ROLL.3:乱麻。
しばらくして――正確に言えばオレが部室についてから五十分後、そしてオレが椿さんに将棋で五敗(一局十分の計算だ。ちくしょう彼女は強すぎる)した頃、ようやく現研のメンバーが全員揃った。
挨拶や軽い雑談を交わした後、本題へと入る。
「諸君……これから、どうする?」
眼鏡の位置を直しながら、部長が言う。
「予想以上に手強かったですね」
「気味も悪かったし」
と葛木姉弟。
「過ぎた事はもういいの。部長はこれからどうする、って聞いてるのよ?」
咎めるように綾瀬が言う。
しゅんとする二人。
「甘かった、って事か」
「間君、何?」
うへぇ。
綾瀬の奴、毎度の如く地獄耳でやんの。
奴はオレが呟いた独り言まで拾い上げてしまう。
ま、睨まれるだけも何なのでオレは言ってやった。
「一から洗い直した方が良いんじゃねぇの?」
「何ですって?また一からやるって言うの?そんな時間は――」
「言っとくが、オレの鈍刀は〈不思議〉をぶった斬れるほど立派じゃない。快刀乱麻を断つなんて事はできない。こんがらがった糸を一本一本全部解いてきちんと順序良く並べ直してじゃねぇと、上手く斬れねぇんだ」
『………』
みんな黙っている。
それに構わず、オレは先を続けた。
「昨日アレが斬れなかったって事は、何かが足りないんだ。まだ何かあるんだ、奴をこの世に引き止めるしがらみが。そのしがらみを断つにはそれが何なのかを――」
「分かった分かった。何度も同じ事を言わなくて良いわよ。私たちだってそれぐらい分かってるわ」
ぐっ、このアマ。
オレの大演説を…ま、いいがね。
みんながその気になったってんなら、それで良しとしよう。
「確かに、この〈現象〉はこれまでのものより複雑かもしれないな」
藍造時先生もいないのだし、と部長は付け加える。
そうだ。
今まで手助けをしてくれていた先生は、もういない。
いやまぁ、いずれ帰ってくるだろうが、今はオレたちしかいないのだ。
「しゃきっとしないとな」
オレの一言に、皆は静かに頷く。
「さて、それではいつも通り行くとしようか」
部長の一声をきっかけに、オレたちは行動を起こすため、各々席を立った――――――
翌日、獅子正の過去を探る為、義彦はこの街唯一の図書館を訪れていた。
木造に煉瓦が組まれた、レトロな造り。
この〈玖刻〉と言う街は、古が所々に残る都市だ。
古ぼけた入口をくぐり、その足で館の奥へと入っていく。
そこには、禁帯出の本が並ぶ歴史資料室がある。
義彦は室内を回り、触ると壊れてしまいそうな古表紙の本を次々と抜き取っていった。
多くの本を抱え、よろめきながらも閲覧室へ。
そして隅の席へと腰を落ち着け、黙々と読み始める。
一冊、二冊と積まれた本が崩されてゆく。
図書館特有のあの静けさが支配する中、定期的にページを捲る音が響く。
――どれくらいの時間が過ぎただろうか。
突然、義彦が弾けるようにその場に立ち上がった。
周りにいた人たちの肩がビクリと跳ねる。
「これは…!」
絞り出すように声を出す義彦。
その手には一冊の本が握られている。
どうやら地方史書のようである。
「皆に教えなければぁ!」
ガラにも無い大声を出した。
…周りの人たちにギロリと睨まれた。
裏話。
文中に出てきました藍造時先生。
これは、次回作以降の重要なサブキャラとなります。
是非、覚えていてくださいね(^^)
…ホント、文体が拙いなぁ(-_-;)




