司祭の試練(Hard?)
司祭とは!!
上位聖職者の一番上のことであり、小さな村や街くらいなら任されるほどの存在である、以上!
そんな司祭にならないかと、今、僕が大司教に言われているのだ。
あまりにも突然のことであったので、少し混乱している僕に気を使ったのか、ルナルナが言葉を挟んでくれる。
「すみません。その司祭っていうのにレティがなったらどうなるんです?」
「君たちは旅人でしょう? 別に教会に縛り付けるつもりはないわ」
「そ、それなら……」
「司祭になるのね? なら、さっそく試練を受けましょう」
特に制約とかがないのであれば、司祭になれるならなっておくのも手かなと思いそういう意思を見せようとしたとき、大司教は僕の言葉を最後まで聞くことなしに了承したと判断して僕を引っ張って聖都に戻る。
そして、ずるずると教会本部へ。
僕たちがそのまま大司教に連れられて行ったのは、教会本部の地下。
広大な広場を囲むように、いくつもの大きな扉がある部屋だった。その部屋はどこかで見覚えがあり、どこだったかなと記憶を探ると、それはソアラが聖騎士になる際に受けた試練もこんな感じの部屋だったなという記憶が掘り起こされた。
「さて、司祭昇格の試練の間は――――あれね。こっちに来なさい」
いくつもある扉のうちの一つの前に僕たちは呼ばれて、そちらの方に行く。
大司教は、その扉を開いた。
「司祭に求められるのは、信仰心もだけれど力もなの。だからこの先の試練を突破してみなさい」
僕は大司教に言われて、扉の先に行こうとした。
「レティ、私に何か手伝えることってないかな?」
そこで、ルナルナがそんなことを言い始めた。
それを聞いた大司教は少しため息をついて、呆れたように答える。
「これは試練よ。一人で乗り越えなければ意味がないの。あなたは一緒に扉に入ることはできても、手出しはできない。あなたが入ることでそっちの修道女が迷惑をこうむることになるわ」
「うっ、そうなんだね…」
「大丈夫だよルナルナ。君がいても僕は何とか乗り越えてみせるから、ついてきて僕のそばにいてほしいな」
「え? いいの?」
「あなた、正気?」
「ええ、僕が目指しているのは司祭ではなく、もっと上の聖女なんです。このくらい、余裕で突破できないと話になりません」
「聖女、ね。いいわ、許可しましょう。だけどその代わりに、私も入っていいかしら?」
「え? 大司教が?」
「ええ、聖女を目指すと言っているあなたの力、私が見定めてあげましょう」
そんなこんなで、僕たちは結局全員で扉の先に入ることになった。
試練を受ける人が最初に入らなければいけないということで、僕が先頭になって扉の先に入る。
扉の先は、街の中だった。
それも見覚えがある。
「ここは…聖都?」
僕が扉をくぐって真っ先に見た光景は、先ほどまで自分たちが歩いていた聖都の街並み、しかし、そこに人の活気はなく、静まり返っていた。
まるで、聖都という入れ物だけをここに再現したみたいだ。
ほどなくして、僕と同じようにルナルナと大司教もこちらにやってくる。
「そういえば、まだ試練の内容を言っていなかったわね。試練の内容はいたってシンプルよ。今から10分後、聖都中から湧いた死霊たちがここに向かって殺到するわ。それから一時間、生き残れば合格よ。逆に死んでしまえば、それまでね」
成程、聖騎士の試練とは違うらしい。ただ、相手がアンデッドというのは僕にとってはプラスの材料だ。
心置きなく敵を倒すことができるから。
「道具の使用は許可されているわ。持てる力全てを使って乗り切ってみせなさい。ちなみに、私たち二人が入っているから通常の2.25倍の死霊が湧くはずよ」
どうやら1人追加で人員が入る度に、死霊の数が1.5倍になるようで、2人追加で入っているから今は2.25倍なんだそうだ。
10分後、ということで僕はその場で待機することにした。
こうして何もせずに10分待つという行為は、案外長く感じられるもので、途中ちらりと確認した時にじっとこちらを見ている大司教を発見してしまって、何やら居心地の悪い気持ちにさせられた。
それから、10分が経過すると、急に夜になり、空に赤黒い月が浮かび上がって辺りを照らし出した。
もう始まるのだなって、その演出一つで分かる。
アンデッドが湧き始めた。
その種類は膨大で、いちいち何が迫ってきているのかを認識するのは難しい。
試練の目的は生き残ること、とあれば、逃げ回って一時間といってもよいのだろうけど、今回は観客がいるため、そちらにアンデッドが行くことを考えると戦うしかなかった。
僕はアンデッドを弱体化させるために『生命結界』を張って様子を見る。
アンデッドたちは、結界内に入ると少し苦しそうにしていたが、それでも僕への進軍はやめなかった。
「これは、100や200じゃきかない数のアンデッドがここに向かってきているね」
僕たちがいるのは、聖都の中でも教会本部があった場所だ。
そこは、聖都の中央といっても過言ではなく、四方八方からアンデッドたちがこちらに向けて殺到している気配を僕は感じ取っていた。
結界では力不足、数が多いとなると、僕がとれる手は限られてくる。
僕は、出し惜しみすることなく聖域を展開した。
強烈な光、生き物の網膜を焼くその光は、僕たちの視界を一気に奪い取る。
だけど、一部のアンデッドにはこの光は効果がなかった。
いや、むしろ効いていない相手の方が多いだろう。理由はアンデッドが光ではなく生命力を見て敵味方を判断しているため。
アンデッドの中でも目つぶしの効果があるのは、吸血鬼とかの人に近い種族だけだったりする。
双子のように、効く方が稀なのだ。
さて、結界と違い聖域は割合計算の定数回復ではない。
そのため、脆弱なアンデッドは容赦なく聖域の効果で消滅していく。それなりに強靭なアンデッドも、近づく間にボロボロになるはずだ。
「これで、10分は耐えられるね」
「うぅ、レティの格好いい姿を見に来たのに、光で何も見えないんだけど」
ルナルナが目を抑えて、悲しそうにしている。
「これはまさか、聖域かしら?」
「えぇ、内に入ったものを容赦なく癒し、光で戦闘を停滞させるってコンセプトの聖域です」
大司教は、僕が聖域を展開したことに驚いていた。
「すごいわね。聖域展開なんて、大司教になるころにようやく使えるようになるような代物よ。ヴィクトーリア様から直接使命を受けるだけあって、それなりにやるようね」
「お褒めにあずかり光栄ですっと」
僕はヘロヘロになった体で僕のもとまでたどり着いた元々はかなり強かったであろうアンデッドを蹴り砕く。
そして、聖域で稼いだ時間を使って、僕はアイテムボックスから魔力回復薬を取り出し、それを一気に呷った。
これにて僕の魔力は大幅に回復して、不測の事態にも対応できるようになるだろう。ただ、狙いはそこではない。
10分経てば、閉じてしまう僕の聖域、それを再び展開するための魔力の補給だった。
一応、10分もあれば自動回復でそれなりに回復をするのだけど、念のために薬で回復した。
聖域の中を突き進んで、ここまでたどり着けるアンデッドはここに迫ってくるアンデッドの総数に対してかなり少ない。
僕は、案外暇になってきたので聖域の設定をいじくることにした。その内容はエフェクトの光量を減少させることだ。
このままだとルナルナが一時間ずっと両目を抑えているというちょっと面白い状態が続くので、それだとかわいそうだと思い再設定したのだ。
そして、聖域の再展開の時。
今度は光量が控え目な聖域が展開された。
「あれ? 見える? もしかして目が慣れた?」
ルナルナが突然見えるようになって首を傾げている。
「光を抑えてみたんだ。ここでは意味がないみたいだからね」
「もしかして、私のために?」
光が減っても、効力が変わらない聖域。
よく見えるようになったおかげで、遠くで倒れていくアンデッドたちがよく見える。
ゾンビやスケルトンといった下級のアンデッドでは、3秒持たずに消滅していく姿がここからでもよく見えた。
そして、たまに体力が多い腐巨人や、足の速い腐狼みたいなアンデッドが僕のもとまでたどり着くことがあったが、それらは僕の身体を少し傷つけるだけ傷つけて、体力の限界が来たのか消えていく。
それらのアンデッドたちが決死の思いで僕に着けた傷も、聖域の効果で即座に回復する。
この結界内では、生き物は簡単には死ねないようになっているのだ。
時折、レア様由来の魔法は回復力が高すぎると思うときがある。ゲームバランスが取れているのかと、心配するほどに。
この聖域の毎秒回復効果だが、一秒待てば僕の体力が半分は回復しているだろう。毎秒ごとにヒールを自分にかけているようなものだ。
そんな過回復ともいえる回復に加えて、聖域はアンデッド特攻を持っているため毎秒恐ろしいダメージが入っている。
多分、今この時の僕のDPSを数値化したら面白いことになっているだろう。
そんなことを想いながら聖域が切れたら再展開、たどり着けた敵がいたら少しの間耐える。というのを繰り返して残り50分を過ごした。
最後の方は、下級アンデッドはほとんど出てこず、僕のもとまでたどり着けるアンデッドが増えていたが、それでも近づくまでに満身創痍―――アンデッドにこの表現が正しいのかは知らないけど―――だったので、錫杖を使って転ばしてあげれば起き上がってくることも無く消滅するなんてざらだった。
こうして、僕は司祭の試練を突破した。





