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僕の日常


 木彫神像がたった一日でできるわけもなく、その日はある程度勧めたところで切り上げて瞑想の間を掃除してからログアウトした。

 それなりのペースで彫り進めることができているけど、ゲーム内でフルに時間を使っても完成までに後3日はかかるだろうと予想された。


 そればかりやっているわけにもいかないので、1、2週間をめどに作業を進めていこうと考えている。

 そういうわけで僕はその日から、廃墟でレベル上げをしながら息抜きに神像を彫るということを繰り返してゴールデンウィークの残りの期間を過ごした。

 その間、死霊魔術師を倒したいというパーティが稀に姿を現して、僕を臨時パーティに誘うということが数度あったりもした。


 ゴールデンウィークが空ければ学校が始まる。


 休みの間は会うことができなかった友達ともまた会うことができる―――のを、みんな楽しみにしているだろうけど、僕はそれには当てはまらない。

 残念ながら僕は山本君たちとは違う高校に通っているため、彼らと会うことはできないのだ。


 僕の通っている高校は、車で15分ほど離れた場所にある。

 僕のような障害持ちに手厚い支援を行っている地元の私立高校で、僕のような全盲は珍しいにしても何かしらの疾患を持っている生徒もそれなりにいる。


 僕の通学はお母さんの車による送迎だ。


 僕は電車に乗ってひとりで行けると言ったのだけれど、僕みたいな目の見えない人は駅のホームから線路に落ちやすいという情報を母がネットで調べてきて、それを重く見て送迎をさせてほしいと熱心に頼まれたのを覚えている。

 さすがにお母さんも、学校内までついてくるわけではない。だけど、全盲の僕を一人で歩かせるのは危険だと思われているのか、担任の先生が毎朝僕と一緒に歩いてくれる。


 一応僕は一人で歩けるように白杖を持っているが、学校内は人がごった返しているため、他人の足を杖で叩いてしまわないように使用は最低限に済ませていた。


 教室について僕が席に座ったことを確認すると先生は一度職員室に戻っていってしまう。僕の席は、決まって廊下側の一番後ろで、席替えがあってもそれが変わることはない。その場所が僕の指定席な理由は、僕が教室内を歩き回らなくても済むようにと、黒板が見えないから前に座る必要がないという理由からだった。


 そうやって登校して、ホームルームが始まるまで僕は座って本を読んで時間をつぶす。それは当然、点字で書かれた本で通常のものよりとても分厚い本だ。

 しかし、一部を除き教科書は通常のものと同じものをもらっているため、こういった時間に読むことはできない。

 代わりと言っては何だが、教科書のデータだけはもらっているため、家に帰ればVRマシンを使えば勉強はできるようになっている。


 僕が本を読みながら時間をつぶしていると、突然肩を突っつかれる。


「おはよう母屋、今日もかわいいな」

「その声は……谷口君だね。おはよう。男にその誉め言葉はどうなんだろうね」


 僕の肩をつついた人の正体は、この学校での友人の谷口君だった。頭が柔らかく、他の人にはない発想ができるのが彼の特徴だ。

 聞いたところによると、すらっとしていてそれなりに格好いいらしいが、先ほど僕に言ったような軽い誉め言葉が災いしているのかモテないらしい。


「かわいいものは素直にかわいいって言っていいと思うぜ俺は。言われた方も褒められて嫌な気持ちにはならないだろう?」

「さて、どうなんだろうね。僕は女の子じゃないから、そこら辺の正しい答えはわからないや」

「嘘つくなって。お前は微分すればかわいい女子だよ」

「へぇ人って微分すると性別が変わるんだね」


 そんな馬鹿な会話をしながら時間を過ごしていると、ホームルーム前のチャイムが鳴り響いた。それに伴って谷口君は自分の席に戻っていってしまった。

 今日はゴールデンウィーク明けの一日目ということもあって、みんなどこか気だるげな声を上げているのが聞こえる。それに気づいて、思えば、谷口君は変わらず元気だったなと僕は少しおかしくて小さく笑った。

 


 ホームルームを隔てて、いつも通り授業が始まる。

 休み明けの一発目は歴史の授業で、先生が教科書通りに話を進めていくだけなのが退屈なのか、授業が中盤に差し掛かったころくらいから、寝息のようなものがちらほらと聞こえてくる。


 先生は寝ている人に気づいていないのか、それとも気にしていないのかそのまま授業を進め、その時間は終わってしまった。

 そんな感じに授業がいくつかあって、昼休みになった。


 僕は手探りでカバンの中から弁当を取り出し、それを机の上に広げて食べようとすると谷口君が僕の席まで来た。


「休み明けの授業ってなんであんなに眠いんだろうな」

そう言いながらガサガサとビニール袋から何かを取り出す音を鳴らす。どうやら、彼もここで昼を食べるつもりのようで、当たり前のように昼休みになってどこかに行ってしまった人の椅子を借りて僕の机の横に座った。


「寝ていたのは君だったんだね」

「俺だけじゃねえけどな。それはともかく、母屋は休みの間何をやってたんだ?」

「僕はもっぱらゲームだね。他校の友達に誘われてね」

「へえ、なんてゲーム?」

「Arcadiaっていうんだけど、知ってる?」

「いや、知らない」

「今僕たちはみんなでそのゲームで縛りプレイをやってるんだけど、谷口君もどう?」

「誘いはうれしいけどやめとくよ」


 谷口君もいっしょにどうかと誘ってみたが、断られてしまった。まぁ、彼は部活なんかで忙しいだろうから、予想はできていた。

 それから僕たちは休みの間の話をしながら昼食をとり、食べ終わってから少し遊んで午後の授業を経て、放課後になった。


 僕の下校は登校と同じく親による送迎だ。僕はある程度みんなが下校してから、歩きやすくなるまで待ってから下校した。


 家に帰り、宿題を終わらせ、夕食を済ませた後、僕は暇な時間を得られたためArcadiaにログインすることにした。

 ログイン後、僕は廃墟に向かいながら考える。

「そろそろ何か足が欲しいなぁ……」

 街と廃墟の往復は幾度となくやってきているため、どのルートを通れば魔物に出くわさないかはわかる。

 今までは魔物を倒すことができないから、どうやって見つからないように移動するかということばかり考えていたが、ルートが確定してそっちを気にしなくなった今、移動速度が気になり始めたのだ。


「……少しでも早く移動したいのか?」

「そうだね。休みが明けた以上、長々と時間をとれるわけじゃないからね」


今日は暇していたから連れてきてみたソアラが、僕のつぶやきを拾って話しかけてくる。当然のことながら、ソアラは未だに目的地に一人でたどり着けないので僕が先頭を走ってそれについてくる状態だ。

僕の愚痴にも近いそれを聞いたソアラは、僕に一度止まるようにと指示をした。何か移動の手段でも持っているのかなと思った僕は、言われるままに足を止める。


すると、ソアラがアイテムボックスの中から棺を取り出したのだ。

「ソアラ、それは?」

「……棺だ。安心しろ、木製だから」

「木製で何を安心すればいいのさ。……それで? 棺なんて取り出してどうするの?」

「……入れ」

「え?」

「……俺が運んでやるから入るとよい。一人で走ったほうが速い」

「道はわかるの?」

「……中から出してくれ。顔の部分は開くようになっている」

「…せっかく提案してもらったんだから、一回試してみようか」


僕はソアラが用意した棺に入ってみる。ソアラの気遣いか、それともそういうアイテムなのか中には綿が詰まっていたので案外居心地はよかった。

問題があるとするならば、縦向きにされるし揺れるから寝心地がよいとは言えないところだろうか?


「右―、左―、そのまままっすぐー、ひとつさきの大きな木で右―、で、開けた場所に入ったら左―」

ソアラに担がれながら、棺の中から顔だけを外に出して指示を出す。こんな移動方法でも、僕たちが普通に走るのよりは速く移動できているのが納得いかない。

そのまま何事も無く廃墟について、棺から出してもらった僕はソアラに文句を言う。

「やっぱりあれ、おかしいよね? 確かに多少は速くついたけど、それ以上におかしいよね?」

「……揺れたか?」

「そういう問題じゃないんだよ!」

「……そうか。ダメだったか。ならその棺は君にプレゼントしよう」

「どうしてそうなった!?」

「……その棺は寝具だ。フィールドでのログアウトまでの時間を縮めてくれる効果がある」

「つまり、どういうこと?」

「……そこそこの安全が確保できればここでログアウトもできる。つまりは移動の必要がないということだ」


ソアラはそう言って先ほどまで僕が入っていた棺をプレゼントしてくれた。

アイテムボックスに入れ、詳細を確認すると確かに、彼の言った通りの効果があるみたいで、いろいろと納得のいかない部分はあったけど怒りを抑えて狩りをすることにした。


それから、少しの間レベル上げをして二人ともログアウトすることになった。

ソアラも今日は街に戻らずにここでログアウトすると言い、自分用の棺を取り出していた。

今思えば、彼は初めから僕にこれをくれるつもりであんな冗談めいた移動法を提案したのかもしれないなと、棺の中で横たわっている僕は思った。





感想より

Q THEシリーズを出してきたってことは主人公はミケランジェロのような人?

A 前作を呼んでくださったんですね。ありがとうございます。

 本題ですが、残念ながら今作主人公は人間を止めることはできませんでした。

 彼は聖級を超えられないタイプの人間ですね。

 『THE・芸術』における聖級はうまいけど歴史には残らないタイプの作品を生み出せるといったところです。

 ミケランジェロにはなれませんね



ここで、前作を呼んでいない方のための補足

『The Ark Enemy』社より発売されている『THE・〇〇』といった名前のソフトは難易度が控え目に言ってバグっています。

その難易度に負けずに続けていた人間たちは、一般人とは一線を画す実力を得るようになってしまいまいました。

今作に登場する宗方 翔 (ソアラ)はその作品の一つ、『THE・剣豪2』の中で剣王級と呼ばれるまで上り詰めました。

その結果、あのような強さを持っているわけです。

THEシリーズの中では、敵の強さが階級ごとに表現されていました。

下から

兵士級<騎士級<騎士団長級<聖級<王級<帝級<神級

となっております。

聖級と王級の間には決定的な差があって、そこを超えられるかどうかが一つの壁になっています。


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