ソアラってすごかったんやなって話
響と一戦やりあった次の日、僕はArcadiaにログインしてマリアさんのお手伝いクエストを受けた後、廃墟にレベル上げに来ていた。
宗方君は、今日用事があるとのことで、僕一人でのレベル上げだ。
前衛がいないから楽ができないけど、廃墟の中心部に無理に近づかなければ僕でも何とか対処可能なのでまったりとレベル上げをしていた。
今日の僕は前回の失敗を踏まえて、手ぶらではなく錫杖を購入して持ってきていた。
使用方法は主に足払いである。
廃墟に出てくる人型のアンデッドにはこれが結構有効で、転ばせて時間を稼いで魔法でとどめを刺すという戦法である程度安定して戦えるのだ。
今回は前回の最低限のものとは違い、持てるだけ食糧や回復アイテム等の物資も持ってきているので、長時間の狩りが可能になっていた。
今日はゲーム開始直後の遅れを取り戻すべく、一日レベル上げをするつもりであった。
襲い掛かるゾンビウォリアーやリビングアーマーを転ばせては浄化しての繰り返しをしたり、時たま近づいてこない魔法系のアンデッドが出てきたら魔法の打ち合いを楽しんだりしながら、僕はレベル上げにいそしんだ。
レベルが23を超えたあたりで、レベルの上りが悪くなる。
1レベル上げるのにゲーム内時間で2時間も時間を要するにようになってきた。
そのため僕は、少し危険だろうけど中心部に近づいて強めのアンデッドと戦ってレベルを上げることにした。
おそらく、出現しているアンデッドは僕よりレベルの高いものばかりなのだろうけど、僕とアンデッドは相性がいいのか何とか戦うことができた。
そうして、レベル上げを始めてからゲーム内時間で6時間が経過したころ、問題が発生した。
「うわああああああん!! こっちこないでぇ!」
それは何かから逃げいている人の悲鳴であった。
声から察するに女性なんだろうけど、自分がこんななりで男だから確証はない。
僕はその時ちょうど戦っていたレブナント(ゾンビの上位種)をぱぱっと浄化して、声がした方向を見てみた。
声は、僕から見て廃墟の中心部から聞こえてきていて、つまりはこちらに近づいてくる。
見れば、霊体系アンデッドのブラッドクラウドに追いかけまわされている女剣士の姿があった。
あぁ、剣士だから霊体系は苦手なんだろうね。
昨日、ソアラが最優先で処理してくれと頼んできたのを思い出しながらその光景を見ていた。
女性はまっすぐに僕の方向に走ってきていて、途中で僕のことに気が付いた。
「そ、そこの人、助けてください!」
息を切らしていたからか、絞り出すような声を出しながらこちらに向かって走ってくる女性。
戦士系の物理攻撃を主体とした人からしたら、ああいった霊体系は脅威なんだろうけど、僕みたいな魔法系、それも対アンデッド特化みたいな構成をした人からしたらあれは一番与しやすい相手だった。
なぜなら、体力が少ないうえに被弾面積が他と比べて大きめで適当に撃った魔法で簡単に倒せてしまうから。
僕は逃げてくる女性の後ろにぴったりと張り付いているブラッドクラウドに向けて、『生命の抱擁』を放った。
ブラッドクラウドはなすすべなく浄化される。
「やっぱり、あの時抱擁から撃った方が正解だったっぽい」
昨日のネクロマンサー討伐の時の答え合わせが期せずして住んでしまったなと思いながら、走ってくる女性に目をむけた。
彼女はもう後ろに何もついてきていないことに気が付いていないみたいで、いまだに涙目で走り続ける。
そして遂に僕のもとまで到達。
「あの、あなた魔法使いの方ですよね? あれを何とかしてくれませんか!?」
と指を刺そうとしてようやく、もう倒し終わったことに気づいた。
「あ、……えっと、ありがとうございます?」
「どういたしまして。もう勝てない相手に挑んだらダメですよ」
僕はそう言ってその場から立ち去ろうとしたんだけど、
「ちょっと待ってください!」
引き留められた。
「この先の攻略を手伝ってくれませんか?」
そして手伝いを頼まれた。
「うーん、僕は構わないのですが、この先ってどこまでですか?」
「中心部にいる死霊魔術師タオを倒すまでです」
あ、あのネクロマンサーそんな名前だったんだ。
「2人じゃ無理じゃないですか?」
「それなんですけど、魔法使いの友人がさっき死んじゃって、すぐに戻ってくるって言っているので合流してから3人で挑みたいと思っているんですけど……」
「ちなみに、2人のレベルは?」
「私が40で友人が38です」
それなら、昨日2人でそれより低レベルで勝てたから何とかなるかなと思いはしたけど、よくよく考えてみたらソアラにレベルは関係なかったかもと思いなおす。
それに、今の僕のレベルは25レベルだ。
対アンデッド特化のため、足は引っ張らないとは思うけど中心部付近のアンデッド相手に圧倒できるほどの火力はない。
「手伝うのはいいのですが、あれに3人で勝てるのでしょうか?」
「大丈夫です。3人いればきっと勝てます!! タオの適正レベルは40なんです!!」
何故か自信満々にそう言う彼女に、僕は一抹の不安を覚える。
何故、適正レベルの真上で敗走した後にそこまで自信を持てるのかが理解できなかったからだ。
しかし、このまま僕が協力せずとも2人で突貫して死に戻るだろうというのは想像に難くなかった。
そして、僕は不殺の聖女―――死にゆく人を見殺しにするのは憚られるなと思い、渋々協力をすることにした。
「わかりました。僕がどれだけ役に立てるかはわかりませんが、全力でサポートさせていただきます」
「ありがとうございます! 本当に助かります!!」
僕が協力要請を了承してから、先に死んでしまったという友人を待った。
その友人は30分ほどで現れた。
赤髪の魔法使いだ。
「やっくん、こっちこっち!!」
「おお、カシワ。無事だったか」
「うん、この人が危ないところを助けてくれたの。それに攻略を手伝ってもくれるって」
やっくんと呼ばれた赤髪の魔法使いは、言われた初めて僕の存在に気づいたみたいで初めてこちらに視線を向けた。
そして一瞬だけ息をのんだと思うと、じろじろと僕の体を見てくる。
「何かありましたか?」
「いいや、えっと、君、綺麗だね。お名前は?」
「はぁ、ありがとうございます。僕のことはレティと呼んでください」
「レティね。俺の名前は”ヤクルスラ”、これからよろしく」
「言い忘れてたけど、私”餅カシワ餅”よ」
こうして、僕はヤクルスラと餅カシワ餅ことカシワのパーティに一時的な助っ人として入ることになった。
パーティメンバーがそろった僕たちは早速廃墟の中心部に向けて進軍を開始した。
相手がアンデッドとは言え、中心部付近では僕のレベルに対して敵のレベルのほうが高い。
そのため、カシワが前衛で敵の動きを止めてヤクルスラと僕が敵をしとめるという基本作戦で戦闘を行うことにしていた。
ただ、カシワの前衛としての技能は当然だけどソアラほどではなく、割と頻繁にアンデッドが僕たち後衛のもとへとたどり着くことがあった。
そんな時は――――
「レティ。僕の後ろに」
「え、あーはい」
ヤクルスラが対応した。
対応、と言ってもただ盾になるだけだった。
あれなら僕が錫杖で応戦した方がまだましといったレベルで、文字通りの肉壁の上に後衛職で耐久力も無いので逐一回復させなければいけない。
普通の戦闘ならそれでもいいのだろうけど、今回はアンデッドが相手ということで僕も攻撃に参加していた。
だから、回復に魔法を使ってしまうと僕一人分攻撃力が減って戦闘時間が長引き、その長引いた時間はヤクルスラがダメージを受けるという悪循環に陥る羽目になった。
そして戦闘が終わるといちいちカシワが謝りに来るという決まったやり取りもでき始めていた。
そんな折、僕たちは何とかネクロマンサー……死霊魔術師タオが見えるところまでたどり着いた。
「あれがタオね」
「あぁ、いかにもって感じだな」
「一応聞くけど、事前調査とかはなされていますか?」
「へ? 特にしてないけど、きっと大丈夫だって」
「ああ、俺たちなら絶対に勝てる」
……念のため、念のために突撃前に死霊魔術師の情報をどのくらい持っているかを聞いてみたら、この2人はまったく知らないと答えた。
何故それで勝てると思っているのか、ということは置いておいて僕は何故、この2人があれに挑もうとしているのかを聞いてみた。
その答えはクエストを進めるために倒さなければいけないというものだった。
僕はその答えに半分納得しながらも、死霊魔術師戦の特徴を教えようとした。
「いや、それは自分の目で確かめたいんだ。レティ、君の好意はうれしいけど、ここはこのままいかせてくれ」
しかし、そう言って受け取ってもらえなかった。
「はぁ、わかりましたが、『いのちだいじに』でお願いしますよ」
「わかっているって、何としてでも俺が君たちを守るから安心してくれ」
「もう、やっくんってば、調子いいんだから」
実際に守るのは前に出ているカシワさんですけどね。
そう思ったが口には出さないで置いた。
そして、僕たち3人は死霊魔術師へとむけて突撃した。
昨日と同じ、一定の距離に近づくと僕たちの存在に気づいた死霊魔術師が杖を振り、地面が盛り上がってアンデッド系の魔物がランダムで湧き始める。
それを知っていた僕は用意していた『生命回帰』を一番初めに湧いて出たアンデッド―――ヘルアーマーだった―――にたたきつけたが、知らなかった2人は突然現れたアンデッドたちに驚き混乱した。
知らなかったなら仕方がない、とは思わない。
そもそも死霊魔術師という名前からアンデッドを使役して戦うのは予想できるものだろう。
僕は少し呆れながらフォローに入る。
カシワの横をすり抜けて来た僕が『生命回帰』をぶつけたヘルアーマーの前に立ち塞がり、錫杖を構える。
ヘルアーマーは斧を持っていて、それを振り回して僕に攻撃を加える。
僕は何とかそれを錫杖でガードしながら時間を稼いだ。
「ヤクルスラさん、こいつに攻撃してください」
「あっ、わかった。くらえ化け物!!」
一瞬呆けていたヤクルスラだったが、声をかけると直して魔法を発動する。
しかし、発動させた魔法はよりのもよって爆発系の魔法で、近くにいた僕もろとも吹き飛ばしてしまう。
「うわっ」
「大丈夫かすまん! だが鎧は倒したから安心してほしい!」
後ろに大きく吹き飛ばされた僕は、素早く頭を上に上げて状況を確認した。
確かに、ヘルアーマーは倒せていた。
だけど、この戦いでは一体のアンデッドを倒せたからと言って有利になることはない。
これから同じやつが嫌になるほど湧いて出てくるだろう。
そして、カシワは沸いたアンデッドに囲まれ始めていた。
しかし、今の爆発がアンデッドたちの気を引いたのかカシワを囲んでいたものの一部がこちらに流れてくる。
「僕のことはいいから、なるべく広範囲で高火力な魔法を用意しておいてください!」
「わかった。でも…」
「僕は魔防が高いから大丈夫です」
僕は素早くアイテムボックスからHP回復ポーションを取り出して飲み干して戦線に復帰する。
こちらに流れてきたアンデッドは3体、腐狼と屍鬼と骨剣士だ。
どれも近接攻撃をしてくるアンデッドで、僕からすれば苦手な部類だ。
だが、つべこべ言っていられない。
僕は自分に『癒しの加護』を与えてそのうえで『生命結界』を展開する。
加えて、カシワには戦闘開始前に着けていた『力の加護』を外して『守護の加護』を与える。
僕は前に出ると、骨剣士の攻撃を錫杖で受けた。
そして腐狼の攻撃は肉体で受けて、屍鬼の爪も肉体で受けた。
そのタイミングで『生命の抱擁』を自分に向けてかける。
失われたHPが回復する。
骨剣士に足払いを仕掛けてみるも、剣で簡単に防がれてしまう。
腐狼の牙はその瞬間も僕の足に突き刺さり、僕のHPを減らした。
屍鬼の爪は、僕の体をえぐり僕のHPを少し減らすと同時に、毒を与えた。
僕は再使用時間が回ってきた『生命回帰』を自分に使う。
『生命の抱擁』と違いこちらは全快にまでは届かない。
その足りない部分は回復アイテムで補うことにした。
ポーションは呑んでいる暇はないので、取り出した瞬間それが入った瓶で相手の攻撃をガードして瓶を割ってもらい、その中身を浴びることで回復する。
ポーション類はかけても飲んでも効果を発揮するから、こうした使い方もできるのだ。
しかし、毒はどうしようもなかった。
一応耐性は持っているのだが、しょせんはⅠ、防ぎきれなかったみたいだ。
だが、昨日までは状態異常に対して対処法を持たなかった僕だけど、今日の長時間のレベル上げによるスキル熟練度の上昇にて毒に対応できるようになっていた。
僕は『光魔法Ⅲ』で習得した『キュア』を自分にかける。
所謂状態異常回復魔法だ。
それによって毒状態を脱して再び体力が全快した僕に向けて、後ろから爆炎が襲い掛かる。
ヤクルスラの魔法だ。
炎と爆風が僕とアンデッド3体にぶち当たり、アンデッドたちは炎が弱点らしく倒れ、僕はHPが6割減る程度で耐えることができた。
僕は自分に『ヒール』、そして足りない部分は『癒しの加護』の自動回復に任せて次の行動を急ぐ。
僕はアイテムボックスから液体の入った瓶を取り出した。
「レティ、どうだい? 僕の魔法は? 素晴らしいだろう?」
「そんなことを言っている暇があったら次の用意をしてください。もう気づいているとは思いますが、無限湧きですよ、これ」
「なんだって? わかった。とにかく君は下がるんだ」
「そんな余裕はありません。すぐにカシワさんのフォローに行きます。また僕が引き付けてまとめます。僕事で結構ですので強力な一撃をお願いしますよ」
次はカシワのフォローだ。
僕たちがたった3体のアンデッドを相手している頃、彼女はそれ以上の数のアンデッドに襲われていた。
まだ上限数ではないが、十分多い6体のアンデッドにだ。
僕はカシワを囲んでいるアンデッドに後ろから近づき、瓶を後頭部にたたきつける。
「こちら、聖水になりまぁぁす!!」
今日、ここに来る前にマリアさんにしこたまもらっておいた聖水だ。
ちゃんと寄付もしたよ?
へ? その資金はどこから出たのかって?
昨日の狩りと死霊魔術師が落とした杖の売却とかだね。
僕が聖水入りの瓶でぶっ叩いたアンデッドはこちらを向いて僕を追いかけ始める。
今度はヤクルスラの魔法につられたわけではなく、僕に腹を立てての行動だから逃げ気味に動いても他の人を襲いに行ったりはしない。
僕は次々にアイテムボックスから聖水を取り出してはアンデッドたちにぶつけていった。
「レティさん!? 助かるけど大丈夫なの!?」
「いいから、この間にカシワさんは回復してから無理矢理にでも本丸に近づいてください!」
「でもっ、それじゃあレティさんが」
「大丈夫ですから、早く!!」
僕は足が遅い。
だから逃げ惑ってもすぐに追いつかれて背中から攻撃をくらう。
そもそも、距離関係なしに攻撃してくる敵もいる。
僕の体は次第にボロボロになっていく。
その都度、僕は回復魔法と回復アイテムを使って何とか耐えていた。
だけど、僕はあまり耐久力にはステータスを伸ばしていない後衛職だ。
この戦い方にも限界が来て、いつかは倒れてしまうだろう。
だから僕は、死霊魔術師の方向に目をやる。
そこでは、アンデッドに阻まれながらも死霊魔術師に近づいていて、もう少しで手の届く位置にいるカシワの姿がある。
僕はこれを好機だとみた。
僕は背中をアンデッドたちに引き裂かれながら、脚をかみつかれながらも必死に走ってカシワのところまで行く。
一度は引き受けたアンデッドを引きつれ、近づいてきた僕を見たカシワは僕が限界だと思ったのだろう。
「よく頑張ったわね。あとは私が何とか引き付けるわ」
自分の同数のアンデッドと戦っているというのにそんなことを言ってくる。
「そうではありません!! 雑魚は無視して、すぐに死霊魔術師に近づいて! 余裕があったら攻撃も加えておいてください! それと、ヤクルスラさんは僕たちが死霊魔術師に近づいたと同時に僕たちに向けて魔法をお願いします!!」
僕の指示を聞いて素早く動き始めるカシワ。
僕もそれを追いかけるように死霊魔術師に近づいた。
死霊魔術師は近づかれると敵を大きく吹き飛ばす魔法を使う。
それは前回の戦いで分かっていたことだ。
カシワの剣が届く位置まで近づいたと同時に、死霊魔術師は杖を構える。
それに合わせるように僕は死霊魔術師に向けて飛び込んだ。
死霊魔術師は闇の波動を放つ。
黒色の波動が放たれ、僕たちは後ろに大きく吹き飛ばされた。
本来ならこれは、大量のアンデッドに阻まれたプレイヤーが少しずつ前にすすんでようやく近づいたところで突き放す。
そんな絶望的なシチュエーションを演出するために用意された行動だと思う。
だけど、今回ばっかりは脱出パックとして、僕たちを助けるための道具として使わせてもらおう。
「ヤクルスラさん!!」
「わあってるよ! くらえ、必殺・焔龍熱波ァ!!」
ヤクルスラから放たれた炎が竜の形をとり、先ほどまで僕とカシワがいた空間を飲み込んだ。
そして死霊魔術師の周りをぐるぐると周回し、空へと舞い上がる。
炎の竜が通り抜けた場所は轟々と炎が音を立てていた。
炎の中心からはォォオオオという断末魔が聞こえてくる。
「はーっはっは! 見たか俺の必殺魔法!」
ヤクルスラは高らかに笑い声をあげる。
「ふぅ、だいぶ危ないところもあったけど、私たちの勝利だわ」
カシワも勝ったことへの喜びを隠しきれていない。
死霊魔術師は廃墟の中心部から動くことはない。
だからああして炎に巻かれている間は永続的にダメージを受け続けて、いつかは倒れるだろう。
だけど、今はまだ倒れていなかった。
ふと、僕がヤクルスラのほうへ目を向けると、彼の後ろから大斧を構えて近づくヘルアーマーの姿があった。
まずい……ヤクルスラは気づいていない。
僕は高らかに笑い声をあげるヤクルスラのもとへ一目散に走りだす。
そして彼にタックルをしかけた。
僕の飛び込みタックルは貧弱な魔術師には耐えられなかったみたいで、僕は彼を押し倒すことに成功する。
「うわぁ、レティ。うれしいのはわかるけど」
「うっ」
「え?」
ヤクルスラはゆっくりと体を起こしながら、押し倒してきた僕を見た。
対して僕は、彼をかばったためにヘルアーマーの大斧が背中に突き刺さり、衝撃でうめき声を上げた。
僕は後ろ蹴りでヘルアーマーを飛ばそうとするが、流石に鎧を力の乗っていない蹴りで吹き飛ばせるはずはなく、軽く音を立てただけで終わった。
仕方なしに僕は自分に『生命の抱擁』をかけてHPを全快させる。
そして、次の攻撃も肉体で受けた。
次は『生命回帰』で自分のHPを回復させる。
ヘルアーマーは『生命回帰』では倒せないのがわかっているから、死なないように回復優先だ。
ヘルアーマーが、僕に対して二度目の追撃をしようとしたとき、ォオオオオという断末魔が止み、ヘルアーマーも崩れ落ちた。
攻撃が止んで安心した僕は力を抜いてその場でぐったりとうなだれた。
「レティ!! 大丈夫かい!?」
ヤクルスラが声を心配して声をかけてくる。
彼はようやく状況が飲み込めたみたいで、今更ながらに倒れている鎧に向けて炎を放った。
遅いよ。
そう思いはしたが、一応心配してくれているとのことなので何も言わないで置いた。
「どうやら死霊魔術師は息絶えたみたいですね」
「そんなことより、どうしてあんなことをしたんだ! 僕は女の子を犠牲にして生き残るつもりはないぞ!!」
初めてこの人と会話した時、僕はヤクルスラが少しちゃらちゃらした人間かと思っていたけど、結構紳士的ないい人なのかもしれないな。
僕のことを本気で心配している風の彼の顔を見て僕はそう思った。
「言いましたよね? いのちだいじにって、僕の前では誰も死ぬことを許しませんよ」
僕は小さく笑いながら彼にそう言った。





