ。

 納得はいかなかったが、父の言葉だったからちゃんと言いつけは守っていた。


 だが、何が悪かったのかがわからなかった私は、同じ過ちを繰り返す。


 今度は炭を生木に変えた。

 そして今度は、家族より先に目撃者がいた。


 その情報が、噂となり、風に流れて、そして欲深な上級貴族の耳に入った。

 瞬く間に手を回され、気づけば私は誘拐されていた。


 連れていかれた先で、無駄にキラキラとしたドレスを着たおばさんと、ピシッとした服を着たおじさんがいて、話しぶりからその人たちが私を誘拐して、そしてその人は侯爵家の人間だということも分かった。


 だが、わかったからと言って何かできるわけではなく、私は家族から引き離されたことの不安と、誘拐された恐怖で震えることしかできなかった。

 ここで、私が戦えていたならば、何か変わったのだろうか?


 考えても仕方がない。

 私は、戦えなかった。

 上級貴族と言ってもその中身はただの人間だから、私なら一人で何とかできたかもしれないのに……

 侯爵は私に、錬金術で物を作らせようとした。

 

 家族にお返しするための錬金術が、厄介ごとを引き込んだ。


 私は怖くって、言われた通りにしようとした。

 しかし、侯爵が石をくれてやるから金にして返せと言われたとき、私は父との約束を思い出した。

 なぜかはわからないが、やってはいけないことだという思いが、私の中に芽生え、私は抵抗してしまった。


 侯爵は怒り、私を閉じ込めた。


 外から鍵のかけられた部屋に一人、私は入れられて放置された。

 侯爵はそこで素直になるまで、などと言っていたが、私に錠による拘束は通用しなかった。

 よくも悪くも、私はありものでほしいものを生み出すことに特化した天才錬金術師だったから、簡単に脱出できた。


 ここが、一番の間違いだった。


 侯爵家から逃げ出した私は、助けを呼ぶあてはなく、衛兵も侯爵の手が回っているかもしれないという不安から一人で行動せざるを得なかった。

 私は子供の足で、ゆっくりと自分の家に向かって歩いた。


 幸いにも、自分がとらえられているのは帝都だったからどっちへ向かえばいいのかはすぐに調べることができた。


 そうしてひと月かけて家に帰ってみると―――――



 家は全焼していた。

 あるべき、帰るべき家がなくなっていた喪失感は計り知れなかった。

 だが、それ以上にそこに住んでいるはずの人はどこへ行ってしまったのだろうかと、私はぼーっとする頭で考え、通りがかった人に聞いた。




――――――――家と一緒に燃えたよ


 無情にも告げられたその言葉は、私の最後に残った希望を完全に摘み取っていった。

 そこからは、あまりはっきりとは覚えていない。


 私の家は、敬虔な慈母信徒だったから、生命に対する親和性が高かったのか、私はその場に漂う家族の魂を錬金術と信仰魔法の合わせ技でどうにか回収して、それから王都にとんぼ返りをした。

 その足で侯爵家に舞い戻り、侯爵家の人間を出会った先から殺していったのを覚えている。


 どうやって殺したかって?


 ふふっ、私は天才錬金術師だからね。

 触れれば人は死ぬんだよ。


 それはさておき、こうして家族を失い侯爵を殺しつくした私は、暴れに暴れ、疲れ果てたところを騎士に捉えられてしまった。

 このまま、私も家族のもとへ行ける。


 復讐を果たし、抜け殻のようになった私は処刑の時を待っていた。


 だが、何を思ったのか教会の司教が邪魔をした。

 

 処刑ではなく、島流し。

 そういうことになった。



 こうして私は、誰もいない島に一人、取り残されることになった。

 そこでふと、回収した家族の魂の存在を思い出した。


 これを錬金術で肉体と融合すれば、私の愛した人たちが生き返ってくれるかもしれない。

 しかし、人間の肉体は無人島では手に入らなかった。


私は、島の動物を狩って材料にして、家族が入る肉体を作った。

 私が生き物を殺すと、その体は爆散したかのように部位が欠損する。

 結果、つぎはぎの動物の肉体を作り妥協することになった。


 まずは、大きな手の父を生き返らせようと思った。

 父の体は大きかったから、丁度良く手に入った豚の身体がいいかもしれない。

 腕はたくましかったから、ゴリラの腕を、脚は一番強そうだったカンガルーの足を、そしてバランスが悪くなったのでワニの尻尾をそれぞれ混ぜて肉体を作り、魂と融合した。


 父は蘇った。

 記憶の父とは似ても似つかない異形の体。

 だが、父は状況を素早く理解してくれて、豚の顔ではあったが表情豊かなその顔を優し気に微笑ませて


―――――よく生き残ってくれた

 


 といった。

 次に呼び戻したのは兄だった。

 初めは父の次は母にしようとしたんだけど、父が母は兄妹が両方そろった状態で迎えてあげた方がいいだろうと言ったからそうした。


 兄は、歌が好きだった。

 だからカエルを使うことにした。


 カエルは泳ぐのが好きそうだったから、魚の足も与えた。

 手がないと不便だろうから、鋭い爪付きの腕も付けた。


 魂を融合させると、兄は蘇った。

 目を覚まして突然目に入ってきた父にビビッてビターンと飛び上がり、私を見つけてため息をついて、自分の体を見て驚愕していた。


 それから、混乱している兄には父が説明をして、落ち着かせることに成功した。


 最後は、母の蘇生だ。


 母は昔鳥になりたいと思っていた、とよく言っていた。

 だから鳥っぽい体を使うことにした。


 私が生き物を殺めるのには、触る必要があるから、鳥の素材は確保が難しかった。

 だが大きな鳥ほど人間を恐れないみたいで、結果的に言い素材が手に入った。


 夢をかなえるための鳥の体、母の快活さを表している狼の頭、そして父が付けようと言った蛇の下半身。

 母も兄のように蘇生後は少し混乱していたが、やはり父が何とかしてくれた。


 こうして、私たちは全員そろい、私以外の家族は異形の体になることになった。


 復讐は終わり、家族も帰ってきた。


 だけど、私はまだ満足していない。

 あれから肉体と魂が定着したのか、簡単にはその二つを引き離すことができなくなってしまい、私の家族は別の体に魂を移植するというのが難しくなった。


 みんなは気にしていないと言ってるけど、私は気にしてしまっている。

 あんな体にしてしまったことに負い目を感じてしまっている。


 レティには中身が大切なんて言っておきながら、私は未だに割り切れていないのだ。


 だから、私はあきらめない。

 動物実験で魂と肉体の接続に関してはほぼほぼデータはそろっているし、今は丁度島に多くの人間がいるのだ。




感想より

Q,レティだからこその回答ですね

A、ここは目が見えませんから、外見で判断できないから選択肢がないって話ですね


父母兄に対してナニカがあったと言われていましたが、これは善意の蘇生なのです。

人間の素材がなかったから仕方ないのです

………いや、形だけでも人間の肉体を錬金術で作れよとは作者も思いましたけどね?

【tips】

エメラルダが逃げ出したころにはもうすでに家は燃えていた


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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
[一言] 錬金術で石を金に変える行為はそれすなわち原子を分解して別の原子に分解していることほかありません。 なので豚などのタンパク質、土に含まれる金属類など、島なんですから素材はたくさんあったと思いま…
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