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激突、歪んだ愛


『まずはあの邪魔者どもの排除から始めようか』

『そうですわね兄様』


 10秒ほど口づけを交わした二つの頭は、僕たちの方を見てそう言い、異形となってしまった腕を振るう。

 僕たちは距離を取ることでその腕による攻撃を回避し、僕はルナルナに『守護の加護』をかけてルナルナはそれに合わせるように異形の双子に突撃をした。


 ルナルナは妹の頭に戦斧を振るったが、兄の頭が身を挺してそれをかばった。そして、傷ついた兄の頭に妹の頭が闇魔法を当てる。


 本来なら攻撃魔法のそれを食らった兄の頭は、その攻撃でダメージを受けるはずだが、結果はルナルナが付けた傷が塞がるという結果を及ぼした。

 それに対抗するように、僕は兄の頭に『生命回帰』を放つ。


 すると、兄の頭は少しだけ苦しそうにうめいた。


「よしっ、敵はアンデッドだから討伐は可能。そしてみた感じ闇属性吸収っぽい。ということでルナルナ、闇属性の攻撃はしないように!」

「大丈夫、私は属性攻撃を持っていないから」


 今のやり取りで得た情報を伝え終えた後、僕は一応『癒しの加護』を双子に放つ。しかし、これは当たったが弾かれてしまった。

 わかっていたけどこれはボス判定なのだろう。定数回復は効果がないとみていい。


 となると、『生命結界』ではダメージは与えられないという結果になってしまう。それは残念であるが、本来の使い方の味方の回復はできるので、僕は『生命結界』を展開した。


 双子はおそらく強敵であるが、聖域の方はまだ温存する。

 これは僕が一人ではないということと、聖域は一度使うとかなりの魔力を消費するから魔力回復のための時間が必要になることが理由だった。



『兄様、ここは私が』


 妹の頭が口を開くと、口からどこかで見たような黒色の波が放たれる。


 双子に攻撃するために近づいていたルナルナがそれを受け、彼女は僕のところまで吹き飛ばされてしまった。

 そして、僕たちが重なった瞬間

『次は僕の番だね。サーシャ、君の頑張りは無駄にはしないよ』


 兄の頭がそう言って、異形の双子はこちらに向けて突進を繰り出してきた。

 これはまずいと思った僕は、吹き飛ばされて着地に失敗したルナルナを横に放り投げる。そして僕もその車線上から飛びのいた。


 その直後、僕たちが先ほどまでいた場所を異形の双子が通り抜ける。僕たちをとらえられなかったその体は、壁に激突して止まる。


 あれで自傷ダメージでも入ってもらえばよかったのだけど、壁に打ち付けられた体には目立った傷はなかった。


「ありがとうレティ、助かったよ」

「どういたしまして。体力はまだ大丈夫そう?」


「もちろん。まだまだいけるよ」

「なら追撃だ」

 

 壁にぶつかり、こちらに向き直ろうとしている双子の背中にルナルナの戦斧が突き立てられる。

 全長6メートルはありそうなその巨大な体には、小さな傷かもしれないけど、その一撃は確かに双子の体を傷つけた。


 しかし、ダメージを受ければ妹の頭が回復してしまう。


 傷がついたら即座に回復、というわけにはいかないが、頭が役割を完全に分けているのか回復の速度はかなり早い。

 その間にも、兄の頭と双子の体は僕たちをしとめようと動いている。


 基本的には物理攻撃だが、時折回復を終えた妹の頭が魔法攻撃を放ってくるからやりにくいことこの上ない。

 僕は一歩引いたところで戦っているから、それほど攻撃にさらされることはないが、僕の壁となってくれているルナルナは度重なる攻撃でダメージを蓄積させられる。


 だけど、そんな傷も僕の『生命の抱擁』一回で全回復するから、戦闘が遅々として進まない。

 根気と集中力が求められる長期戦となるのが予測された。


『兄様、後ろの女、あれからしとめましょう。その方がいいわ』

『わかったよサーシャ。君は賢いね』


 だが、双子の妹が回復役である僕から倒すことで、補給を断ちその後でルナルナを嬲り殺せばいいと提案した。

 そして兄の頭がそれを了承し、双子は前にいるルナルナを無視して僕だけを攻撃し始める。

 


 ルナルナはそれを許すまいと必死に壁となって立ち塞がるが、ボスモンスターの攻撃を一人で防ぎきれるはずもなく、かなりの攻撃が僕に殺到した。

 僕はその中で、威力が高そうなものはよけたり、錫杖を使って受けたりしながらしのいで、威力が低そうなものは体で受けて即座に回復することで耐えた。


「レティ!!」

「ルナルナは僕を狙って無防備になっているところを攻撃して、なるべく、兄側の頭を狙う感じで!!」


 ルナルナの守りを抜け、僕に到達した攻撃を悲しそうな顔で見ながら悲鳴を上げるルナルナ、そんな彼女に僕はそんな指示を出した。

 彼女は一瞬だけ迷ったが、すぐに行動に移した。大きく戦斧を振りかぶり、それを双子の体にたたきつける。


 兄の頭を狙った一撃は、狙いたがわずその側頭部にたたきつけられる。


 戦斧が頭を割り、それを見た妹の頭が悲鳴を上げる。

『兄様!!』


 即座に回復行動に移る妹の頭、そして回復の間は僕に魔法攻撃は飛んでこないので、こちらへの攻撃が少しだけ緩くなる。

 それでも、ルナルナの守りがないから僕の方へ来る攻撃は苛烈なのだけど、『守護の加護』による防御力アップと数々の回復魔法で僕のHPは半分を割ることはなかった。


「よいしょぉ!! どっこいしょぉ!」

 陽気な掛け声とともに振るわれる戦斧は、着実に兄の頭を破壊していく。今更ながら、もうあの双子は人間、というか生き物ではないのだろう。

 戦斧が突き刺さった場所からは血が噴き出るようなことはなく、ボロボロと崩れて落ちるだけだった。



「その調子だよルナルナ。そのまま押し切って!!」

「了解したわ。ほいさっさぁ!!!」


 ルナルナの縛り内容はパワーによるごり押しプレイを強制するというものなので、こういった敵が僕だけを攻撃している場面では映える。

 兄の頭は妹に回復をしてもらってはいるが、明らかにその回復は追いついていなかった。


『兄様、このままでは』

『わかっている。俺に任せろ』


 このままいけば、僕たちの勝利、彼らの敗北は避けられないと向こうも悟っているのだろう。

 行動パターンが変化した。


 兄の頭が口を大きく開けると、その口から霧のようなものが吐き出される。

 一瞬ひるんだ僕だったが、特に効果を及ぼさなかったので首を傾げた。念のため、素早くメニュー画面を開いてステータスから確認してみたけど、何かが変わった様子はない。


 しかし、僕に効果がなかったのはたまたま、僕がその攻撃に高い耐性を持っていたからであって、その霧が何も効果を及ぼさないわけではなかった。


 ちらりと目をやると、ルナルナが少し焦っていた。


「ルナルナ、どうしたの?」

「この霧、毒よ! 結構なペースでダメージを受けている!」

 む、毒だったか。僕の魔法ってHPを回復させる効果のやつは多いけど、状態異常を回復させる魔法って実はほとんど持っていないんだよね。


 でも、一応光魔法がⅢになった時に『キュア』の魔法は習得しているから、それをかけて解毒してあげる。

「ありがとう。助かるわ……でも、効果はないみたい」

「え?!」


 ルナルナ曰く、僕の解毒は確かに成功したけど毒の霧が部屋全体に充満していて、解毒してもすぐに毒状態になるのだそうだ。

 それならばと、僕はルナルナに与えていた『守護の加護』を解除し、今度は『癒しの加護』を与える。


 これで毒の体力消費を加護による自動回復で打ち消そうとしたのだ。


 しかし、毒の霧を吐いた後、双子は非常に消極的になった。

 もしかしてこのまま、毒で僕たちが倒れるのを待っているのだろうか? そう思ったが、僕には毒が効いていないし、ルナルナの毒も実質ないようなものだ。

 

 ルナルナの攻撃もまだ続いているし、それは相手の回復量を上回るペースでダメージを与えているはずだ。

 相手の攻撃が薄くなったら僕も回復魔法で攻撃ができるし、それだったら先ほどまでのほうがつらかったと思う。


 僕が急に弱くなった双子の行動に訝しんでいる間にも、戦闘は続く。


 さらにダメージを与えると、双子は防御一辺倒の亀になって僕たちが攻撃を続けるだけになってしまった。

 このままいけば簡単に勝ててしまうな。


 そう思っていた時、異変が起こった。


「うっ? え?」

 ルナルナが倒れたのだ。彼女は突然、動きが鈍くなったと思うとその場に前のめりに倒れこんでしまった。

 慌てて僕が回復魔法を使うと、何とか具合が悪そうに立ち上がることができたみたいだ。


 しかし、このタイミングを待っていた双子はそれを見逃さない。

 巨大な腕が、ルナルナを叩き吹き飛ばした。


 彼女は壁に激突して落ちる。


 僕は回復魔法をかけて彼女に近づいた。


「何かあったの!?」

「レティ、ごめんね。なぜか急に調子が悪くなり始めちゃって」


「どうして…? 何か攻撃をされたってことはないんだよね?」

「うん、何も食らっていないと思うわ。でも、本当に突然体力が減り始めたの」


「減り始めた? ってことは今も減っているの?」

「うん、そうみたい」」


 僕はとっくに切れていたが、敵が攻撃してこないという理由で再展開をしていなかった『生命結界』を展開する。

 それによって、少し楽になったのかルナルナは起き上がった。


 だが、そちらに気を取られていたからだろう。


 死角から振るわれた双子の腕が、僕の体をとらえて吹き飛ばした。


 この戦闘中、一度も半分を割ることのなかった僕の体力が残り三割程度にまで一気に削られる。

 それは、先ほど展開した結界の効果で少しずつ癒えているが、それでは間に合わないと判断した僕は即座に自分に回復魔法をかけて体力を全回復させる。


『驚いただろう?』

『さすが兄様ですわ』


『教えてやろうか?』

『お優しいですわね兄様』


 一瞬で崩れ去った僕たちのパーティを煽るような双子の声が聞こえてくる。


「いいや、何をされたか予想がついたから答え合わせはいりませんよ」


 だけど、僕はそれに対して不敵に笑ってみせる。

 これはハッタリでもなんでもなく、単純に戦闘開始直後に立てていた仮説を証明できたという自信からくる笑みだった。

 先ほどから、ルナルナの体力がものすごい速度で減っているのは言わずもがな、毒霧によって引き起こされた毒によるものだ。


 通常、毒という状態異常は一定間隔でHPに対する割合ダメージを継続的に与える効果がある。

 だからその消費量を上回る自動回復を付与してあげるだけで、毒という状態異常は簡単に無効化できるのだ。


 しかし、例外はある。

 それは死霊魔術師が使うような、特殊な毒だ。


 以前、僕が調査した時に発見したその毒には蓄積値というものが存在し、それが一定以上を超えると毒が進化するのだ。

 今回の場合、毒霧で毒を吸わされ続けて防御に専念され、蓄積値を稼がれた結果、耐性を持たないルナルナの体にどんどん毒が溜まっていって、先ほど毒が進化した結果『癒しの加護』では無効化できなくなったのだ。


 そしてこの毒は、先ほども言った通り死霊魔術師タオが使っていた毒だ。


 最初の方で使っていた闇の波動もそうだけど、おそらくだけどあの双子の能力は死霊魔術師のものに近いものが使えるようになっている。

 僕が気づかなかったのには、毒の効果は同じでも、死霊魔術師の方は霧を出すことはなく爪でひっかいたときなどにその毒を与えてきていたからという理由があるのだ。


 それがわかれば、もうあの双子に手札はほとんど残っていないことも分かった。


『強がっても無駄だよ』

『私たちの絆の力に、あなたたちは敗れるの』


「それは絆の力ではなく、奪った力でしょう? そして、その大元となっている力を僕は知り尽くしています」


『そう、でも俺たちの勝利は変わらない』

『そこの野蛮な女はすぐに倒れる。そうしたらあなたに私と兄様は倒せないわ』


「うぅ、ごめんなさいねレティ、私がふがいないばっかりに」

「僕の前では、誰も殺させませんよ。そしてルナルナ、あなたが謝る必要はないよ、むしろ僕の方が謝らなければいけないかもしれない」


「え? 私、何も謝られるようなことはされてないわ」

「これから、するんだよ。ルナルナ、『癒しの加護』と『生命結界』を重ねてもその毒には対抗できていない、体力が少しずつ減っている。減る度に回復すればいいんだろうけど、それもいつか間に合わなくなるだろう」


「そんな毒をもらった私のせいでこんなことに……」

「だから!! 僕は奥の手を使うよ。これのせいで君は苦戦することになるだろうけど、君を死なせないために僕はそれを使うのが最善と思っているんだ」


「なんだ、私に迷惑がかかると思って奥の手を隠していたのねレティ。いいわ、私はあなたにならどんなに迷惑を掛けられても、迷惑と思わないからやっちゃいなさい」

「ありがとう」


 同行者の許可は得られた。

 だから僕は、今までパーティプレイでは一度も使ってこなかったあの魔法『聖域展開』を発動させた。


 僕がいた場所を中心に強烈な光が溢れだし、この屋敷全体が一時的に聖域となり聖なる力を持つ。

 僕は光に目を焼かれないように目を閉じて、そして錫杖を構えて叫んだ。


「ルナルナ! 敵の場所と行動は僕が読み取って指示する。だから君は、僕を信じて指示通りに斧を振って!」

「了解了解、そういうことね。任せて頂戴」


『こ、これは…』

『きゃああああ、兄様。まぶしいですわ。何も見えませんわ!』


 戦場が光で包まれ、そしてその場にいた者たちは強力な光によって視界を失った。




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