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あの人ともう一度

 外に出ることができた僕は、まっすぐ海岸へと向かった。


 この島の散策をしていた時に、僕たちは海岸を沿ってこの島をぐるりと一周していたから、海岸にたどり着ければある程度自分の場所がわかると思ったからだ。


 そしてその目論見は成功し、僕は今、自分が島のどのあたりにいるのかという情報を得ることができた。

 僕がたどり着いた海岸は、初めに僕たちが打ち上げられた場所から時計回りに90度ほど移動した場所だった。

 これなら海岸沿いを歩いていけば、すぐにスタート地点に戻ることができるだろう。

 そしてそこは、僕たちが各々の役割を果たした後に合流する予定の場所だ。


 僕は、その方向めがけて歩き始めた。


 しかし、そんな折、空から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「こんなところにいたー!」

 バサバサと翼はためかせ、僕の妹が空から下りてくる。

 僕の仲間たちで、空を飛べるのは彼女だけだ。

 だからこうして、突然見えなくなってしまった僕を探す羽目になってしまったのだろう。


 少しだけ、僕のせいで妹が迷惑をこうむっていることに関して、思うところがないわけではなかったが、僕は気にせず空から下りてくる彼女に手を振った。


「レナ、探しに来てくれたんだね」

「まったく、お姉ちゃんったらどこ行ってたのよ! みんな探したんだからね」


「ごめん、ちょっと道に迷ってて」

「………そっか。なら私が運んであげるから、掴まって」

 レナは僕のとっさに放った嘘に気づいたのだろう、一瞬だけ目を細めたが、それ以上は何もせずにいつものように僕に手を伸ばした。

 僕が伸ばされた手に、自分の手を重ねると、レナは僕の手をぎゅっと握って僕を引き寄せる。

 現実では、同じくらいの体の大きさだと思うが、レナはその体を召喚獣によってかさまししているので僕より大きく見える。

 そんなレナが、僕の手を引き、腕の中に抱き留め、そのまま空を飛んだ。


 以前、レナに運ばれたときはそのような余裕はなかったが、こうして空を飛んでみると、景色が一気に視界いっぱいに広がるのがとても気持ちよく感じられた。


「空もいいものだね」

「そう? お姉ちゃんが喜んでくれてよかった」

 レナは僕を抱えたまま空を駆け、そして僕が目指そうとしていた初めの海岸につれていかれた。

 空から見下ろすと、みんながこちらを見上げているのが見えた。

 レナはある程度海岸に近づくと、ゆっくりと降下して僕を優しく地面に降ろしてくれた。


「重役出勤だなレティ」

「ごめんね。道に迷っちゃって」


「まったく、迷ったなら迷ったでメッセージの一つでもよこしてくれよな」

「あはは……忘れてたよ」

 降りてきてからそんな会話を少しだけ挟んで、僕たちは自分たちの仕事の成果を発表することとなった。


 主さんたちのチームは、野草を中心に食べられそうなものを集めたらしい。

 動物系の食材は入手が困難だったため、ほとんどなかったと。


 一部見つけた動物系の魔物も、倒したらボロボロと崩れていなくなってしまったらしい。


 一応、食料になるものは見つけたから仕事は全うできたという報告だった。


 そして、僕たちの報告内容は微妙だった。

 まずはレナ、空から見た限りでは特に気になるものは発見できなかったらしい。ただし、この島を脱出できるか飛んで行ってみたところ、何度やっても嵐に遭遇する結果に終わったから島から出ることは難しいだろうという調査結果が得られた。


 次にルナルナ、倒すとボロボロと崩れるように消える魔物がいたという話だ。

 これは、食糧調達班の報告でもあった。


 最後に僕

「この島の下、何かあるっぽい? 地面を少し掘ってみたら、石造りの何かにあたったんだよ」

 これを言うかどうか一瞬だけ迷ったが、なぜ自分があの場所のことを隠そうとしているのかが自分でも理解できなかったので、おおざっぱな概要だけ話すことにした。


「へぇ、そんなものが……なら、今日はそれをみんなで調べてみようぜ」

「そうだね。それくらいしか調べられるところがなさそうだし」


 主さんが僕の報告を聞いてそれを調査すると言い、ルナルナがそれに同意する。

 結果、僕たちは島の下を調べてみようということになり、僕たちは再び二手に分かれて調査をすることになった。

 チーム分けは、僕とレナの2人と、それ以外の3人だ。


 このチーム分けになった理由は、レナが珍しく駄々をこねたからだった。

 どうしても僕と二人で調査に行きたいというレナ、駄々をこねている間にも自分が抱えて飛べるのが一人だけだというPRもかねてそれっぽい理由付けをしようとするあたり、どうしても二人だけで行きたかったのだろう。


 そうして、僕たち兄妹は2人で島の調査に乗りだした。

 レナが僕を抱き上げて空を飛ぼうと準備を始める。


 レナは召喚獣を扱う能力に特化したキャラクターメイクをしているため、僕を抱えるにはSTRが足りないように思えるが、ゴーレムの腕で自分の腕を包む等という策で足りないSTRを補い僕を抱え上げることができるようになるのだ。


 僕はレナに抱え上げられ、再び空の旅に出ることになった。


 そして、島の上空に到達したところでレナが口を開く。


「それで? お姉ちゃんは何を見つけたの? 隠したいもの?」

「やっぱり、レナにはバレてたんだね」


「そりゃあ、目が見えなくても方向感覚だけで道に迷わないお姉ちゃんが、こんな何もない島で迷うわけがないよね?」

「あはは……」


「それで、もう一回聞くけど何を見つけたの? 私も聞かない方がいいもの?」

「もしかしてレナ、これを聞くために僕と二人っきりで行きたいって駄々をこねたふりをしたの?」


「まぁね。人間、かわいいものと年下の駄々には弱いから。両方兼ね合わせる私の頼みはみんな聞いちゃうのさ」

 レナは少しニヒルな笑みを浮かべ、そう言い切った。

 そういえば、この子は昔から人に言うことを聞かせるのが得意だったなと少しだけ懐かしむ。


「あ、それで僕が見つけたものだったね。端的に言ってしまえば、人を見つけた」

「は? ここって無人島じゃなかったの?」


「うん、僕もそう思っていたし、このイベントの情報を調べてきてくれた主さんもそう言っていたから、実際かなりびっくりしたよ」

「へぇ、それでお姉ちゃんはその人のことが気になるから、咄嗟に隠しちゃったんだ……男の人?」


「いや、女の人」

「なんだ、残念」


 いったい何が残念なのかはよくわからないが、その後の話し合いの結果、僕たちは2人だけでその女性がいた場所に行こうということになった。

 きっと、あの女性は何か理由があってあんな暗い場所で一人、研究を続けているのだろう。

 その理由が何かはわからないけど、去り際に見せたあのさみしそうな顔を僕は忘れられず、もう一度会って話をしたいと思っていたのだ。


 だけど、あんな隠れ潜むように暮らしている彼女の場所に、大人数で押しかけるのは気が引けたので、できれば一人でもう一度訪れたいと思っていた。

 レナにそのことを伝えると、彼女は小さく笑みを浮かべて


「お姉ちゃんの頼みだから、仕方ないね」

 と言って僕を連れて飛んで行ってくれた。


 僕はあの女性に案内された出入り口に、たどり着き、そこから島の内部に入る。

 レナもついてくるものかと思ったけど、彼女は一緒に来ることはせず、僕を降ろしたら再び空に飛び立ってしまった。

 僕は暗闇の中を歩く。


 道順は完璧に覚えており、僕はまっすぐあの女性がいた部屋に向かった。


『うー……あー……はぁ……』

 一瞬、うめき声のようなものが聞こえてきて、何事かと思ったが聞き覚えのある声だった。

 この声はあの部屋から漏れ聞こえてくるものであり、それは彼女の在宅を示唆していた。


 僕は、例の扉の前に来て、一度深呼吸をしてから扉をノックした。


――――コンコン

 乾いた音が響く。


 扉の中からがばっと起き上がる音が聞こえ、とっとっと、という小さな足音が扉に近づいてきて、ガチャっと鍵が開く音がした。


『お帰りストラス、早かったね』

 ガチャ、ギイィと扉が音を立てて開く。


 おそらく、僕を別の何かと勘違いしていたのだろう。

 扉が開かれ、僕を見た彼女は心底驚いたと言った風に目を丸くした。


「ごめんなさい。また来てしまいました。お邪魔してもいいですか?」

 僕は小さく首をかしげて、そう尋ねた。


「あ、あぁ、入るといいよ」


 驚いた表情のまま、その蒼髪の女性は僕を中に招き入れてくれた。


少し短いけどきりがいいのでここまで

【tips】

飛行能力持ちはレア

滞空できる人は激レア

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