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ROLL.4:進展。

――義彦が本を読んでいた、その頃。

瑠奈と太陽は〈玖刻の知恵袋〉と呼ばれる「仲ジィ」の元を訪れていた。

「はて、(わし)に何の用かね?」

皺くちゃの顔を綻ばせながら小柄の好好爺、仲ジィは言った。

「えーとですね、仲ジィ。鞍富 獅子正って知ってます?」

瑠奈がおずおずと問いかける。

仲ジィは禿頭をさすりながら答えた。

「おぉ、知っておるとも知っておるとも。じゃけども、それがどうかしたのかの?」

瑠奈はほっとした様子で、さらに問いを投げる。

「じゃあ〈雄獅子姿の髑髏〉って知ってますか?」

「むぅ……〈獅子ドクロ〉なら知っておるがの」

〈獅子ドクロ〉。

〈雄獅子姿の髑髏〉のことだろうか。

「その二つは密接に関係しているらしいんですが…実際はどうなんでしょう?」

今まで黙り込んでいた太陽が核心を求めるあまり、真っ直ぐにつっこんだ。

バカ、それはあまりにもストレートすぎる。

私たちが何を調べているかばれるじゃないの。

瑠奈は苦虫を噛み潰したような表情で、仲ジィの方を向く。

だが、その仲ジィはと言うと膝の上にいつの間にやら小型犬――パピヨンを乗せ、相も変わらずニコニコとしている。

「少年はほんに賢い子じゃのう、なぁウミ。そうじゃ、その二つの話は深ァく結びついておる。」

あら。

瑠奈は目をパチクリしながら弟と翁を交互に見つめる。

意外な事に話は続いているようだし、もう少し放っておいて様子を見てみるか。

瑠奈はあえて静観することにした。

「詳しく教えてくれませんか?」

純粋な好奇心の目で仲ジィを見つめる太陽。

仲ジィは目を細め、太陽を品定めするように眺めている。

「……いいじゃろう」

仲ジィが、ニッコリと微笑んだ。

「あ、ありがとうございますっ!」

顔を輝かせる太陽。

あれま。

事の他良い方に倒れたみたい。

やればできるのねサン。

「そうじゃのぅ、まずは――」

ポツポツと仲ジィが語りだした。


数刻して――


「なんて言う事を聞いてしまったの!」

「これは、真実に大きく近づいたぞ…!」

葛木姉弟は呆然として、興奮して呟いた。

「こうしちゃいられないわ、行くわよサン!」

別れの挨拶も忘れ、瑠奈は一陣の風のように部屋を飛び出していった。

「ま、待ってよ!あ、仲ジィさん、今日は本当にありがとうございました!」

ガバッと頭を下げて、太陽はバタバタと瑠奈の後を追って部屋を出て行った。

シンと静まり返った部屋で仲ジィは、


「あの子らは彼の魂を鎮める事ができるじゃろうか、ウミ」


微笑みながら愛犬ウミの頭を優しく撫でた。


  ●


一方、再調査の提案をした張本人の黙雷はと言うと、部室にいた。

一人でポツンとパイプ椅子に腰掛け、手にした日本刀をボーッと眺めている。

長さ三尺の打刀で、美しい碧色の柄巻き、沙羅樹が描き刻まれた楕円の鍔を持つのだが、

その刀身は刃こぼれをおこし、所々錆びも浮いている。

「何をしているのですか?」

床を通り抜けて現れた芙蓉が、黙雷の姿を認めそう言った。

「ん、ちょっと考え事をね」

「考え事?」

芙蓉の更なる質問に黙っていた黙雷だったがやがて観念したように口を開いた。

「オレは今までコイツで沢山現象を斬ってきた。校内の七不思議―椿さんの〈部室棟の仄明かり〉、〈エントランスの柱時計〉、〈大階段の野獣〉、〈渡り廊下の葵の手〉、〈食堂の狂い包丁〉、〈自習教室の暴れ傘〉―や町の怪現象とか、

それはもう色々とね」

「………」

芙蓉は黙雷の顔を見つめたまま、静かに話を聞いている。

「それは、奴等に安らかに眠って欲しかったから。だが、奴等は本当にそれを望んでいたのか、自分の考えを押し付けて、答えも聞かずオレは斬ってしまった。それはただの自己満足だったんじゃないのか、って考えてたのさ」

一気に言葉を吐き出した黙雷は、そのまま頭を垂れて黙ってしまった。

その言葉は懺悔の様にも聞こえた。

しばらくして芙蓉が、

「私は、あなたに斬られて良かったと思っています」

微笑みながらそう言った。黙雷が驚いたように顔を上げる。

「私は黙雷さんに斬ってもらう事によって現世の醜いしがらみを断ち切れる事が出来ました。その事については何度感謝しても足りないくらいです」

「………」

今度は黙雷が沈黙する番だった。

「それは他の現象さんたちにとってもそうだと思います。最早自分たちでは歯止めが利かなくなった私たちを諫めてくれたのです。疲れていた私たちに休息を与えてくれたのです。黙雷さんが何一つ悩む必要なんてありませんよ」

そう言って芙蓉は、またニコリと微笑んだ。

それは、見た者の肩の荷を取り除いてくれるような、そんな不思議で素敵な笑みだった。

「…椿さん」


「ま、そう言う事よ」


「!」

第三者の声に驚いて、黙雷は辺りを見回す。

……いた。

理沙が。

黙雷の斜め後ろに、壁にもたれて。

「あ、綾瀬…いつからそこに?」

「ちょっと考え事、の(くだり)から」

理沙は顎をついと上げ、さも当然のように言い放つ。

「って事は最初から全部聞いてたのかよ…!」

「えぇ、そうよ。まぁ間君、芙蓉さんの言う通りよ。深く考えすぎちゃダメ。私たちは己の知的好奇心を満たすと共に報われないあやかしの救済を行なっている。言わば助ける方はオマケ。感謝されこそ憎まれる筋合いなんて無い、とあなただって言ってたでしょう?何を今更グダグダ言ってるの?」

「………そう言われると、助かるよ」

慰めらしき言葉という事を理解すると黙雷は目を伏せ、静かに、そして少し嬉しそうにそう言った。

芙蓉が優しく笑い、理沙は照れか顔を赤くする。

「そ、それより間君!部長からお呼びがかかってるわ図書室集合よ分かったわねじゃあ早く来るのよ!」

照れ隠しなのか、理沙は息継ぎも無しにそう叫ぶと、部室をいそいそと出て行った。

「ふぅ、せっかちな奴だなぁ、ったく。…じゃ、椿さん、オレ行きます。ありがとーございましタ」

「はい。では、また」

黙雷は、ぎこちなく礼を言うと刀を綺麗な黒鞘に納め、部室を後にした。


「…願わくば、あなたたちの行いが実を結ばん事を」


一人になった芙蓉はそう言うと、空に溶けるようにして消えていった―――。




裏話。


この物語は、時系列がばらばらです。

黙雷たちの次回作は過去のお話となる予定です。

だから、めちゃくちゃ伏線が張られている。

……気がします(苦笑)

お楽しみに!

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