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パティスリー コリン・ヴェールの千客万来

「なんとか、今日売る分は間に合ったかな? 減りの早いものは無くなる前に声掛けてね。」

「はぁ~い… って、経営者は、あ・た・し! 」

「うん。だから店の顔として、お客様のお相手はお任せするね。」

 もう少しガトーががさつであったり、強めの口調できてくれれば喧嘩にもなろうものだが、爽やかに微笑まれると怒るに怒れなかった。あざとさでもあればツッコミようもあるのだが。

「でも、作り過ぎじゃない? こんな急なオープンじゃお客さんなんて… !? 」

 翠は自分の目を疑った。カーテンの隙間から人の列、列、列。

「な… 何で、どうして? 何の宣伝もしてないのに… ?」

「あ、宣伝ならバッチリ。役場に牧場、農場の皆も手伝ってくれたから。多分、町中に届いていると思うよ。」

 予想外の展開に翠には不安しかなかった。だが、切り替えも早い。

「お客さんが、こんなに来てくれたんなら、張り切るしかないよね。」

「はい。」

 ガトーがクッキーの切り落としの入った、小さな籠を差し出した。すると翠は反射的に一つを口に放り込んだ。

「おいひ~♪ 」

 それを見てガトーが苦笑いを浮かべた。

「… 試食用、お客さんの。」

「わ、わかってるわよ。オーナーとして味の確認したのよ、か・く・に・んっ! 」

「フッ、そういう事にしといてあげるよ。」

「な、何よ。」

 不服そうに籠に手を籠に掛けると翠は小さく深呼吸をした。そして笑顔で店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。パティスリーコリン・ヴェールへようこそ。店内、狭いですが、ごゆっくり、ご覧ください。」

「開けちゃった… 午後からって言ったのになぁ。追加分を早めに準備するか。」

 ガトーはまだ開店したばかりの店内見回した。翠は接客で手一杯だ。予定より一時間ほど早い開店、隣国のイレブンジズの風習が流れてきている所為で薄味のビスキュイが売れて行く。だが、今から同じ物を用意しても売り時には間に合わないだろう。ランチのデザートになりそうなものを数点追加して、午後のティータイムに備える事にした。

「うぅ~ん、これじゃ翠がもたないな。」

 ガトーは手近にあったロール紙にマジックで何やら書くと、外に出て扉に貼った。それから暫くすると、やっと客足が途絶えた。

「う~、疲れたぁ~。」

「二階で休んでおいで。」

「そうしまぁ~す。」

 珍しく翠は素直に二階に上がっていった。それだけ疲れていたのだろう。二階に上がるとリビングのテーブルには、まだ湯気の立っているスープが置かれていた。

「そういえば、お昼食べてなかった… 。でも食欲なんて… !?」

 疲れ果てて食欲なんて沸かない。そう言いたかったのだが、それを覆す香りがスープから漂ってくる。スプーンで恐る恐る口に運ぶと、それが香りだけでない事がすぐに分かった。

「うゎ~、癒されるぅ~。」

 翠はあっという間にスープを飲み干してしまった。

「ぅ~ん… ちょっと、おやすみ。」

 お腹が満たされて翠はそのまま眠りに落ちた。その頃、階下ではガトーが休まず動いていた。

「なかなかの盛況、繁盛。」

「午後のオープンまで待てないかな、楂古聿さこいち。」

 楂古聿と呼ばれた長身細身で黒髪の青年は苦笑いを浮かべた。

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