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新たな日常

 

 僕の人生初の告白は、幸運にも成功に終わった。

 あの日、雛月さんに想いを伝えた日の夕飯に、彼女が同席すると知った時は心臓が破けるかと思うほど早鐘を打ったものだ。

 そこで、僕の想いを受け入れてくれると言われたときには、嬉しすぎて涙を流したほどだ。


 よく、初恋は成就しないと言われるけど、僕の場合は目の傷というつながりがあったからか実ってくれたみたいだ。


 雛月さんの命だけではなく、僕の恋路も助けてくれるなんてあいつ、いい奴だったんだなって冗談交じりに思った。


 それはともかく、告白から一日がたった今日、丁度土曜日だからか雛月さんが朝早くから家にやってきた。

 どのくらい早くか、といわれると、僕が目を覚ました時にベッドの横に座っていたくらいだ。


「おはよう光君」

「うん、おはよう雛月さん」


 柔らかな声で、おはようと声をかけてくれる彼女がいるのは幸せなことだなと思いながら体を起こして、当たり前のように雛月さんがいることに疑問を覚える。


「……いや、なんでいるの?」

 当たり前のようにいて、当たり前のように声をかけてきたから、当たり前のように返事をしたけど普通に考えておかしいと思う。


 僕が戸惑いながらそう問いかけると、彼女はいたずらが成功したといった風にふふっと笑って答えた。


「別に、私が朝起こしに来てあげたいから来ただけ、嫌だったらいつでも言ってね」

「嫌なんてことは…」


 ないと言いかけて、ちょっと待てよと、雛月さんは起こしに来たと言っていたけど、僕が起きるまでじっと待っていなかったかと思い至る。

 じっと、雛月さんの声がする方向に顔を向けてみたけど、彼女は何も反応を示さない。


 僕は小さくため息を吐いて、まぁ雛月さんなら何でもいいやと考えてあきらめることにした。

 

「今日の光君の朝食は私が作ったの、飛鳥さんにいろいろ教えてもらったから、きっと気に入ってくれると思うわ」

「ええ、作ってくれたの!? すっごい嬉しい」


「喜んでもらえてこっちもうれしい。さっそく食べて、下にもう用意してあるから」

「わかった。すぐに行こうよ」


 僕がベッドから起き上がり、朝食を食べに行こうとしたときに、雛月さんの手が僕の手を包み込んだ。

 少しだけひんやりとした、細い指の手に包まれた僕は少しの心地良さを感じる。

 いきなりどうして、そう思い彼女のほうに顔を向けてみると、転ばないようにって優しくいって僕の手を引いてくれた。


 僕はもう、この生活に慣れているから、自分の家なら何も持たずに移動くらいはできる。

 だけど、彼女はそんなことを知ってか知らずか僕の手を引いて歩いた。


 朝食は、白米に味噌汁、卵焼きと煮しめといった和風のメニューだった。

 彼女が作ってくれた料理だから、劇的においしい、というわけではなかったけど、普通においしいと思った。これならば、毎日食べてもいいなとも。


「光君は、今日は何をするの? またゲーム?」

「いいや、今日はやめておこうかな。せっかく雛月さんが来てくれたんだから、二人で一緒に何かしよう」


「そう、なら一緒にどこかにお出かけしない?」

「デート?」


「そ、そうね。デートに行きましょう。どこか行きたいところはある?」

「そうだね。人が多いところは気疲れしちゃうから、静かなところがいいな。植物園とかどうかな? 雛月さん、あそこが好きだったでしょう?」


「……私は…うん。そうね。ずいぶん行ってないから、行きましょう」

 僕たちは、その日はゲームにログインをせずに一緒に2人で出かけることにした。行き先は先ほど述べたように、植物園。

 施設を駆使して様々な気候の植物が揃えられているその場所には、昔、雛月さんの家族と一緒に遊びに行った思い出がある。

 そこには面白い植物がいっぱいあって、子供心がくすぐられて本当に楽しい思い出として今でも僕の中に残っている。

 

 だけど、僕の目が見えなくなってからは一度も行っていなかった。僕だけではなく、雛月さんも

 だから、これを機に一緒に行きたいと、過去は振り払ってほしいと思ったのだ。


 僕たちは身支度を済ませて、昼前には家を出ることにした。

 僕の身支度は、恥ずかしながら妹の響に手伝ってもらった。


 雛月さんに素敵な彼氏だと思ってもらえるように、全力で僕をコーディネイトしてくれと頼まれた妹は、果たしてどんな風に僕を作り上げたのか。

 当人曰く、会心の出来栄えだというから、安心して待ち合わせ場所―――といっても家の前なんだけど―――に行ってみると、僕の想像とは違う反応が返ってきた。


「あっはっはっは光君、いや、ひかりちゃんかな? すっごい似合ってるよ」

「……服の肌触りからもしかしてって思ってたけど、僕今女装してる?」


「女装はいつものことだよね? でも、今日は肩だしでいつもより露出が高くてだいぶ攻めているわね。響ちゃんプロデュースかな?」

「よくわかったね」


「あの子は割と大胆に行くのが好きみたいだからね。でも、本当にすごいわ。背が高いからすらっとした美人さんになっちゃって、これだと私の方が男のカップルだって思われちゃうかな?」

「僕には見えないから、正確なところは言えないけど、きっと雛月さんのほうがかわいいはずだよ」


「もう、何を根拠に」

「朝、起こしに来てくれて、ごはんまで用意してくれる彼女さんが、デートの時に身だしなみを整えていないって考えづらくってね」


「うっ、まぁ、最低限は整えて来たけど、君には敵わないわね。……ねぇ、知っている光君?」

「何をさ」


「Arcadiaでの私のアバター、あれは初期設定、つまり現実世界のものをそのまま使っているの。山本も、宗方も、みんなそうなのよ」

「あれ? そうだったの?」


「ええ、みんなあなたに大きくなった姿を見てほしいって、ありのままを見せたいって思ってそうしているわ。私もおんなじ」

「そうだったんだ。なんか、ごめんね僕だけアバターを変えちゃって」


「いいのよ。変わっていても2Pカラーになったくらいだから、すぐにわかるわ。それより、そろそろ行きましょ」

「うん。今日はよろしくね」


 僕は転ばないように、雛月さんの手をとる。

 昨日から僕たち二人は恋人同士、そのことを意識すると、手をつないでいるだけで胸の鼓動が速くなっているのを感じた。

 早く収まってくれと、自分に言い聞かせていると


「やっぱり、これじゃ不安定だからこうしましょう」

 雛月さんがそう言って、僕の腕をとって自分のものと組んだ。

 思わぬ身体の密着に、僕はどぎまぎしながら歩く。


「あ、あの雛月さん?」

「光君、苗字呼びは他人行儀だと思わない?」


「えっと、じゃああかりさん?」

「うん、うん……そうだね。そう呼んでくれたら、とっても嬉しいわ」


 僕はドキドキが伝わってしまうから、離れてと言おうとして、言えずにいた。きっと彼女を傷つけてしまうだろうし、それ以上に


 

 僕の身体を伝わる胸の鼓動が、一つではないと気づいてしまったからだ。

 

「あかりさん、無理してない?」

「してない!!」


 ちょっとムキになって否定する彼女はとってもかわいいと思った。















おまけ

植物園デートから帰ってきた後の話

夕食中の出来事

「まさか、ナンパされるとは思っていなかったね」

「私はそういうこともあるかなとは思っていたけどね」


「思ってたの!? 普通男連れの女の人をナンパってしなくない!?」

「いや、思い出してほしいんだけど、光君の格好は女子だよ?」


「あ、……でもさ、いくら女性服を着ていても男だってわからないかな?」

「光君に関して言えば、背が少し高いような気もしなくはないけど女の子だね。運動とかやってないから華奢だし、肌とか髪の毛は妹ちゃんとお姉ちゃんに入念に管理されているみたいだからね」


「う~ん、そういうものかなぁ」

「あ、ナンパが嫌だったら私が次回から男装していくわ」


「それだったら僕が普通に男物の服を着ればよくない? というか、どうしてみんな僕に女性服を着させるの?」

「貴方のお姉ちゃんはかわいい妹が欲しかったらしいわよ? 詳しい話は本人に聞いてみたら?」


「怖いから却下で」


ここまで2章です。

次から3章ですが……プロットが終わってません。

急ぎますが、次回は明日に投稿…できないかもしれません。

確実に明後日までには3章1話を上げますので、それまでお待ちください。



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