新衣装解禁
ジョヴァンニ大司教は真剣な話はつかれたと言わんばかりに、ため息をついて僕に言った。
「この話は、教会でも司祭以上の者しか知りませんので、くれぐれも、この話をするときは気を付けてくださいね」
「はい」
「あ、それと、間違っても聖女になったからと言って封印されているあれに手を出さないように」
僕はその言葉を背中に受けながら僕は教会を後にした。
それにしても、教会の地下にはそんなものが封印されていたとは……
大昔の話らしいけど、今でも一般に情報公開できないのは未だにその死霊が封印されていて、解放されたら今度こそ世界が滅びる可能性すらあるからなのだろうなと思った。
そんなこんなで、聖水の補充を終えた僕は、装備を整えようと考えた。
理由としては、今の僕がほぼ初期装備のような恰好をしているせいで、防御力が足りていないと感じているからだ。
まぁ、マリアさんも防具としての性能はほとんどないって言ってたから、それは仕方がない。
問題なのは僕の一番強い服がこれだということにあり、流石にほぼ裸と変らないような防御力では攻撃力が高い敵が現れたとき、一撃でやられてしまう可能性が浮上してきているような気がしたのだ。
そんなわけで、僕は街中を見渡しながら防具屋のような場所を探した。
そして、ふと目について防具屋に入ってみる。
カランカラン
そんな音を立てる扉。
僕が中を見てみると、そこには様々な防具が並んでいたが、服系の防具は存在しなかった。
一応、僕のステータス構成だと弱めの鎧くらいなら着ることができるんだけど、それだと重くなって動きが悪くなりそうだから考えさせられる。
一通り店の商品を確認した後、僕は他には店はなかったかなと一度出てから再び街の散策に入った。
そこで、ブティックのような店を見つける。
そこまで大きくはない、所謂個人経営感あふれる店だった。
服系の防具が売っているならここだろうかと考えた僕は、恐る恐る中に入ってみた。
すると、店主がこちらに気づいて声をかけてくる。
「いらっしゃいませー」
そして、それにつられて今、まさに案内を受けていた人もこちらを見た。
「あ、レティ。奇遇だね」
「ルナルナ? どうしてここに?」
「どうしても何も、同じ目的だと思うけどね」
今、店の中で案内を受けていた女性は、僕のよく知る人物だった。
そういえば、ルナルナの縛り内容って”可憐な脳筋”だったから、おしゃれにもある程度気を使わないといけないんだっけ。
そんなことを想いながら、僕は店の中をちらりと見てみた。
「え? なんすか、お客さんたち知り合いなんっすか?」
どこかやる気のそがれるような、低めの声の女性店主が僕たちを交互に見てそう言った。
否定することではないので、僕は首を縦に振った。
「へぇー、そうなんっすか。せっかくなんであんたも見ていくといいっすよ」
店主は素早く入り口をふさぐように回り込んで、僕の背中を押して店の中の方に追いやった。
結果、僕はルナルナと隣り合うよう場所にいるようになってしまう。
「さてさて、まずはこっちのお客さんからっすね。えっと、そそ、これっすこれっす、これがおすすめっすよ」
店主はルナルナにいくらかの服を手渡して、試着してみろと試着室の方を指さして促した。
ルナルナはちらりと僕の方を見て、首を小さく縦に振った後に試着室の方へ行ってしまった。
そして、僕は店主と二人きりになる。
「さて、次は君っすね。先に行っておくっすけど、うちは最前線に持っていけるような服は置いていないっすから、注意するっよ。うちはデザイン重視っすからね」
そう前置きをして、店主は僕にどのような服が欲しいかと問いかけた。
それに対して、僕は今自分が着ている修道服のようなものがないかと問いかけてみた。
「あー、あるにはあるっすけど……」
「何か問題でも?」
「うーん、見てもらったほうが早いっすね。ちょっと待つっすよ」
店主は一度店の奥に入り、そこにおいてあったらしい修道服をワンセット持ってきた。
そして微妙な顔をしながら、それを僕に手渡した。
「試着するっすよ。サイズは多分あってるっす」
「え、ええ……わかりました」
促されたので僕はルナルナが入った隣の試着室に入って、渡された修道服を広げてみる。
ん? 違和感……と言うか、何というか布少なくない?
そう思った僕は、試着室から首を出して店主に聞いてみることにした。
「あの、店主さんこれ……」
「せっかくっすから、着てみるといいっすよ」
「でもこれ」
「お客さんなら、きっと着こなせるっす。自分には無理っすけどね」
……本物の女子が無理な服を偽物の女子が着こなせるのだろうかという疑問もあったが、現在この店には修道服はこれしかないということだったので一応着てみることにした。
僕は女性じゃないから、肌を露出するくらいなら何とか……耐えられると思うからね。
修道服の着脱はマリアさんから教わったので、スムーズに済ませることができる。
僕は迷うことなくそれを着て、改めて自分の姿を確認した。
広げてみたときも思ったが、修道服にあるまじき布の少なさだ。
いや、修道服としたらと言うだけで露出自体はそこまで多くはない。
ちょーっと背中の部分が開いて、スカートの部分にスリットが入って足を開いたりしたときに脚が見えるくらいだ。また、何故かおなかの部分にひし形の穴が空いており、おへそが丸見えだ。
加えて、ちょっとだけ首元が空いているが、そこは許容範囲内だろう。
僕はそれだけを確認して、恐る恐る試着室から出た。
するとそこには、当然のようにこちらを見ている店主と、おめかししたルナルナの姿があった。
「おぉ~元々着ていただけあって、修道服似合ってるっすね」
「レティ、いつもよりセクシーだね」
茶化すような店主、純粋に僕をほめてくれているのだろうけど、どこか素直に喜べないルナルナの言葉。
そんなことは今の僕はさして気になるところではなかった。
今、僕の目はルナルナに固定されていた。
彼女が今まで来ていた服は、普通の私服って感じの服だったが、今着ているのは制服って言った感じの姿だった。
その姿はよく似合っていた。
思わず、僕の目線がルナルナに固定されるくらいには。
ルナルナの制服姿と言うのは魅力的に映った。
「えっと? どしたのレティ? そんなにこっちをじっと見つめて」
「あ、うえ?! うん、えっと……すっごい似合っているよ?」
「ひぇぁ? あ、うん……ありがと。レティもすっごい似合っているよ」
「ルナルナ……」
「え? なんすかあんたたち? もしかしてそういう関係っすか? お互いをすこすこな関係っすか?」
「うん、私とレティは相思相愛のカップルなのよ」
「わー、そうなんっすね。ちなみに、どっちが攻めっすか?」
店主さんは僕たちが同性愛者だとでも思っているのだろうか? 若干引き気味であり、僕がそっちに目を向けると何を勘違いしたのか自分の体を抱いて身を引く動作を見せた。
「そっちっすか?」
「何の話ですかね? ……えっと、この服っていくらなんですか?」
「え? それ結局買ってくれるんっすか? お客さんずいぶんと大胆な服着るんっすね。見かけによらないっす」
別に僕はこれが気に入ったわけではなく、修道服系統がこれしかない上にそれなりに性能がよく、ルナルナが気に入ってくれているみたいだからこれにしようと思っただけだ。
断じて、僕が気に入ったからではないとここで明言させてもらう。
「とりあえず、いくらです?」
「50万Gっすー」
「50万……」
あったかな? アイテムボックスを確認すると――――残金35万………やばい、聖水を補充しすぎた。
僕はお金が足りないことに焦りを抱き、少し挙動不審気味に周りを見てしまった。
僕の動揺がルナルナに伝わったのだろう。
彼女はくすりと笑って、アイテムボックスからお金を取り出した。
「はい、50万ね。私の分は?」
「え? ルナルナ?」
「ここは私が驕るよ。その代わり、また今度あっちでデートしよ?」
「え、あ、うん」
「へぇ、王子様役はそっちなんっすね。入毎度ありっすー、そしてそっちのアラクネセーラーは30万っすー」
「へぇ、レティの服の方が高いんだねー」
「そりゃそうっすよ。ナイトアサシンの糸で服を全身分作る労力を考えれば当然っす。それでもかなり安いくらいなんっすよ。その点、アラクネーはいいっすよね。美味いもの食べさせてねだればいっぱい糸くれるっすから」
そんな軽いやり取りをしながら、ルナルナと店主がお金のやり取りをしている。
この世界にお札という概念はなく、全て硬貨による支払だ。
金色の硬貨がじゃらじゃら入った袋が、ルナルナの手から店主の手に渡る。
店主はそれをアイテムボックスに入れて中身の量を確認して、満足したように首を二度縦に振ってから言った。
「毎度、ありがとっす。サービスするからまた来るっすよ」
店主に見送られるように僕たちは2人そろって店を出た。
店を出た後、僕はルナルナに改めてお礼を言った。
「いいっていいって、今まであんまりお金を使ってこなかったからいっぱい余ってたし、このくらいでレティとデートの約束が取り付けられるなら安いものよ」
「……別に、お礼とか抜きに僕はいつでもルナルナと出かけたいと思ってるけどね」
「レティ………なんてかわいいの」
「あの、僕は一応……その、あれだからかわいいってよりは格好いいって言ってほしいんだけど」
「そうっすねー」
「さっきの店主の真似?」
「そっすねー」
ルナルナと僕は楽しく会話をしながら歩く。
僕は聖水と防具をそろえたから、あとは特段そろえておくべきものはないので目的地というものはなかったけど、ルナルナは迷うことなくどこかに向かっているみたいなのでついていくことにした。
そうしてたどり着いたのが武器屋だった。
ルナルナは大きな武器屋に迷うことなく入店すると、きょろきょろと内装を見て、目当てのものを見つけそちらの方へ歩いていく。
僕はその後ろについていった。
「私が使うとしたらこの辺りだよね」
「やっぱりこういう、力で叩き潰すみたいな武器になるんだね」
「それが私の縛りの一つだからね。こればっかりは、レティが女装したり回復したりするのとおんなじね」
僕たちが見ているのは、戦斧や棍棒、棘つき棒と言う風に力が強い人が好みそうな武器たちだった。
この武器屋はそれなりに広く、客もそこそこいたが、このエリアにはあまり人はいなかったのでじっくり考えることができる。
逆に、剣や槍系統の武器が置いてある場所なんかは比較的人が多かったりする。
やっぱり、そういう武器の方が格好いいから人気が出るのだろうか?
金棒とかも悪いとは思わないんだけどね。
僕はルナルナが集中してじっくり選べるようにと、視界から一度外れるように一歩下がって待とうとした。
だが、彼女は次の瞬間。
「よし、これにしましょう」
と、一本の戦斧を手に取った。
「ずいぶん早いね」
「これが一番、ずっしりして強そうだったからこれにするわ」
「本当にそれでいいの?」
「いいのよ。それより、レティの武器はいいの?」
「僕はほら、武器に攻撃力は求めてないから、安い錫杖があれば十分だよ」
「それもそうね」
ルナルナはそう言って、選んだ戦斧の購入を済ませてさっさと店を出た。
僕も追いかけるように店を出る。
「はぁ、思ったより早く準備が終わっちゃったわ」
「あれ? 回復アイテムとかは?」
「貴方がきっと何とかしてくれるでしょう? 私は敵を倒すことだけを考えるから、回復は任せるわ」
「わー、しばりどおりだー」
「ふふっ、と言うわけでレティ、暇ならちょっと二人で街の外に行かない?」
「別にいいけど、どうして?」
「この子がレティと遊びたいって言っているわ」
ルナルナが手を前にかざすと、青い光がそこに集まってきて、みるみるうちに兎の形を作り、光がはじけるとともにそこに一匹の兎が現れた。
兎と言ってもただの兎ではなく、額に長く鋭い角を持った兎だ。
一度僕たちが捕まった時、僕たちになついたあの角兎だった。
「あぁ、その子見ないと思ってたけどそんなところに……」
「従魔登録してるといつでもどこでも呼び出せるみたいだから、普段は別の場所に預けているの」
「へぇ」
「ほーら、ユキちゃん。今日はあの時のお姉ちゃんがいますよ~」
「きゅきゅきゅっきゅきゅるきゅる!!」
角兎にはユキが与えられたみたいで、ルナルナはそう呼んでいた。
ユキは久しぶりに会ったのに僕のことを覚えていてくれたのか、嬉しそうにルナルナの腕の中から僕の胸めがけて跳躍してきた。
角があるから危ない――――なんて野暮なことは言うつもりはなく、僕は優しくユキを受け止める。
ユキの体は軽く、ふわりと僕の腕の中に納まった。
ユキは僕の胸板に頬をすりすりとこすりつけていた。
そんなユキの背中を僕は軽くなでる。
骨が手にあたり、それが想ったより柔らかく感じたので不安になり、僕は一層優しくなでた。
それがうれしかったのか、ユキは目を丸くしてこちらを見て
「きゅる♪きゅるっきゅ♪」
歌うように鳴いた。
「レティ、早く街の外に行こう。その子を全力で走らせてあげよう」
「そうだね。ユキ、遊びに行こう」
僕たちは街の外の草原に向かった。
感想より
Q,世界破滅を考える危険思想家やら悪の組織等に知られたら聖国の教会ぶちこわそーぜ!
ってならないか(゜ロ゜;
A,そういう人が出てくる可能性があるから、情報統制がなされており、司祭以上の者しかこの話を知りません……が、王国の禁書庫なんかを漁れば同じような話が出てくるので、どれだけ効果があるかは不明。
また、民の不安を煽らないようにするためという理由だったり、いろんな理由があって機密扱いです。
Q,この作品のストーリーについて
A,一応目標は見据えて走っているので、どうぞこれからもよろしくお願いします。
【tips】
今回出てきたブティックの店主の名前はキリギリッス
レベルは75
Arcadia内で現在の最高レベルは80
最近レベルキャップが75⇒80になった





