ROLL.2:紹介。
「くっ、ふぁぁ…」
オレ、間 黙雷は欠伸を噛み殺しながら必死に睡魔と戦っていた。
昨夜の出来事が原因だろう。
何しろ帰宅した時には午前四時を回っていたのだ。
眠いのも無理は無い。
当たり前といえば、当たり前だ。
(さて…どうするよ?)
前で大演説をぶちかましている教師の声を失礼にもデフォルトとして聞き流しながら、オレは鈍い頭で昨日の出来事を思い出していた。
そのおかげで今、ギリギリの所で意識を保っていられるのだ。
説明しておくと、昨日のアレは『雄獅子姿の髑髏』と言って、この土地に伝わる今では誰も知らないような古い伝承の一つだ。
夜な夜な焔を纏った神出鬼没な髑髏が飛び回り、不吉を振り撒いてゆくのだと言う。
この髑髏は江戸時代、この地方で名を馳せた悪鬼百人斬りの大侠客、鞍富 獅子正のものだと言われている。
真実かどうかは不明だが。
そして、オレは何故そんな摩訶不思議な現象を知っていて、なおかつそれを追っているかというと、
〈現象研究会〉という如何わしい部に所属しているためである。
なら当然、現象研究会とは何かという疑問になる。
ま、その件は部室についてからでも遅くはないだろ。
終礼のチャイムが鳴る。
あ、ヤベ。
次の授業、般若(先生のあだ名)じゃん。
予習を忘れていた。
早くやらなくては。
そして、オレは激しく渦巻く勉強と言う力の奔流に身を投じた――
ふぁ、眠…。
学園モノだと必ず何かが起こる時間だといわれる放課後。
オレは部室棟(五階建て)四階にある我らが部室へと足を向けていた。
オレが一番乗りのようなので、前もって鍵は借りてある。
はい到着。
鍵を開けて、畳七畳半くらいの無機質な部屋に入室。
折畳みが出来る横長の机に鞄を置いて、身近なパイプ椅子に腰を下ろす。
そうやって、一息つこうとした時、
「いらっしゃい、間さん」
透き通った清水のような声が何処からとも無く聞こえてきた。
そして、その声の主は壁を通り抜けて、オレの目の前に現れた。
それは――若い女性だった。
白装束に身を包み、目鼻立ちがスッと通っている色白の大和撫子だ。
しかし、彼女は、幽霊なのである。
自分で言うのもなんだが、もう何でもアリの世の中である…。
「あぁ、こんちわ椿さん」
彼女の名は椿 芙蓉。
以前は学校の七不思議であった『部室棟の仄明かり』の元凶だったんだが、
何故か、いやまぁ成行きで今はオレ等の部室に無害な幽霊として憑いている。
見えるのは俺たち部員だけである。
その経緯はまたいつか話すとしよう。
ちなみに彼女も立派な現研(現象研究会の略名だ)の部員の一人である。
意味は全く違うが、まさしく正真正銘の幽霊部員だ。
…断じて洒落ではない。
「昨日はどうでしたか?」
椿さんが小首を傾げながら聞いてきた。
オレは昨日を回想しながら、悔しげに答える。
「どうもこうも、逃げられちまいましたよ」
「そうですか…でも、諦めてはいないのでしょう?」
「そりゃあ、もちろん。このままおめおめと引き下がる訳にもいかねぇし」
「その心意気なら、大丈夫ですよ」
ニコリと微笑む椿さん。
…彼女なりに励ましてくれたのか。
つーかそんなに落ち込んでたかオレは。
半透明の彼女とは、かれこれもう一年の付き合いになる。
その間、どれだけ彼女の笑顔に助けられてきた事か。
オレにとって彼女は、最早尊敬の対象になりつつある。
まぁ、んな事はどうでもいいか。
それより授業中に言えなかった、「現象研究会とは何か」を語らなければなるまい。
この会は現部長、高等部三年、大西 義彦先輩が学区内で起こる怪異現象を探求・解明する事により、知識・見聞を深める事を目的として半ば強制的に立ち上げた部活動組織である。
部員は総勢で五名+一霊。
椿さんは勿論、まずは先程名が出た大西部長。
中肉中背、精悍な顔立ちに眼鏡をかけ、博学才穎、温和な性格の文化系好青年である。
そして副部長、綾瀬 理沙。
オレと同じく二年生。同じ組である。
スラリとしたモデルのようなスタイル、大人びた表情、その中で際立っている凛々しい眉、まぁそれにあわせてきつい性格をしているんだが。
と、二年生ではオレで最後。
オレも色々ワケ有りで、今一人暮らしをしている。
…どうでもいいか。
そして残る二人は一年生。
葛木 瑠奈、太陽姉弟(生まれたのはたった数時間違いだから正確に言えば双子だろう)だ。
二人とも似たような顔をしているが、しっかりしてそうなショートカットの方が姉の瑠奈、おとなしそうで実際優しい性格で、前髪が目を覆うぐらい伸びているのが弟の太陽、通称サンである。
月と太陽なんて洒落た名前だよな。
オレなんか家柄のせいで…いや、なんでもない。
っとまぁ、こんな所かな。
後はみんなが来るまで椿さんと将棋でも指す事にするか――
製作裏話。
「玖刻奇譚」と、文体が全く異なりますね(^_^;)
一人称だし、なによりはまだ拙い(-_-;)
実はこれ、一年前の作品なんです。
これから、全ての「玖刻物語」は始まったんですね。
文体ともかく、彼等の活躍をご期待ください<(_ _)>




