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パティスリー コリン・ヴェールの周章狼狽

「ねぇ、どういう事? 」

 閉店後に翠はガトーと楂古聿を並べて問いただした。何しろ、業界最大手の社長が自ら宣戦布告して来たのである。

「いや、その… 。」

 ガトーが口籠っていると、クレモンティーヌが入って来た。

「この二人、三年前までアイリスの二番手スー・シェフだったの。でもオーナー・シェフ・パティシエが当時の社長、今のCOOだったから実質はトップよね。で、アンディが昼間の、当時社長令嬢だったイリスと婚約直前に雲隠れ。あたしが雑誌で知ってるのはそこまで。」

 そこで楂古聿が口を開いた。

「先代は、アンディと一人娘を一緒にして会社を継がせようとした訳だ。」

「三年前って… 私がこの国に来た頃か… 。ってか婚約!? 」

「反応、遅っ。」

 少し間の遅れた翠の反応にクレモンティーヌが苦笑した。

「いや、婚約させられそうだったから辞めたんだ。ちゃんとした手続きもしたし、その時の条項に沿って3年間、他の製菓店で働いてもいない。そんな時に翠が店を出すって聞いたから… 」

「私が? 」

「えっ!? あ、いや、こ、この町にケーキ屋を始める女の子が居るって… 」

 ガトーの狼狽ぶりに楂古聿とクレモンティーヌは顔を見合わせて笑いを堪えた。

「でも、アンディが退職条項に3年間も業界復帰禁止を出されてたってのは俺も初めて聞いたぜ。よくのんだな? 」

「あれ? でも、それって前の社長さんはガトーの退職を認めたって事よね? 」

「それに婚約前だから不履行でもないわよ、オーナー♪ 」

 首を傾げた翠にクレモンティーヌが悪戯っぽくツッコんだ。

「それなら、どうして、引き抜きとか取り戻すとか言われなきゃいけないのよ? もう訳わからない。」

 頭を抱えた翠は、クレモンティーヌにツッコまれた事にも気づいていなかった。

「大丈夫。」

「えっ!? 」

「翠も、翠の夢も、翠の店も、全部、僕が守るから。」

 そう言ってガトーは、そっと翠の頭を抱き締めた。複雑な表情で、その様子を見つめるクレモンティーヌを楂古聿がそっと連れ出した。

「こら! アホイチっ、もう放せっ。」

 部屋を出てから、クレモンティーヌは振りほどくように楂古聿から離れた。

「いやぁ、不穏な目付きに見えたから。」

「ちょっ、ちょっとイラっとしただけよ。あんなの、入り込む隙間、ないでしょ!? 」

 語気は強めだが、クレモンティーヌの表情は沈んでいた。

「でも、割って入る気満々のお嬢さんが居るからね。」

 そう言われて思い当たる相手は一人しかいなかった。

「はぁ。コンフィズリー・アイリスの社長がライバル? 」

「いや、コンフィズリー・アイリスと、その社長がライバル。」

 楂古聿に訂正されてクレモンティーヌは、あぁと頷いた。

「こんな田舎町のケーキ屋に、あんな大企業が本気で噛みついてくるなんて、あり得なくない? 」

「アンディが本気なんだから、俺としては全面的に協力するだけだけどな。」

「アンディの本気って、どっち? 」

「そりゃ… 両方でしょう。」

「そうよねぇ。あんな親の会社継いだだけの成金女に取られるくらいなら、オーナーの方が、何倍もマシだしね。あたしも全面協力するわ。」

「そいつは店かい? それともアンディ? 」

「もちろん、両方に決まってんでしょ。」

 クレモンティーヌの返事に二人は、どちらからともなくハイタッチを交わした。

「気が合うねぇ。俺たちも付き合っちゃう? 」

「そういう冗談は、この店を守り抜いたら聞いてあげる。」

「じゃ、なおさら頑張らないとな。」

「プッ。」

その本気とも冗談ともつかない楂古聿の表情に、クレモンティーヌは何故か吹き出してしまった。

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