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約定の女神テミス

◇――――――――――――――――――――――――――――――◆

 ここは神域Arcadiaの神々が住まう場所。


 ある場所は木々が生い茂り、またある場所では火山が常に火を噴き、そしてある場所では見渡す限り何もない空間が続いている。

 そんな神域の一角、最も自然が豊富な空間にひっそりとたたずむ家の中に、彼女たちはいた。

 片方は母のような、圧倒的包容力を持ち得る慈母の女神。

 もう片方は勝気で陽気な勝利の女神。

 慈母の女神の居住で、二柱の女神がいつものように顔を合わせる。


 ただ、この日はいつもと少し違う部分もあった。

普段は気丈にふるまう勝利の女神といっても、感情のある一つの個でしかなく、その心にストレスをためることもある。


 今日、溜まりに溜まったストレスが、勝利の女神をおかしくしていた。


「ばぶぅ」

「よしよし、いい子ですね~」


「きゃっきゃっ、まんま、まんますきー」

「あらあら、とっても嬉しいわ~私も大好きよ~」


 勝利の女神の名で知られ、誰よりも強く気高い女性とされているヴィクトーリアは、ため込んだストレスが爆発して幼児退行をして慈母の女神であるレアに甘えまくっていた。


 もし、こんな姿を信徒が見ようものなら、改宗待ったなしの光景だろう。

 だが、ここは神域、それも神の居住だ。


 入ってこれるものはほとんどいない。


「まんま、ちゅーしてぇ」

「あらあら、こうかしら?」

チュッ

 レアは自分の膝の上で横になっているヴィクトーリアの額に唇を落とす。それに対して、ヴィクトーリアは頬を膨らませた。

「えぇぇん、おくちにちゅーしてほしかったのぉ」

「あらあら、いけないこね」

 見てもらったらわかる通り、ヴィクトーリアはレアのことが大好きである。もともと、レアという神は神々の間で人気のある神様であったが、彼女のそれは異常である。

 そんな好きなレア相手に、唇にキスしてくれと図々しい頼みごとをするヴィクトーリア、当然、彼女をかわいい子供程度にしか思っていないレアはその要求を断る―――――


 ちゅ


――――なんてことはなく、何のためらいもなくヴィクトーリアの唇に自分の唇を落とした。

「きゃっきゃ…ふへへぇ」

 赤ちゃんと化してしまっているヴィクトーリアも、これには満面の笑みだ。

 ちなみに、レアではあるが彼女も誰にでもこうして唇を許すわけではない。彼女の唇を許されているのは、実は一部女神だけだったりする。

「もっと、もっとぉ」

「はいはい、いけないこね~。本当にかわいいわぁ」

 

 ヴィクトーリアのストレス発散のこの赤ちゃんプレイではあるが、レアの方も甘えてくるヴィクトーリアが可愛らしく思えて、楽しんでいた。

 再びヴィクトーリアに唇を落とす。

「まんま、おっぱいちょーだい」

「あらあら、仕方ない子ね。出ないから雰囲気だけで我慢してね」


「あぁい、ちゅー」


 二柱の神は2人きりの空間をこれでもかというほど堪能していた。




 そして、それから少しして、正気に戻ったヴィクトーリアは顔を真っ赤にして逃げるようにレアの家を出た。

 確かに、それを望んでいた節はあったが、気高くあるべき自分があんな恥ずかしい姿をしていたという事実が、彼女の心を揺さぶった。

 それと同時に、大好きなレアとあんなに親しく密接に接することができたのは単純に嬉しく、自分の居住に帰るヴィクトーリアはくるくると踊るようであった。


 ストレスの発散が終わり、最高の気分で帰宅したヴィクトーリア。

 だが、そんな最高の気分はすぐに断ち切られるようになる。


「あっはは~ただいま~」

「はい、お帰りなさい。待っていましたよヴィクトーリア」


「げっ、テミス…」

 約定のテミス、法と制約をつかさどる女神が、ヴィクトーリアの居住に堂々と侵入して家の主を出迎える。

 そんな彼女の姿を見たヴィクトーリアはうめき声を上げる。

 ヴィクトーリアは、テミスのことを少し苦手としていた。


「あなた、他の神の信徒に神託を出した挙句の果てに、貢物を強要しましたね?」

 その理由がこうして規則にうるさいことが原因だ。

 ヴィクトーリアは自由奔放な女神、規律を重んじるテミスとはどこか相性が悪いと言えた。

「いいじゃないそのくらい。それに、強要したわけじゃないわ。お願いして、ちゃんと向こうがいいって言ったから頼んだだけよ」

「私たちの頼みを、信徒たちは断れないのをわかっていっています?」


「いいや、本当に嫌なら断っているはずよ。きっと、彼女も私のために何かしたかったんだわ」

「ともかく、その信徒に作られたものは没収します。あなたの貢物箱はこちらでしたね」


「え? もう来てるの!?」

「異なことを、あなたが信徒を使って催促したと聞いていますが?」


「誰がそんなこと言ったのよ!」

「ネメシスがおっしゃっていました」


「くっ、あの覗き魔」

「では、さっそく行きましょうか」

 テミスは容赦なくヴィクトーリアの居住を突き進み、そしてその奥に鎮座する巨大な箱を開けた。

 その中には、贈られてきて、まだ中を確認していない信徒たちからの贈り物が入っていた。

 その中に一つ、縦長の木の箱があり、テミスは迷わずそれを手に取った。


「木の箱、と聞いていましたが、これっぽいですね。若干ですが、慈母の香りを感じます。おそらく、レアのところの信徒が作ったものでしょう。これは没収しますね」

「やめて!! やめてよテミス! それだけは勘弁して!!」


「これを許してしまえば、あなたはまた同じことをするでしょう。これは見せしめです」

「テミスの分も作ってもらうからぁ、それだけは許して!」

 みっともなく食い下がるヴィクトーリア。

 勝利の女神ならば、力づくで追い出せばよいのではと思われるかもしれないが、非がある相手に対してテミスは強い。

 ヴィクトーリアでも簡単には追い出せない程度には。


 だから、ヴィクトーリアは交渉を持ちかけた。


「テミス、それを返してくれたら、あなたの分も作ってもらうわ」

「はぁ…もともと、レアの信徒なのでは?」


「これと引き換えに、神授魔法があの子には手に入るようになっているから、実質私の信徒よ」

「はぁ…そもそも、これって何が入っているのです? そんなに必死になって」


 テミスは純粋な興味からか、木箱を開いて中を確認した。

 そして、息を呑んだ。

「これは…」

「どう? あなたも自分の分が欲しいでしょう?」


「……まぁ、特例として今回だけは認めますが、次はありませんからね。後、製作依頼は私自らがすることにしますので、あなたは不要です」


 約定の女神、テミス。

 彼女もまた、レアの母性にやられてしまっている女神の一柱であった。

 

 テミスは素直にそれをヴィクトーリアに返して、自分の居住へと帰っていく。

 その後姿を見てヴィクトーリアはガッツポーズをして、届いたレアの像を抱きしめた。


「ん~~、はぁ、流石に木製だから本物の柔らかさはないし、小さいから物足りないわね。でも、いい貰い物をしたわ」


 これで、レア欠乏症になっても一時的にしのぐことができる。

 ヴィクトーリアは届いたレア像を非常に満足した表情で見つめていた。

◆――――――――――――――――――――――――――――――◇


 司祭になった僕は、初めの街に戻ってきて教会に行った。


 教会に入ると、マリアさんが飛んでくる。

「レティさん!! まったくどこに行っていたんですか!? 長くいなくなる時は連絡を入れてからって言っていたじゃないですか!!」

「ごめんなさい、マリアさん。何分急に聖都に行くことになってしまいまして」


「へぇ、今回は聖都ですか。あそこいいですよね。空気が澄んでいるっていうか、なんていうか」

 今回は前回のように泣かれるようなことはなく、あっさりと受け入れられてしまった。

 多分だけど、信用されていなかったんだろうなって思う。


「あ、そういえばマリアさん。聖都に行ったついでに僕、司祭になったんですよ」

「はえ?侍祭?」

「司祭です」

「助祭?」

「司祭です」

「主菜?」

「司祭です」

「副菜?」

「司祭です」


「……えぇ、後輩が知らない間に大躍進してたんですけど」

 聖都に行って、司祭になったという報告をしたらマリアさんは力が抜けるように気絶した。

 マリアさんは立った状態で意識を失ったので、力なくその場で倒れそうになっていた。なので肩に手を添えて支えてあげる。

 そのまま待っても起きる気配がなかったので、教会の奥に休憩室があったなと思った僕はマリアさんを担いで休憩室まで運ぶことにした。


「浮気?」

「違うよ!?」


 僕の想いが成就してから、ルナルナは執拗なまでに浮気を疑ってくる。そんなに心配しなくてもいいと思うんだけどなぁ

 マリアさんを休憩室のベッドに運び終えた僕は、彼女が目を覚ました時に一人では心細いだろうと思いベッドから見える位置に座っていることにした。


 彫刻をしながら待とうかとも考えたけど、せっかくルナルナがいるから僕は彼女とお話をすることに集中して時間を過ごした。


 そして、体感数分ほど話をしていたら、マリアさんが急に発光し始めた。

「え? え?」

「ちょっ、あの人大丈夫なの!?」


 いきなり光りだしたマリアさんに僕たちはたじたじだ。

 何をしていいかわからずに、とりあえず目を離さないようにだけは心掛けた。

 そして、マリアさんが目を瞑ったまま起き上がり、こちらの方に体を向けた。


「そこにいる慈母神レアの信徒よ、聞こえますか?」


 それは、マリアさんの声だったけど、抑揚というものをほとんど感じさせない声でマリアさんが喋っているというより、他の誰かがマリアさんの体を使って喋らせていると言った印象だった。


「貴方に神託を授けます。慈母神レア、その像を等身大で作りなさい。また、素材としてこれを使うことを指定します」


 マリアさん?はどこからともなく巨大な灰色の塊を取り出し、僕の前に置いた。

 等身大のレア様像? ってことは、この人は神様? では、この素材は?


 僕は疑問に思って、灰色の塊を指で撫でてみる。すると、それは程よく弾力があり柔らかく、そして人肌ほどに暖かかった。


「それが完成した暁には、あなたに約定の力を授けましょう」

 マリアさん? はそれだけ言って発光するのを止めて、再びベッドに入り眠りについてしまった。

 それからすぐに、マリアさんの体が起きる。


「はっ!!? 今、テミス様がいらっしゃった夢を見たような!!?」


 その声は、いつものマリアさんの調子だった。


 ってか僕、またレア様を作るのかぁ……まぁ、いいけど


感想より

Qゴーレムとかの無機物は縛り的におっけーなのでは?勝てるとは言っていない

A縛り違反にならないし、同レベル帯なら大体勝てますが、回復魔法で耐久してクソ雑魚パンチを放つだけで大変効率が悪いのです。ご指摘通り、無双はアンデッドだけになります

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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
[一言] 強制フィギュア制作者プレイ(♂) あと、レティが居ない間例のネクロマンサーの討伐難易度上がってそう
[一言] 女神様達のレア様に対する愛は普段真面目な印象を持つ女神様ほど凄まじい度合いになっていそう……
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