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僕の世界

キリよくするために少し短め


 通常、人間は目で見て物を判断する。


 だから、僕の使う聖域のような、人の視界を遮る魔法は影響範囲にいる人にとってはデメリット効果にしかならない。

 だが、その影響をあまり受けない人間もいる。


 それが僕のような、視覚を封じられることに慣れている人間だ。


 僕は生まれつき目が見えないわけではなく、とある事件をきっかけに視力を失うこととなった。つまり、人間の視力の重要性というものを他の人より良く知っていて、それを突然奪われたときに、どれだけ動けなくなるのかというのも大体わかっている。


 今回の場合、戦場にいたのは4人の人間……人間? 2人と双子だ。


 全員目で見て物を判断しており、これを奪われることは戦場の秩序を著しく崩壊させる要因となった。

 ルナルナは動かず、双子は周りに当たり散らすかのように床や壁を殴る。


「ルナルナ、一歩踏み込んで斧を横に振りぬいて!」

 しかし、この状況下でも僕は全員の大体の位置と大体の状況はわかっていた。


 僕は普段から、視力に頼らずに空間を把握する練習を、現実世界でトランプタワーを作る等の行為によって行っていた。

 だから、開始地点と相手の行動さえ読み取れてしまえば、光の中に何があるのかを正確に把握できるのだ。


 僕は、光に目を焼かれるのを防ぐために、アイテムボックスから取り出した革製の目隠しを巻いて、ルナルナに指示を出した。

 彼女は、僕を信じて一切の迷いなく大きく一歩だけ前に踏み出し、戦斧を全力で振りぬいた。


『ぎゃああ!』

『サーシャ!? 大丈夫か!?』


 その一撃は、妹の頭に直撃した。光の中から悲鳴が聞こえてくる。

 兄の頭は、それに対してカウンターを放つべく、腕を伸ばしたが、空気を切る音だけが部屋の中に木霊する。


「ルナルナ、大きく後ろに後退! 斧を振りかぶってその状態で待機、僕が合図を出したら思いっきり振り下ろして!」


 僕の指示に従い、ルナルナが離脱して双子から距離を取った。

 確証はないけど、彼女はもう戦斧を振りかぶって待っているはずだ。そして、目の見えない双子の方は――――


『そこかぁ! よくも俺の妹を!』

『そこね! 私たちの恨みを受け取りなさい!』


 ルナルナは声を出さないが、僕は声を出しているので向こうから見ても何となくだが居場所がわかるのだろう。

 双子の体と闇の魔法、どちらか、もしくはどちらも向かってきているはずだ。


 僕はそれを走り回って回避する。


 だが、これで終わりではない。双子は僕の足音を聞いて、おおよその位置をつかみそちらの方向へ攻撃を繰り出してくる。

 しかしそれは結構大きく外れてしまい、当たらない。皆も経験があるだろうけど、真夜中に蚊の羽音をもとに手を伸ばしてもなかなか捕まえられないのと同じだ。音は対象の場所を読み取る重要なファクターになりえるが、それを視覚情報の補助がなしに正確に読み取れるようになるには練習が必要だ。


 双子はほぼあてずっぽうで僕に攻撃を繰り返す。


「ルナルナ!! 今!!」

 僕は逃げながら追いかけてくる双子に合わせるように、指示を出す。


 一瞬、見えないながらも僕の横を何かがすれ違ったような気がした。そこには、僕の認識が間違いでなければルナルナがいて、今、戦斧を振り下ろした瞬間のはずだ。


 戦斧が、今度は兄の方の頭を叩いたのだろう。

 兄の頭のうめき声が聞こえ、妹の頭が献身的に回復を行う音が聞こえる。


「ルナルナは前方に6歩分走り抜けて! そして僕は…」


『後ろ、そこかぁ!』

 僕の指示は、双子の方も聞くことができる。だから、それを聞けば声を上げないルナルナの位置もある程度把握できると考えたのだろう。

 攻撃後、すれ違うように双子の後ろに走り抜けようとしたルナルナを、兄の頭が攻撃しようと振り返る。


 だけど

「その間に妹側の頭を破壊する!!」


 大声でその言葉を叫べば


『サーシャ! 危ない!』


 たとえ僕が攻撃態勢に入っていなくても、僕の声がした方向に頭を伸ばすしかない。この戦闘中、ずっと見ていたからわかる。双子の兄は何としてでも妹を守ろうとして、そして妹は自己回復ができない。


 だから先ほど、聖域を展開してすぐに妹の頭に傷をつけたのに、回復するそぶりはない。

 妹の頭は、途中から聖域の回復効果によって受けたダメージを回復させている。しかし、妹の頭は回復する様子はなく、ボロボロと崩壊の音を響かせ始めていた。


 もう、彼の妹は僕が手を下さなくとも聖域の効果で朽ち果てるだろうと思われた。


「ルナルナ、僕の声がする方に向けて斧を振りぬいて! 振りぬいたら右手側にとにかく走って!!」


 ブォンという、戦斧が空を切る音がする。みんなの場所がわかっている僕からすればそれは当たるわけのない一撃だが、二度もしてやられている双子からしたら、先ほど後ろに回ったパワー型キャラの攻撃は無視できないだろう。


 後方に向けて防御行動をとる。しかし、その一撃は空振りに終わっていて僕に騙されたことに遅れて気づいたのだろう。

 慌てて振り向き、僕の方に腕を振りぬいた。


 だが、もう僕はそこにはいない。一瞬、僕から意識を外したとき、靴を脱ぎ捨てて走り去っている。


「あだっ!!」

 僕がこっそり逃げ出した後は、僕の指示に従い走っていたルナルナが壁に到達してそれに気づかず激突して声を出してしまう。

 それの声に向かって、双子が動き始めた。


 だけどそれより前に僕はもう動き始めていて、双子がルナルナの場所に到達するより前に僕はそこにいて、

「ルナルナ、嫌かもしれないけど声を抑えてね」


 彼女を抱えて逃げていた。


ドガァン! と、壁に何かをたたきつける音がする。

『どこだぁ! どこに行った!』


 僕はそのまま、ルナルナを抱えたまま足音を消して逃げ続けた。しかし、それだけだとラッキーパンチもあるかもしれないので、時折アイテムボックスからポーションを取り出して遠くに投げつけて音を立てる等、攪乱工作もしたりした。


 そうして、時間を稼ぎ続けていると、双子の体に異変が起こる。


『兄様…私…ごめん、な、さい』

 妹の頭が聖域の回復効果で力尽きたのだ。


『サーシャ? サーシャァァァ!! しっかりしろ! ずっと一緒にいるんだろう!!?』

 兄の頭の慟哭が、部屋の中に響き渡る。

 そして、兄の頭は怒りに我を忘れて周りの者を攻撃し続けた。


 だけど、双子―――いや、もう双子ではないな、彼の場所を正確に把握し続けることができている僕は、無差別に周りに攻撃する程度ではとらえられず、兄の方もいずれ力尽きた。

 そして、聖域が消えた部屋の中は、聖域展開前に比べて明らかに荒れており、双子が力尽きたと思われる場所にはそれぞれ一冊ずつ本が落ちていた。


「終わったよ」

 僕は抱えていたルナルナを降ろした。

「…そうね」

 ルナルナはこの惨状を見て、悲しそうにつぶやいた。


「元気がないね」

「罪悪感がすごいわ」


「……ごめんね。僕がここを暴いてしまったばっかりに、君にそんな気持ちにさせて」

「レティは何も悪くない。悪いのは……」


「とりあえず、あの本を拾ってみようか。何か、わかることがあるかもしれない」

「…そうね」


 敵といえど、あれほど互いのことを想い合っていた二人を倒したのは心に堪えたのだろう。どこか元気のないルナルナと僕は、重い足取りの中落ちていた本を調べることにした。




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