ROLL.6:再対峙。
――その日の夜。
予想通り奴は、またもや姿を現した。
場所は学校の中庭である。
オォオォオォォッ――
奴ももうオレたちが居るのが分かっているのか、焔を盛大に燃やし辺りを窺っている。
オレは奴の前に、ゆっくりと姿を現してやった。
「来てやったぜ、雄獅子姿の髑髏…いや、鞍富 獅子正さんよ」
―!!
髑髏を包んでいた焔が不安げに揺れる。
己の本当の姿を知られ、動揺でもしているのだろうか。
「獅子正、よく聞け。お前が怨む鹿賀 堂陰はもういない。この世に生きちゃいない。ほら、見てみろよあそこ」
オレは手に持った刀で髑髏の後ろ、校舎のさらに後ろに聳える賀柄山の頂を指す。
今は暗くてよく見えないが、そこには堂陰を祀った「堂陰塚」というのがある。
髑髏は、堂陰塚が見えているかのように山の頂上を凝視した。
「憎しみだけを抱いて今日まで歩いてきたんだ。……辛かったろう?」
髑髏がこちらを振り向く。
その顔は最早表情なんてもんは表せないが、
オレには奴が哀しんでいるように、草臥れているように見えた。
「もう、終わりにしよう」
そう言いながら、オレはくすんだ得物を鞘から抜き放った。
刃こぼれした刀身が奴の焔の明かりを受け、生を受けたように怪しく、艶やかにヌラリ、と光り輝く。
「弔いらしい弔いはできないかもしれないが、それでも―」
マダ―ユクコトハデキヌ――
オレの喋りに割り込むように掠れた声がする。
それが髑髏の声だと分かるまでオレは数瞬を要した。
ギリガタキモノノフヨ――マダソレガシハ――ユクワケニハイカヌ―――
骨だけになった顎門がカタカタと動き、嗄れ声を発す。
こ、こいつ、喋れたのかよ。
「何故だ?もういいだろう」
いつの間にかオレの後ろに立っていた部長が、悲しそうな声でそう言った。
「そうよ。少なくともここにいる私たちはあなたの憎しみが、その原因が、分かっているのに」
部長に横に並んだ綾瀬が、同じく悲しみを帯びた声で続けて言った。
「この前は乱暴して悪かったと思ってるけど…」
瑠奈の発した声は、途中で尻すぼみになって消えてしまう。
「……御休みになって下さい」
太陽は一言、そう言った。
それぞれの声を黙って聞いていた髑髏は哀しそうに、自嘲的に、笑った。
シカシ――ヤハリ――ソレガシハ――ワガイノチヲ――
フタタビコノテニ――ツカムマデハ―――スマナイ――
そこまで言うと髑髏は、プッツリと糸が切れたように表情を失った。
――オォオヲオォォォオオォオオオォオォオォォオオォォォォオォオォォオ
慟哭じみた叫び声が、中庭に響き渡る。
「堅物が…このくそったれ!皆下がれ!」
髑髏の焔が感情の起伏を表しているように、火花を迸らせながら大きく燃え上がり波打つ。
――最早、話し合いの余地は無い。
そう思ったオレは気持ちを切り替え、鈍刀を構え髑髏の元へと駆けた。
「間流古典斬鬼術――」
髑髏は咆哮しながら、こちらへと翔けてくる。
「縲紲解き逝け!鞍富 獅子正ッ!」
オレは奴をこの世に引き止めている縛糸を断つように、
全力で刀を振り下ろした―――――
「くそっ!何でだよっ!何で、何で自分から苦しみの道を往く!?」
黙雷は地に刀を突き立て、闇夜に吼えていた。
またもや髑髏、いや獅子正は黙雷の一閃を受け無事でいたのだ。
そして、またもや逃げられた。
まだ。未だ何か在ると言うのか。
「くっ……ちくしょおぉぉ―――――――!」
哀しみの滲んだ声が、中庭に木霊した―――――
裏話。
唐突ですが、前作「玖刻奇譚」を覚えていますか?
その主人公が序盤で言ったセリフ。
「表の〈現象〉は間家に、裏の〈現象〉は御影家に」
みたいなことを言ってますよね?
これは、その表のお話なんですね。
まだまだプロットはあるのか、ないのか?
それは著者にもまだ良く分かりません(オイオイ)




