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暗闇の先で

 

「やあああぁぁぁぁ……あだっ!!」

 ものの見事に穴にはまって落ちてしまった僕は、情けない声を上げながら落下していき、数秒後に地面に激突した。

 かなりの衝撃が体に走り、地面にたたきつけられた僕がまだ混乱している頭で体力の残量を確認してみると、なんと残りHPが半分を切っていた。


 この状態で襲われてしまうとまずいと認識した僕は、パパっと自己回復を済ませて立ち上がり、今の状況を確認する。

 まわりは真っ暗だった。

 だけど、何となくだけどここはどこかの部屋で、空気の流れから先があるということがわかる。


 上を見てみると、僕が落ちてきたと思われる穴がすごい遠くにあった。

 あそこからわずかにではあるが光が差し込んできているので、この部屋の中は慣れれば目視で確認できそうであった。

 少しだけ目を鳴らして、薄暗いこの部屋の上体を目視で確認してみる。


 しかし、これと言ったものは確認できなかった。


「うーん、早く戻ってみんなと合流したいんだけど……」

 

 出口が見つからないことにはそれはできない。

 僕は仕方なく、空気が流れてくる方向に進むことにした。


 少しだけ歩くと、外からの光が完全になくなって真っ暗になる。

 僕は『フラッシュ』の魔法であたりを一瞬照らしてみた。しかし、通路が広がるだけで大したものは見つからない。


 それから少し進んで、曲がり角を見つける。

 左右に分かれた丁字路だ。

「えっと……風が流れてくるのはこっちだよね?」


 僕はここに落ちてきてから、ずっと空気の流れを頼りに進んできていたので、ここでもそれを頼りに道を選んだ。

 それにしても、おかしな場所だ。


 落ちてきたと思ったら何もないし、魔物が出てくるわけでもない。

 ただただ暗い通路が続いているだけだ。


 それも照らしながら進めばただの通路にしかならない。

 ここは一体何のための場所なんだろうかと僕は考える。


 ふと、僕は通路の壁を指でなぞる。

 それは、石造りの壁であった。


「となると……上で僕が見つけた石の何かがこれってこと?」

 確か落ちる前に何やら地面に埋まった何かを見つけたっけなと思いながら、僕は進み続けた。


『……で………から………が……な……し…』

 そうして進んでいると、何やら声が聞こえてきた。

 もしかして、外が近いのだろうか?


 そう考えると、僕の足の進みが早くなる。

 声の聞こえる方へ、僕はぐいぐいと進み続けた。


 その際、今までずっと追いかけ続けていた空気の流れから外れていることには気づかず、僕は声の方に進み続けた。


 すると、今までは真っ暗で通路ばかりだったこの場所に、扉とそこから漏れ出る光を発見した。

 僕はその扉に近づき、中から聞こえてくる声に耳を傾ける。


『えっと、それで? こっちをここに入れるとー、あ、こうなるのね。ならこれなら? お? これはもしや……』

 聞いたことない声、と言うことは僕の仲間ではないことは確かだ。


それにしても——————?

 何かを作っている?

 

 中で何をしているのだろうと、少し気になった僕は扉を少しだけ開いて中を覗いてみようとした。

 しかし

―――――ガタッ、ガッ!!


 扉には鍵がかかっており、それが引っかかって音を鳴らしてしまう。

 やばっ、と思った時にはもう遅く、中にいる人物に気づかれてしまう。


『ん~? 今、あっちから音がしたかな?』

 部屋の中で、どんどんこちらに向けて歩いてくる足音。

 僕はこの場を離れようとした。


 だが

――――――ガシッ


 何者かが僕をつかんだ。

 何やら柔らかい感触と、硬い感触が同時に僕の肩をつかみそのまま僕を持ち上げた。


 この感触―――どこかで覚えがある。

 そうだ、これは肉球と爪の感触だ。


 日頃、犬と接していてそれを触る機会の多い僕は、大きさと強度の違いはあれど今現在僕をとらえているのが獣であることに気が付いた。

 身をよじってどうにか抜け出そうとしたが、その獣は力が強く簡単には抜けられそうになかった。


 その間にも、部屋の中から扉が開かれる。

――――ガチャ……キイィィ


 木製の扉特有の、軋むような音を聞きながら、そこから入ってきた光がまぶしくて半目になりながら僕は、今しがた扉を開いたその人を見た。

 長く蒼い髪を持つ、女性だった。


 その女性は、少しサイズがあっていないだぶついたローブを着ていて、眼鏡をかけたその目は気怠げにこちらを見ていた。


「おー、お帰りペティ。食べ物でも持ってきてくれたのかな?」

「うにゃああん」

 ペティと呼ばれた僕を捕まえている獣は、女性の声に嬉しそうに答えた。

 にゃあんと鳴くその声で、僕は僕を捕まえているのがネコだということを理解し、少しだけ肩の力を抜くことができた。


 だいぶ大きいけど、どんな種類のネコなんだろうか?

 うちはももたろうを飼っているから、ネコは飼えないんだよね。


 そう思いながら、僕は捕まえられた状態で首だけを回して猫の顔を拝んでやろうと思った。

 そして、そこで見たのは長い鼻、丸い耳、鋭い牙――――――ってこれ

「クマじゃん!!」


「わぁっ!? 急に叫ばないでよ………って? え?」

「あ……」


 蒼髪の女性は信じられないことに僕が声を出すまでその存在に気づいていなかったみたいで、僕の叫びに驚いていた。

 そこで初めて僕と言う存在を認識して、目を丸くしていた。

 それから、一歩後ずさった後に言う。


「えっと、あなたは、だあれ?」

 僕は捕まっているからか、正直に自己紹介をした。


「僕は聖レティ、みんなからはレティと呼ばれている者です。嵐に見舞われ船が大破し、この島に流れ着きました。一応、聖女やってます!!」

 最後の情報は必要なかったような気はしたが、何というか、ここで情報を隠して機嫌を損ねてクマのえさになりたくはないと思ったからか、そこまで言ってしまった。


「まぁ、聖女様だったの? これはこれはご丁寧に、大変だったね? ペティ、おろしてあげなさい」

「うにゃん♪」


 クマはネコのような声を上げ、僕を地面に降ろしてくれた。

 そして、改めてその全容を見るが、やっぱりクマだった。

 体が猫とか、そういったことは一切なかった。


「とりあえず、ここまで大変だったよね? お茶の一杯でも飲んでいって」

「あ、ありがとうございます」


 蒼髪の女性は、ゆったりとした足取りで部屋の中に入っていき、ビーカーにお茶を汲むと僕に差し出してきた。

 研究室のようなこの場所で、コップではなくビーカーで出てきたお茶は明らかに怪しかったが、ニコニコ笑顔で差し出してくるそれを無下にすることもできずに、僕はそれを受け取り口に運んだ。


ごくり


 そして一口―――――


 味は―――ちょっと風味が強めのお茶だ。


「聖女様、ごめんね。うちはこんな場所だからさ、あなたが普段飲んでいるような良いお茶なんて出せないんだ」

 自嘲気味に笑う蒼髪の少女。

 とっさに僕はその発言を否定した。


「いや、そんなことない。ちゃんとおいしいお茶でした。それに僕、普段はお茶なんて飲まないから、今貰ったお茶はランキング上位です!」

「あはは~ありがとね。励ましてくれて。元気出たよ。それで、レティだっけ? 君は一人で来たのかな?」


「あ……そうだった。僕は仲間と一緒に来たんだけど、途中穴に落ちてしまって……あなたは外に出る方法知りませんか?」

「ん~、知ってるよ。案内してあげよっか?」


「ありがとうございます!」

「じゃっ、ついてきて。ペティも、一緒に来なさい。いや、むしろ聖女様を歩かせるわけにはいかないから、乗せてきなさい」


「へ? 別に僕は―――ひゃわぁ!?」

 先ほどまで僕を拘束していた肉球が、再び僕を担ぎ上げ、今度は僕を背中の上に置いた。

 背中に人を乗せ慣れた、鮮やかな手並みだった。


 もしかしなくても、普段からあの女性をこうして運んでいるのだろう。


「えっと、じゃあよろしくお願いしますねペティさん?」

「うにゃん♪」


 背中を撫でながら、声をかけると嬉しそうな返事をしてくれるペティ。

 クマの姿をしていたが、その声はとっても愛嬌がある可愛らしいものだった。


「ペティ、行くよ」

 ペティは先を歩く蒼髪の女性の後ろをついて歩く。


 彼女は出口に向かって歩いているみたいで、真っ暗な中だったがその足取りに迷いはなかった。


「それにしても、聖女様って落ちてきた穴からここまで、一人で歩いてきたんだったっけ?よく無事だったね」

「無事? え?」


「あ、もしかして出会わなかった?」

「出会うって、何とですか?」


「ん、出会わなかったんならいい。っと、そろそろ出口だよ」


 彼女の言葉に、言い知れぬ不安を抱きながらも、出口と言われて前方に目をやってみると、かすかながらに光が見えてきた。

 その光はどんどんと大きくなっていき、やがて外の世界を見せた。


「あそこから出られるよ。外の案内はできないから、ここからは一人で頑張ってね。ばいばい聖女様」

「あ……はい、ありがとうございました」


「ん、どういたしまして」

 蒼髪の女性は、僕を外に案内するとさっさと中に戻っていってしまった。

 ただ、振り返る一瞬―――とってもさみしそうな表情に見えて、僕はそれが気になってしまった。


「うにゃぁ……」

「ペティも、ここまでありがとうございました」


「にゃん」

 僕はペティから下りて、みんなと合流しようと海岸を目指した。




◇————————————————————★


【イベント限定?】無人島イベントスレ第5の街【変な魔物】


1 名も無き管理人


今回の無人島イベントについて語るスレです。

節度、マナーをもって語り合いましょう。

おめでとうございます。

>>980さんは選ばれし勇者です。

次スレを立てる権利を得ました。



2 名も無き旅人

なんか今回のイベント変な魔物がいない?


3 名も無き旅人

変な魔物って、具体的には?


4 名も無き旅人

なんか、ネコみたいな泣き声のクマとかなんだけど、倒すとその場で崩れ落ちるように消えるんだよ


5 名も無き旅人

死体が消えるのはいつものことでは?


6 名も無き旅人

すまん、言葉足らずだった

いつもと違う消え方をするんだ

何というか、ゲームシステム的な感じじゃなくって、もしArcadiaが現実で、死体が残る仕様だったとしてもあのクマとかは同じように消えそうって思う崩れ方だった


7 名も無き旅人

つまり、どういうことだってばよ?


8 名も無き旅人

あれが今回のイベントに関連しそうってこと


9 名も無き旅人

へぇ、そういえばクマって言ってたけど、他にもいるの?


10 名も無き旅人

リスとか、トラも確認したなぁ


11 名も無き旅人

わかった探してみるわ

何かわかったら知らせる



12 名も無き旅人

いてらー





【tips】

一部の特殊なエリアではメッセージ系のシステムに制限がかかることがある

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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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