レティ、旅に出る
きりがよかったので短め
「うわぁ、すごいなぁ」
テミス様からもらった素材は、粘土のように自在に成形できて、なおかつその弾力から崩れにくいという特徴があった。
そのせいで、少し切り離すのが大変だったりするけど、それを差し引いてもものすごい速度で作業が進む。
初め、等身大で作れと言われたときにはどれだけ時間がかかるのかと気が遠くなっていたが、これなら二日もあれば形にはなりそうだった。
細部も併せて三日から四日で完成するだろう。
「すごいって、何がすごいのかな?」
僕がレア様像を作るのを隣で見ていたルナルナは、不貞腐れたようにそう言っている。おそらくだけど、僕が女性を作って半ば興奮気味なのが癪に障ったのだろう。
「これ、面白い素材だなって思って。触ってみてよ」
「ふぅん……うわ、生温かっ!! ちょっと気持ち悪くない?」
「それは…まぁ、うん。でも体温くらいだから、多分完成したら気にならなくなるんじゃない?」
「それはそれで気持ち悪いと思わない?」
「ともかく、素材がすごいって話だよ」
「ふぅん、レティは女の人の体を作ってすごいって興奮しているのね」
「あっているけど!! 言い方!!」
不貞腐れているルナルナは強敵だ。というか、人形に嫉妬しないでほしい。
機嫌が悪い彼女を見て、僕が想い続けているのは君だけなんだって、正確に伝えられたらいいのになって思ってしまった。
ちなみにだけど、こうしてレア様の体…というか、女性の体を作っていて性的興奮を覚えるかといわれると、まったくそんなことはなかったりする。
寧ろ、穏やかな気持ちで製作に取り掛かれるような気さえする。
逆に、作っていて興奮するのは浪漫を詰め込んだ、自分の考える最高に格好いいを追及した作品を手掛けているときだ。
「さて、今日はそろそろ終わろうかな」
全体の大まかな造形を終えたところで、僕はそれをアイテムボックスにしまい込んで立ち上がった。
「もういいの?」
「うん、今日はきりがいいからやめる。ずっと放置して悪かったね」
「私は別に…」
「ごめんね」
「あ、うん」
神像製作を終えた僕たちは、そのために入っていた瞑想の間から出て一緒にそのまま街の外に出ようとした。
今日は元々、ルナルナとこっちでデートをしようと約束をしていた日だ。僕がいろいろ問題を引き起こしたから、こんな時間になってしまっているけどね。
今の現実の時間は午後4時を過ぎていた。
夕飯のことを考えると、もうあまり時間がない。
そのことを気にしてか同課は知らないけど、街の外に出ようとしたときにルナルナが立ち止まった。
「あ、もうこんな時間。レティ、今日はもうログアウトするよ」
「え?あ、うん、わかった」
そして僕の返事を聞く前に急ぐようにログアウトしてしまう。
その場に取り残された僕は、今日はいろんなことがあったなと思い、いいタイミングだと思って一緒にログアウトすることにした。
そして、現実世界。
VRマシンに横たわったままで、硬くなってしまった体をほぐしながら時間を過ごしていると、インターホンが鳴り、すぐに玄関が開かれる音が聞こえてきた。
誰か来たのかな? そう思っていると、軽い足音が廊下を動いているのが聞こえた。
あ、この足音はあかりさんのだ。
足音って不思議で、外ではそうでもないけど音が響く家の中、それも廊下や階段なんかでは誰が歩いているのかがわかる。
雛月さんの足音は、キッチンの方に向かっていった。
そして料理をする音がする。
はて?
僕が疑問に思ったまま、一人部屋で待っていると二時間くらい後にあかりさんが僕の部屋に入ってきた。
ノックすらなしに、突然扉が開かれるが足音で来たのがわかっていたので僕は驚かなかった。
「光君、ご飯できたわよー」
「もしかして、あかりさんが作ってくれたの?」
「もちろんよ。今日から、君のごはんはぜーんぶ私が作ってあげるからね」
なんだろう。どこか悪寒がして僕は少し身震いした。
しかしその悪寒の正体がわからず、僕は気のせいだと思って頭を振った。
あかりさんが作った夕飯は、普通においしかった。
そして次の日、今日こそは街中を二人で歩こう、そう約束して昨日寝たのを思い出した僕は、とりあえず朝食を食べようと思いリビングの方に行ってみた。
「おはよう光君」
「んーおはよー……ん?」
そこにはあかりさんがいた。当然のように朝食を作っていた彼女は、もうすぐできるからと明るい声を出して僕に座って待つように促した。
僕は少し疑問に思ったが、そういえば、昨日作ってくれるって言っていたなと思いだしてその場でおとなしく待っていた。
ご飯は普通においしかった。
そしてログイン。
あかりさんはログインをするために一時帰宅した。おそらくだけど、あの様子だと昼前にログアウトしてもう一回家に来るんだろうなと考える。
僕と彼女の家は歩いて数分の位置にあるため、行き来は苦にならない。
僕がログインして、5分ほど待っていると、ルナルナもログインしてきた。彼女はログイン後、僕の姿を見つけるとすぐににっこりこちらに微笑んで言った。
「行こっか」
「そうだね」
無駄な言葉なしに、僕たちは街の外に出た。
ちなみに僕はどこに行くか知らない。ルナルナの先導のもと、歩いているだけだった。
彼女はやがて、洞窟の中に入る。
洞窟の中では蝙蝠系の魔物や、スライムのようなものが出てきて、当然縛り違反になるという理由で僕たちは手が出せなかった。
スライムは避け、蝙蝠は僕が『フラッシュ』を焚くことによって一時的にスタンさせてその間に逃げた。
そして連れていかれた場所には、見事な湖があった。
湖自身がうっすらと光を放っており、水は透き通り底まで見通せた。
湖の中には何も泳いでおらず、そこにはただただ奇麗な水が存在しているだけだった。
「ねぇねぇレティ、すごいわよね!? ここ、初めて見つけたときに君に見せたいって思ったんだ!!」
「確かに、綺麗だ」
「……次、行こうか」
「もう?」
「うん、今日は私がこの世界で見つけた奇麗な場所を、全部見せたいんだ」
ルナルナは僕の手を引き、僕はその手を握り返して彼女のあとを歩き続けた。
それから、五日が経過した。
相も変わらず、僕たちは2人でいろんな場所を歩き回っていた。戦闘は極力避けて、アンデッドが出た場合だけ容赦なく浄化だ。
おかげで、僕たちはしつこく追いかけてくる狼型や鳥型の魔物が嫌いになりかけていた。
合間合間に、僕はテミス様から依頼された像を仕上げていく。
素材のおかげでだいぶ楽ができていて、もうすぐ完成というところにまでこぎつけていた。
ルナルナの知っている名所の引き出しが尽きたから、僕たちはマリアさんに遠出するという旨を伝えて、旅に出ることにした。
このゲームは旅人のゲーム、旅に出ることは何もおかしなことではないのだけれど、ゲームが始まってから基本的にはずっとマリアさんと一緒の教会で働き続けていた僕からすれば、これは初めての旅立ちとなるものだった。
それから、僕たちは野を超え―――
「あ、ソアラ、久しぶり」
「……俺も行こう」
「えー、せっかくの2人きりだったのにぃ……ソアラレート、レティに手を出したら容赦しないわよ」
漆黒の鎧に身を纏った聖騎士を仲間に入れ―――
山を越え―――――
「レティ姉、たまには一緒に遊びたいなって……迷惑かな?」
「いいよレナ、一緒に行こう」
「むぅぅ……レナ、レティは私の彼女兼彼氏だから、手を出さないでね」
「ヤッ!! そっちこそ、私の姉ちゃんを独り占めしないで!!」
「……レティは人気者だな」
かわいい妹をパーティに入れ―――
海を越え――――
「あ、テミス様に捧げるものがあるから教会に寄っていくね」
そして国境を越え――――
僕たちは帝国にたどり着いた。
感想より
Q、強制フィギュア制作者プレイ(♂)
レティが居ない間例のネクロマンサーの討伐難易度上がってそう
A,割と物語的には神像づくりが大切だったりします。
死霊魔術師の討伐水晶レベルは40の6人パーティです。
Q,女神様達のレア様に対する愛は普段真面目な印象を持つ女神様ほど凄まじい度合いになっていそう……
A,威厳が重視されている神様ほど、レア様に甘えたくなるということになっています
ちなみに、レア様が好きな女神さまは以下の通りになっています
大好き:ヴィクトーリア テミス アストレイア コン
好き:ルキナ エリーニュス
普通:ネメシス ルナ ヘメラ





