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第101話 獣化した

「……は?」


 ボス熊の口から驚きの声が零れ落ちる。


 俺がその拳を片手で受け止めたからだ。

 軽く言ってみたが、実際にはかなりの衝撃で、事前にしっかりと地面に足をめり込ませておかなければ、遥か遠くに吹き飛ばされていただろう。


「オレの拳を……受け止めただと……?」

「……今度は……こっちからだな……」


 俺はおかえしとばかりに、ボス熊の腹をぶん殴ってやった。

 ドオンッと、とても腹を殴打したとは思えない轟音が鳴る。


「ぐおおおおおおおっ!?」


 巨体が一瞬宙を浮き、唸り声とともに腹を抑えてよろよろと後退するボス熊。

 目は大きく見開かれ、口からは涎が垂れていた。


「ば、馬鹿な……オレに、たった一発の拳で、ここまでのダメージを……?」


 ボス熊は信じられないとばかりに首を振りながら、さらに一歩、二歩と後退った。


 まぁアンデッドになって以来、こいつより何倍も大きな魔物と普通にやり合ってきたからな。

 中にはめちゃくちゃ硬い装甲を持つ奴もいた。


 あのタラスクロードとか、雷竜帝とかな。


 それに比べれば、こいつの腹などむしろ柔らかい方だ。

 全力で殴っていたら、恐らく背中まで拳が貫通してしまうだろう。


「き、貴様ぁ……っ!」


 痛みで顔を歪めながらも、ボス熊は飛びかかってくる。

 繰り出される渾身の拳に合わせ、こちらも拳を叩きつけてやった。


 ベキメキメキッっ!


「があああああっ!?」


 拳や腕の骨が砕ける音が響き渡り、遅れてボス熊の悲鳴。


「う、嘘だろ……?」

「将軍が……」

「あんな人間に、パワーで負けている……?」


 獣人たちが愕然とする中、ボス熊は血走った目で俺を睨みつけてくる。


「な、なぜだっ!? 人間ごときが、なぜこのオレを力で凌駕する!?」


 たぶん、人間じゃないからだと思う。


「……」

「何か言えぇぇぇっ!」


 今度は爪を立てて腕を振り下ろしてきた。

 爪と言っても、一本一本が剣ほどもあるそれらが、俺の身体を引き裂こうと迫る。


 引き裂かれたところですぐに再生するが、また服を破かれると困るので、さっと後退してそれを躱すと、腕を駆けあがって顔面に蹴りを見舞った。


「ぶぐぅっ!?」


 鼻血を盛大に噴出させ、脳天から地面に叩きつけられるボス熊。


「あ、あり得ん……このオレは、獣王様の側近が一人、熊将軍グリベアだぞ……? 貴様などに、負けるはずがない……っ!」


 怒りからか、ぶるぶると身体を震わせている。


 ……ん?

 なんか身体がさらに大きくなっていってるような……。


 気のせいか?

 ……いや、どう見ても気のせいじゃない。


「オレはっ……負けるわけにはいかんのだぁぁぁっ! うおあああああああっ!!」


 凄まじい雄叫びとともにボス熊の全身の毛が逆立つ。

 しかしそれ以上に肉が盛り上がり、腕も足もさらに太くなっていく。


 そして気づけば、ほとんど熊の魔物そのものと言ってもいい姿へと変貌を遂げていた。

 体格は倍近くにまで膨れ上がっている。


「しょっ、将軍が獣化したぞっ!」

「すぐに逃げろ! 巻き込まれる!」

「ああなった将軍は理性を失っちまうからな……っ!」


 どうやらこれを獣化と言うらしい。

 他の熊獣人たちが慌てて逃げようとしているのを見るに、味方も傷つけかねない諸刃の剣のようだ。


「グルアアアアアアアアアアアッ!!」


 ボス熊がもはや獣同然の咆哮を轟かせる。

 するとそれだけで周囲に暴風が吹き荒れ、建物の外壁に罅が入った。


 直後、猛烈な勢いでこちらに向かって突進してきた。

 咄嗟にそれを回避すると、ボス熊は逃げようとしていた味方の背中へ真っ直ぐ突っ込んでいく。


「「「うあああああっ!?」」」


 何人かがボス熊に吹っ飛ばされた。

 それでも勢いは止まらず、ボス熊は前方にあった建物に正面衝突し、粉砕してしまった。


「い、痛ぇ……」

「あああ……」


 さっきは家族とか言ってたのに……。

 この状態だとやはり周りが見えなくなるようだ。


 完全な瓦礫と化した建物の中から悠然と姿を現したボス熊は、それでも最大の敵は俺だと認識しているらしく、再びこちらへ襲いかかってくる。


 先ほどは思わず避けてしまったが、このまま好き勝手に暴れさせていると、街の被害が拡大してしまう。

 俺は足を振り上げると、迫りくるボス熊の脳天目がけて、魔力を込めた踵を思い切り振り下ろした。


 ドオオオオオオオオオオオオオンッ!!


「~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」


 巨岩と巨岩が激突したような音が轟いて、ボス熊の顔面が地面にめり込む。

 隕石の落下痕めいた大きなクレーターができ、そこへ遅れて巨体がズシンと落ちてきた。


「「「……………………へ?」」」


 仲間の獣人たちから唖然とした声が漏れる。


 ボス熊はそれからピクリとも動かず、それどころか見る見るうちに元の獣人の姿へと戻ってしまった。


「じゅ、獣化状態の将軍が……」

「瞬殺……された……だと……?」

「ば、化け物……」


 彼らが恐怖に慄いていると、そこへ首都から出発した援軍が到着したらしい。


「いたぞ! 獣人どもだ!」

「……? 何だ? 様子が少し変じゃないか……」

「何でもいい! とにかく奴らを捕えろ!」


 戦意を失った獣人たちを拘束するのはそれほど難しいことではなかった。

 そうしてひとまず先遣隊を撃破することに成功したのだった。


漫画版の第一話が更新されました! ぜひ読んでみてください!

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_KS13202156010000_68/(コミックウォーカー)

https://seiga.nicovideo.jp/comic/52370(ニコニコ静画)

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ただの屍2巻
ファンタジア文庫さんより3月19日発売!(↑の画像をクリックで公式ページに飛びます)
― 新着の感想 ―
[一言] 遂に、服を破らないことを学習したかー…
[一言] ニコニコ静画で押さえて有ります。
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