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第6話

 その日の放課後、俺は図書室の自習スペースで勉強していた。


 ぱちぱちぱちと音が聞こえる。多分これは雨粒が屋根を叩く音だろう。今朝の天気予報では今日は一日中晴れると言っていた。雨が降るのは予想外だ。幸い、折り畳み傘をカバンに忍ばせていたのでびしょ濡れで家へ帰ることはなさそうだ。


 今みたいな夏の暑い時期に雨が降ると空気がジメジメして気持ち悪い。それに肌がべたべたする。湿度と気温が高いせいで大量の汗をかく。少し考えただけでこんなにデメリットが思いつくのだから、この時期に雨が降ることのメリットはほぼゼロに近い気がする。ただ一つ思いつくメリットを挙げるとすれば、渇水を防げることくらいだ。


 先輩と待ち合わせの時間まであと1時間。昨日だけでなく、今日もまた、いや、これから毎日、すず先輩と一緒に帰ることができようとは昨日の今頃の俺にはまったく想像ができなかった。


 一時間後、彼女と正門の前で落ち合い、喋りながら一緒に家へ帰ることができると思うととてもわくわくする。気分が高まりすぎて、インド映画のように歌って踊り出してしまいそうな気さえする。早く時間になればいいのにと思うのに、なかなか時間は進まないものでとりあえず目の前のプリントを真剣に解くことにした。


***


もうすぐ待ち合わせの時間になる。正門まで歩いていくのがこんなに楽しく感じる日が来るとは考えたこともなかった。


 廊下の窓から外を覗いてみると思っていたよりも大雨だった。今日の雨は雨粒が大きいから傘を持っていないと家に到着する頃にはきっと、ついさっき海から上がってきた人のようにずぶ濡れになってしまうだろう。


 そんなことを考えているうちにいつの間にか正門前に到着していた。


 『キーンコーンカーンコーン』


 完全下校のチャイムが鳴る。



 「待たせちゃってごめんね」


 あれ、先輩、傘をさしてない。きっと、天気予報で今日は晴れと言ってたので忘れてしまったのだろう。


 「すず先輩、この傘、小さいけど一緒に入ってください。ずぶ濡れになっちゃいます」


 大切な先輩をずぶ濡れで家へ返すなんてことはできない。


 「ありがとう、でも申し訳ないからいいよ」


 すず先輩は申し訳なさそうに笑う。


 「まだそんなに親しいわけでもないのにこんなこと言うのはおかしいかもしれませんけど、俺に遠慮はしないでください!俺に先輩を、、、好きな人を守らせてください」

 彼女は驚いて、そして照れ笑いを見せる。


 「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ありがとう助かる」


 2人で1つの傘をさして正門の前で話している男女。周りの人から見れば、俺たちは1組のカップルのように見えているのだろうか。


 校舎から正門までそんなに遠い距離ではないのに既に先輩の髪や衣服はしっとりと濡れていた。湿度が高いのと雨のせいだろうか、前髪が少し乱れている。次に気がついた時には彼女の前髪を整えていた。


 「………!!!」

 「す、すみません!急に勝手に前髪を触ったりして…気持ち悪いですね…俺」

 「びっくりしたけど気持ち悪いことはないよ…!ただ、私、男の子と関わることって今まであんまりなかったからこういうことの耐性があまりなくて……」


 先輩を困らせてしまった。

俺は申し訳なくて、言葉を詰まらせていた。


 「でも、あきくんにされたからかな、いや…ではなかった」


 小さな小さな声で呟いた。


***



 2人で1つ使う傘は折り畳み傘ということも相まってとても狭い。

 「あきくん、私のせいで肩がずぶ濡れになってる。私はいいからちゃんと入って」

 「先輩は女性です。大切な女性にそんなこと出来るはずありません!」

 「あきくんはいつも私が恥ずかしくなるようなことばっかり言ってくれるねえ…。何度言われても恥ずかしくて顔から火が出そう。でもね、どこかにちょっと喜んでる自分もいるみたいなの…」


 「ふふふっ」と照れ笑いして先輩は嬉しいことを言ってくれる。こんなの、先輩も俺のこと好いてくれてるんじゃないかって勘違いしてしまう。

 


 二人で入る傘は狭いけれど、そのおかげでより彼女の近くに居られる。それが嬉しくて幸せでドキドキして、もう心臓が持ちそうにない。


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