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ROLL.7:探究。

中庭での一戦から一夜明けて――

黙雷は、一人己の生家に赴いていた。

苔むした石造りの階段を上がり、白砂利が敷き詰められた道を進み、立派な山門を潜る。


――これらや彼の名が示す通り、黙雷の実家は、寺院なのである。


しかし、彼は見ての通り刹那・楽観主義の為、幼少時からの厳しい修行、束縛に耐え切れず、中学三年生の時とうとう家を飛び出したのである。今は仲ジィの家に家事手伝いとして住ませてもらっている。

ちなみに現研のメンバーにその事を知る者はいない…はずだ。


閑話休題。


何処からどう見ても不審な挙動の黙雷は、辺りを窺いながらそっと庫裏(くり。住職やその家族が住む所)の玄関に忍び込む。そして、そのまま壁に掛けられていた経蔵(きょうぞう。経堂とも)の鍵を掴むと何か一仕事をやってのけた様な顔をして、外に出ようとした――――が、

「喝ッ!」

「あだぁ!?」

何者かに後頭部を強打され阻まれた。

涙目になりながらも黙雷は、後ろを恐る恐る振り返る。

そこには袈裟を身に纏い、笏を手にした一人の中年僧侶が青筋をひくつかせながら仁王立ちしていた。

「ってぇな…何すんだよ親父」

彼の名は間 黙鳴(もくなり)

黙雷の父であり、この寺の住職である。

「何もくそもあるか。せっかく心を入れ替え俗世から帰ってきたと思ったら、一言もなくコソドロのように経蔵の鍵を掠め盗っていきおってからに…なんか理由を話すとムカついてきたぞ、なんならもう一発いっとこうか、どうだ、ばしーんと。スキッとするぞ」

「アンタがだろう!…いや、そうじゃなくて。親父、これには訳があってだな…」

黙雷の必死の弁明に、黙鳴の怒りが鳴りを潜める。

「また、例のアレか」

「……あぁ」

黙鳴はそれを聞くと坊主頭をガリガリと掻き毟り、何かを諦めたように盛大な溜息を吐いた。

「はぁ、もういい分かった勝手にしろ。だがちゃんと鍵はかけておけよ。それと…あまり無理はしないように」

「親父……」

父の去り行く姿を、黙雷は感謝の念(+少々の青春臭ぇの念)で見送った。

「さて、こうしちゃいられねぇ!」

気分を一新するかのようにピシャリと頬を叩くと黙雷は庫裏を後にする。

敷地を横切り、二階建ての鐘楼(しょうろう。梵鐘を吊るための建物)とは正反対に位置する経蔵を目指す。

経蔵。

経典や古文書、その他宝物を保管するための大きな蔵である。

「いよっこら、せっと」

南京錠を外し、爺臭い声を上げながら観音開きの戸を開け放つ。

「うぇ、ほこりっぽ…あの馬鹿僧侶ども、掃除サボってんな」

経蔵の中はまるでそこだけ空間から切り離されているような、古くから存在していたような神秘的な雰囲気を醸し出していた。

…掃除怠慢の為、少々埃っぽかったが。

そんな中、黙雷は敷居を跨ぐと埃が積もった床をズンズンと突き進む。

何か心当たりでも在るらしい。

「確か、これに…」

棚に仕舞われていた木匣を取り出し、書類巻物が詰まった中をゴソゴソと漁る。

「あ〜、これ…か?」

黙雷が匣から取り出したのは「巷浮流風」と読み方もよく分からない辞書並みに分厚い古書。

蔵の二階に続く木造階段の埃を払い、腰を落ち着ける。

そして黙雷はその本を読み始めた。

格子窓から射し込む柔らかな光が黙雷に手元を照らす。


…。

……。

………。


講堂で僧たちが読み上げる経の声をBGMに古文形式で書かれている本のページを捲る。

古典の授業を(も)まともに聞いていなかった黙雷だが内容ははなんとなくだが理解できているらしい。


…。

……。

………。

…………。


外からは僧たちの大爆笑が聞こえてきた。

誰かが経文を噛んだらしい。

…というかそれだけで笑うとはこの寺の僧は如何程の野郎たちか。

もう一回修行し直せ。


…。

……。

………。

…………。

……………。


黙雷の動きが止まった。

と、今度は急にブルブルと震えだした。

黙雷の開いていたページには「獅子正公陰之真実」と銘打たれていた。

「奴が言ってた〈命〉ってのはこういうことかよ…!」

懐から渋い色味の携帯電話を取り出すと、黙雷は現研のメンバーの番号を電話帳から引き出して掛け始めた。

「灯台下暗しとは…よく言ったもんだ」

メンバーに繋がるのを待ちながら、黙雷はそう呟いた―――





裏話。


黙雷が呼んでいたあの古い書籍。

あの名前、漢字四文字。

それぞれの字の後ろに「説」をつければ、

すべて「うわさ」の意味になります。

……ちょっとネタばらししてみたかったんです(笑)

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