第71話 魔剣だった
……どうしよう?
俺は思い切り頭を悩ませていた。
街の外へと放り投げた三人の冒険者たちを追ってきたはいいけれど。
うん、困った。
ここからどうすればいいか分からない……。
あんな街中で戦おうとしたことを説教するか?
無理。
コミュ障の俺が赤の他人に説教なんてできるはずもない。
では彼らの望み通りに戦うか?
さっきは「戦いたいなら外に出ろ」なんて言ったが、よく考えたらそんなことをしてやる義理はない。
しかも殺さないように目いっぱいの手加減が必要だろう。
……そんなの面倒すぎる。
「おらぁっ!」
「はぁっ!」
そんなことを考えていると、向こうから攻撃してきやがった。
「こいつ、まったく効いてやがらねぇぞ!?」
「もしくは幻覚を見せられ、虚空を攻撃しただけかっ?」
まぁ傷一つ負わなかったが。
……幻覚って何のことだ?
ともかく、彼らが何をしようと俺には敵わないことを理解させれば、金輪際、俺に手を出してこようとはしなくなる……はずだ。
うん、そう考えたら意外と簡単かもしれない。
ついでにすこ~しだけ懲らしめてやるつもりで、俺は拳に魔力を集束させていく。
そしてその拳を地面に叩きつけてやった。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
地面が大きく陥没し、巨大なクレーターが生じた。
さらに蜘蛛の巣状の地割れが辺り一帯に広がっていく。
「「「な、な、な、な……」」」
……ちょっとやり過ぎちゃったかな?
冒険者たちは顔から血の気が引いて、完全に怯え切っていた。
中でも酷かったのが、ローブの青年だ。
「い、いや……や、やめてくれ……た、た、たしゅけて……し、しにたく、ない……」
ガタガタと歯を鳴らし、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしている。
べ、別に殺す気なんてないんだが……。
さらに股間の辺りに染みが広がっていた。
少し懲らしめるだけのつもりだったのに、また失禁させてしまったようだ。
……うん、これはとっとと立ち去った方がいいな。
そう考えて踵を返そうとした、そのときだった。
「えっ?」
不意に周囲が暗くなり、何事かと空を見上げた俺はそれに気が付いた。
全長五十メートルはあろうかという巨大な何かが、空から降ってきたのだ。
「剣っ!?」
それはどこからどう見ても剣の形状をしていた。
ただしサイズは桁違いだ。
しかも真っ直ぐ俺に向かって、凄まじい速度で落ちてきている。
恐らく気づいてから一秒の数分の一も満たない時間だっただろう。
巨大な刀身が俺の身体に激突したかと思うと、そのまま地面に突き刺さった。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
◇ ◇ ◇
その衝撃は、先ほどノーライフキングが地面を殴りつけたときのそれに匹敵するものでした。
大地が激震し、私たちの身体がまるでボールのように地面を跳ねたかと思うと、気づいたときには十メートル以上も後方へと吹き飛ばされていました。
「け、剣……?」
「何だこのバカでけぇ剣はよ!?」
「な、なかなか壮観であるな……」
剣と呼ぶには大き過ぎる代物でした。
恐らく全長五十メートルはあるでしょう。
まるで巨人が使う武器のようなそれが完全に押し潰してしまったのか、ノーライフキングの姿はどこにも見当たりません。
「やあやあ君たち。僕のお陰で命拾いしたね!」
「「「っ!」」」
そのとき頭上から声が降ってきました。
よく見ると、巨大な剣の柄の部分に人が乗っています。
金髪の青年です。
年齢は我々とそう変わらないでしょうか。
「こ、これはあいつの仕業かよっ?」
「あの男、どこかで……」
我々が困惑していると、その男は柄から飛び降りてきました。
五十メートルもの着地を軽々と決めたその身のこなしは、只者ではありません。
「まぁでも、君たちが引きつけてくれていたお陰で、ノーライフキングを仕留めることができたよ。この剣、見ての通り威力は申し分ないんだけれど、狙った相手に直撃させるのは至難の業でね。あ、ちなみにこれ、僕の自慢の魔剣コレクションの中でも最強級の一本で、〝ティターンソード〟っていうんだ。巨人族の巣の奥深くに眠っていて、さすがの僕も手に入れるのに苦労したよ」
どこか気障っぽい笑みを浮かべ、訊いてもないのにべらべらと教えてくれます。
お陰で私は、彼の正体に思い至ることができました。
「あ、あなたは、もしや……〝魔剣喰い〟のビルゼス……」
「お、知ってる? やっぱり僕って、超有名人みたいだねぇ!」
〝魔剣喰い〟のビルゼスと言えば、金等級冒険者です。
さらに、今もっとも神金級に近いとまで言われていて、冒険者なら知らないはずがありません。
二つの名の由来は、彼が持つ特殊能力です。
それはその手で触れた魔剣をコピーし、自在に顕現させることができるという破格のもの。
すでに千本を超える魔剣を操ることが可能だと言われています。
しかし、こんな凄まじい剣まであるなんて……神金級に最も近いと称されるのも、正直納得がいきます。
あの自信家のイルランですら、ビルゼスの圧倒的な力を前には言葉も出ない様子で、立ち尽くしています。
「ま、マジかよ……」
と、思いや、彼はなぜか別の方向を見ていました。
一体、何を見ているのか……?
「……なっ?」
イルランの視線を追っていった私は、我が目を疑ってしまった。
というのも、地面に突き刺さった巨大剣の根元から、一本の腕が生えていて――
「ん? どうしたのかな? あ、さては僕に出会えて感動しちゃってる? あはは! サインが欲しいなら今のうちだよ!」
「の、の、のっ」
「……の?」
「ノーライフキングがっ……地面から這い出してきたあああああああああっ!?」
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