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パティスリー コリン・ヴェールの開店準備

「お嬢ちゃん、いいのかい、こんな田舎町で? ケーキ屋開くんなら、もっと大きな街の方がいいんじゃないかなぁ。」

 不動産屋が心配するのも無理はない。この町には農家と牧場くらいしかない。

「大丈夫です。だって私がお家賃払える物件、ここしかなかったじゃないですか。」

 少女は屈託のない笑顔で答えた。

「こっちも商売だから、お嬢ちゃんがいいなら、いいけどね。」

 そう言って不動産屋は去っていった。

「さぁて、改装しなきゃね。節約節や… !?」

 少女は費用を浮かせる為、出来るだけ改装は自分でやるつもりだったのだが。

「えっ、何? 内装出来てる。何で何で? 」

 辺りを見回すとカウンターの上に一枚のカードを見つけた。


『Chère,colline verte《親愛なるコリン・ヴェール》

 L'intérieur de cette boutique est un cadeau détaillé.《この店の内装は細やかなプレゼントだ。》

 Je suis content si je l'aime et l'obtiens.《気に入って貰えたら嬉しい。》

 Je t’embrasseじゃあね


「コリン… ヴェール? 」

 少女は暫し考えてはたと気づいた。

「コリン… 丘で、ヴェール… みどり。私の事ね。さては変な翻訳したのね。それに差出人の名前が無いじゃない。うっかり者の足長おじさんね。」

 丘(みどり)。それが少女の名前だ。翠は厨房を見渡すと並んだ新品の器具を順に手に取ってニコニコとしていた。自分で揃えられる物よりワンランク上の物だったから。

「そうだ、クッキー焼いてみようっと。」

 家庭用のオーブンと異なり、釜の火加減は使ってみないと分からないからだ。二階に上がると引っ越し荷物を荷ほどきして小麦粉、砂糖、バター、卵を持って降りてきた。

「卵、割れてなくて良かったぁ。」

 小麦粉をふるい、溶き卵を作ると泡立て器でバターを立て、砂糖、卵、小麦粉と順に合わせていった。そして生地を伸ばすと冷蔵庫にしまった。それから再び二階に上がると荷ほどを再開した。

「取り敢えず、今夜は寝袋かなぁ。」

 いくつかの製菓材料と衣類、生活雑貨を取り出すと残りの荷物の入ったまま、箱を仮留めして部屋の隅にやると時計を見てドタドタと階段を下りた。

「無用心。」

「ひぇっ!? 」

 不意な声に翠は思わず階段を踏み外しそうになった。

「そそっかしいな。怪我はないか? 」

 手を差しのべられたが、思わず相手の顔に見とれてしまった。

「何か僕の顔に付いてる? 」

「あ、いえ。えっと… まだ、開店準備中… っていうか営業してないんですが… 。」

 その青年は、少し長めの成人にしては珍しいプラチナブロンドの髪を掻き挙げながらクスリと笑った。その爽やかな笑顔に、また見とれそうになる。

「うん、知ってる。まだ看板もないしね。なんて名前? 」

「み、翠です。丘翠。」

 すると青年は首を左右に振った。

「それは君の名前だろ? 僕が聞いたのは、お店の名前。」

 それを聞いて翠は思わず顔を赤らめた。それに、内装が終わるまでに考えればいいと思っていたので店名はまだ、決めていなかった。それでも予定外とはいえ、内装が終わっていたのだから1日も早く開店したいとも思っていた。その時、ふとカウンターに有ったガードを思い出した。

「コリン・ヴェール。うん、お店の名前はパティスリー コリン・ヴェールです。」

 翠は笑顔で答えたが、青年は何故か怪訝そうな顔をしていた。

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