表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/105

第31話 ドラゴンを倒せた

 集団から単騎で抜け出し、こっちに向かってくる。

 乗っているのは結構な年齢のおっさんで、身に付けている武装から考えて軍の中でもかなり上位の階級にあると推測できた。


 何でそんな人物が単騎で近づいてくるんだ?

 いや、そんなことよりとっとと退散しよう。


 俺が踵を返して走り出すと、


「ま、待て!? 貴様っ、どこに行く気だっ!?」


 そんな声が聞こえてきたが、もちろん無視するしかない。


 にしても、めちゃくちゃ速いなっ?

 鎧を着た人を乗せているというのに、あの馬、凄まじい速度で走ってくる。


 とはいえ、今の俺も走りには自信がある。

 早めに諦めてもらえるよう、追いつかれないどころか、むしろ引き離しにかかった。


 だがそのときだった。


 ザッ!


「っ!?」


 首に違和感を覚えて、俺は咄嗟に頭を抱えた。

 何となくそうしなければ、頭と胴体が分離してしまうような感覚がしたのだ。


 その直感は正しかった。

 一体どんな方法を使ったのかは知らないが、どうやら俺の首は一瞬斬り落とされてしまったらしい。


 もちろんアンデッドなので痛みはなく、しかも斬られたはずの首はすぐに元通りになった。

 恐る恐る手を放してみても、頭はちゃんとくっ付いている。


 あのおっさんがやったのか?

 いや、それより今の、初めて受けたまともなダメージでは……?


 どうやらこの身体も無敵ではないらしい。

 だがそのことを素直に喜べはしなかった。


「いやいや、再生力もヤバ過ぎだろ……」


 首を斬られても瞬時に修復されるとか、これほんとどうやったら死ねるんだ?


 ともかくそうして走り続けていると、やがて諦めてくれたらしく、おっさんは街の方へと帰っていった。


「ふう、ひとまず助かった……」


 俺も走るのをやめ、安堵の息を吐く。

 と、そのとき。



 ――バリバリバリバリバリッ!



「な、何だ?」


 背後が眩く光ったかと思うと、一瞬遅れて途轍もない轟音が響いてきた。

 何事かと振り返った俺が見たのは、上空を飛んでいたあの謎の船が地上へ落ちていく様子と、翼で大空を舞う巨大な魔物だった。


「ドラゴン……?」


 それは黄金の鱗を持つドラゴンで、長い尾を靡かせながら街に向かって飛んでいく。

 次の瞬間、口から雷光のブレスを吐き出していた。


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!


 先ほどのそれに勝る爆音が轟いた。


 しかし不思議なことに、ブレスは街の上空で何かに激突したかのように弾かれてしまう。

 同時にガラスが割れるような破砕音が鳴り響いた。


 直後、ドラゴンが街の中へと飛び込んでいく。


「あれ、ヤバいんじゃ……」


 たとえ兵力のある大都市であろうと、あんな巨大なドラゴンに襲われては一溜りもないはずだ。

 だがドラゴンはすぐに都市から飛び上がり、そのまま西の空へと去っていった。


「な、何だったんだ……?」


 しばらく呆けていると、


「グルアアアアアッ!」

「うわっ、戻ってきた……っ?」


 また街の方に向かってきた。

 今度こそ都市を破壊するつもりなのかもしれない。


 しかしそうはさせまいと、巨大なドラゴンに戦いを挑んだ者がいた。

 先ほど俺を追いかけてきたあのおっさんだ。


 信じがたいことに、おっさんはたった一人でドラゴンと凄まじい戦いを繰り広げた。

 あのドラゴンもとんでもないが、あのおっさんも人間とは思えない強さである。


 そもそも離れたところにいる相手を剣で斬るとか、どんな芸当だ。

 やはりさっき俺の首が落とされかけたのも、あのおっさんの仕業だったらしい。

 しかもドラゴンの翼まで斬ってしまいやがった。


 地上に降りたドラゴンとの第二ラウンドが開始する。

 だがおっさんの頑張りも虚しく、ついにはドラゴンの前脚によって吹き飛ばされてしまった。


 し、死んだのか……?

 いや、まだ辛うじて生きているようだ。


 気づけば俺は走り出していた。

 理性を取り戻して初めての全力疾走である。


 踏み込んだ地面が大きく凹み、風が置き去りにされていく。

 あっという間におっさんのところまで辿り着き、それどころか危うく通り過ぎるところだった。


 どうにか止まって、倒れたおっさんに接近する。

 おっさんはまだ戦うことを諦めていないのか、ポーションを使おうとしているらしかった。


 よし、任せろ。

 俺は内心でそう告げながら、おっさんの手からポーションをひったくる。


 しまった、という顔をしているおっさんに、俺はポーションをかけてやった。

 だが幾らポーションと言えど、これだけの怪我がすぐに治るはずがない。


 ……仕方ない。

 俺がしばらく時間を稼いでやるから、その間に逃げてくれよ。


 俺は視線だけでそう伝えると――伝われ――迫りくるドラゴンを迎え撃とうとする。


「……あ」

「グルアアアアアッ!」


 って、いつの間にかすぐ目の前にいた!?

 頭上から振り下ろされる巨大な前脚。


 がんっ!


 思いのほか重たくはなかった。

 少し首のあたりがミシッと鳴ったのと、足が地面にめり込んだだけだ。


 ……もしかしてこのドラゴン、そんなに重くないのか?


 俺は自分の頭を踏みつけている前脚を掴んだ。

 ひとまずこの場所から離れたいのだが……よし、試してみよう。


 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるっ!


 俺は前脚を掴んだまま、その場で回ってみた。

 するとドラゴンの巨体が浮き上がり、一緒に回転していく。


 やっぱりこのドラゴン、見た目よりも軽いのかもしれないな。

 それなら……どりゃっ!


「グルアアアアアアッ!?」


 俺が手を離すと、ドラゴンは絶叫を上げながら地面を転がり、遥か遠くまで飛んでいった。

 俺はすぐに後を追いかける。


 するとドラゴンはよろめきながらも身を起こし、雷光のブレスを放ってきた。

 俺は回避せずにそのまま突っ込んでいく。


 ジュワアアアッ!


 着ていた衣服が一瞬で蒸発し、さらには俺のファイアボールでも無傷だった皮膚が焼け爛れていく。

 だがそれもすぐに修復して、ブレスを抜けたときには元通りになっていた。


 ……ただし服は直らない。

 俺は全裸になってしまった。


 幸い近くに誰もいないが、こんな状態でドラゴンと戦い続けるのは恥ずかしい。

 そこで俺が咄嗟に取った行動は、ブレスを放った直後で、大きく開いたままだったドラゴンの口の中へと飛び込むということだった。


 あれだけのブレスを吐き出しているだけあって、ドラゴンの口内はめちゃくちゃ高熱だった。

 普通の人間ならいるだけで即死するだろうが、幸か不幸か俺の身体はこれくらいではどうもならない。


 俺は喉の奥まで入り込むと、ドラゴンの頭部があるはずの天井目がけ、拳を思い切り振り上げた。

 肉壁が爆ぜ、残骸が雨のように降ってきた。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 かなり効いたらしく、ドラゴンが苦痛の雄叫びを轟かせる。


 身をよじりながら苦しんでいるようで、上下が何度も逆転した。

 体内にいる俺はひっくり返りそうになるが、近くの肉壁を掴んでどうにか耐えながら、幾度となく拳を見舞っていく。


 ……あの巨大タラスクよりも硬いな。


 それでも俺の拳はドラゴンの体内を掘り進め、ついには頭蓋をも破壊。

 やがて脳漿へと辿り着いた頃には、すでにドラゴンは動きを止めていた。


「……死んだっぽいな」


 俺自身がアンデッドだからか、すぐに分かった。

 まさかこんな巨大なドラゴンを倒してしまえるとは……俺、思っていた以上にヤバいアンデッドになってしまったのかもしれない。


 それにしても、どうしよう……?


 今の俺は全裸である。

 さすがにこの状態で外を歩くわけにはいかない。

 アンデッドになってしまったとはいえ、俺にはちゃんと恥じらいというものが残っているのだ。


「このドラゴンが動き出して、このまま俺をどこかに運んでくれたらなぁ……なんて、虫のいい話はないよな」


 と、そのときだ。

 俺の頭の中に直接、謎の声が響いてきたのは。


『――我が主よ』


 最初は「誰だ?」と思ったが、どういうわけか俺にはすぐにピンときた。

 もしかして……このドラゴン?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ただの屍2巻
ファンタジア文庫さんより3月19日発売!(↑の画像をクリックで公式ページに飛びます)
― 新着の感想 ―
[気になる点] 炎と氷の同格の竜帝が死んだ時には死んだ後も何百年?も辺り一帯の地形も天候も変わるレベルの魔力の影響があって人の住める地では無くなったっぽいし炎竜帝が落ちてきただけでダンジョンが崩れるく…
[気になる点] >首を斬られても瞬時に修復されるとか、これほんとどうやったら死ねるんだ? 自分で頭を押さえて回復させておいてコレは無いなぁ 折角切ってくれる相手に出会えたんだし 試しに千切りにして貰…
[一言] >首に違和感を覚えて、俺は咄嗟に頭を抱えた。 >何となくそうしなければ、頭と胴体が分離してしまうような感覚がしたのだ。 主人公は死にたがってるのだから、抱えずにそのまま走り続けるべきでは?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ