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白い月  作者: 四分音符
4/6

月と太陽

1


しばらく歩いていると、雨が降ってきた。

雨は身体をすり抜けていくから、私にとっては特に変わらないけど。

でも、何となく街の雰囲気が哀しげになるのを感じる。


(今夜は雨かあ…。空も曇っている…。)


私は、また歩き続けた。

どうしても行きたかった場所があったのだ。


(この道も、何だか懐かしい…。)


私はしばらく歩いたあと、街のはずれにある小さな公園に立ち入った。

ちなみに公園の中央は、小高い丘になっていて、月見ヶ丘という名称がついている。

そう、その名の通り、月を眺めるには絶好のスポットなのだ。


私は公園内を歩いて月見ヶ丘の真ん中まで来ると、遠慮なくどかっと座った。

そして夜空を見上げる。

本降りの雨の夜は、もう既に更けていた。


(今日はやっぱり、月が見えない…。)


私は、高校時代によく友達と2人で、この丘に来ていたことを思い返していた。


(詩織、元気かな…。)



音羽詩織(オトワ-シオリ)は、私が中学時代に知り合った女の子である。


詩織は明るい性格で、何といっても笑顔が可愛い子だった。

だから男子にもよくモテたし、人付き合いも広かった。


そして、暗い性格の私となぜか気が合ってからは、2人で遊ぶことが多くなった。

詩織の家からこの公園が近いこともあり、夜に2人で集まることもよくあった。

恋の相談をしたり、勉強を教えあったり、私が落ち込んだ時には慰めてくれたり。


私を月と例えるなら、詩織はまさに太陽みたいな子だった。


(私のこと、心配してるかな…。)



私は、月の見えない曇り空に、詩織と過ごした風景を思い描いていた。



2


いつしか、雨はやんでいた。


そのことに私が気付いたときにはもう、夜空も雲が晴れつつあった。

そして、雲が晴れた隙間から、月の光が降り注いだ。


(こんな夜更けに、お月さまだ…。)


真っ白く光り輝く月。

それまで暗かった公園内を、優しく照らした。


(これは寝待月、かな…?)


ちなみに寝待月とは、夜に寝ながら待ってると昇ってくるくらいの、遅い月のことらしい。

高校のときに、物知りな詩織が教えてくれた。


(それにしても、綺麗だなあー…。)



―と、そのとき、遠くから静かな足音が聞こえてきた。


私は身体を起こして、足音が聞こえるほうに目を向ける。


(こんな夜更けに…、まさか…。)


長くて黒い髪に、吸い込まれそうな大きな目。

月明かりに照らされていたその人は、紛れもなく詩織だった。



3


(詩織…!!)


私は立ち上がって、近付いてくる詩織に向かった。


(…詩織? 私だよ、優月だよ…!!)


私は、精一杯詩織に伝えしようとしたけど、それは思うだけで言葉にならなかった。

そして悲しいことに、遠い目をしている詩織の視界にも、私は映っていないようだった。


(詩織…、私が見えないの…。)


立ち止まる私の身体をすり抜けて、詩織は月見ヶ丘へと歩いていく。

そしてさっき私が座っていた場所に腰を下ろした。


そして、さっき私がしていたように同じ月を見上げる。


(私はここにいるのに、気付いてもらえない…。)


私は立ちつくした。



それにしても、何でこんな遅い時間に詩織がここに来たのかが私には疑問だった。


(家の近くなんだし、わざわざ遅い時間に来なくてもいいのに…?)


そのとき、夜空を見上げていた詩織が、突然つぶやき始めた。


「優月…」


私は突然名前を呼ばれて驚いた。


「優月…、どこに行ってしまったの…?」


そうつぶやくと詩織は、顔を伏せてしまった。

私はそれを、独り言だと理解するまでに少し時間がかかった。


(詩織…、泣いてるの…?)


私は丘の中央まで歩くと、詩織のすぐ隣に座った。

俯いている詩織の身体は、微かに震えているのが私には分かった。


泣いてるのと、寒いのと、恐らく両方なんだと思う。


そうだ。詩織はきっと、私がいなくなってから辛かったんだ…。

だから私を想うために、わざわざ月が出てからこの丘に来たんだ。


それにもしかしたら、詩織は毎日ここに来ているのかも知れない。


(ごめんね。詩織…。)


私は、抱きしめられない詩織を後ろから抱きしめた。

私がここにいるってことをどうしても伝えたかったし、何より安心させたかった。


でもやっぱり、詩織は私の存在に気付くことはなかった。


しばらくして、詩織は顔を上げて立ち上がる。

そしてすすり泣きながら、公園を後にした。


(詩織…。離ればなれになっても、私たちは永遠に親友だよ…?)


私は、離れていく詩織の背中に問いかける。

でもたぶん…、詩織にとっては、私は思い出の中でだけの存在になっていくと思う。


何となく、そんな気がした。



(…もう、帰ろう。)


しばらくしてから、私も公園を後にした。

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