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白い月  作者: 四分音符
2/6

涙と決意

1


朝の眩しい光で目が覚めた。

私は、眠い目をこすりながら上半身を起こす。


(ん、ここはどこだろう…?)


いつものベッドの上…? と思いきや、そうじゃない。

その割には、やけにフワフワしたものの上にいる感覚。


周りを見渡すと、そこはただ、真っ白いフワフワが続く世界だった。

そして、ところどころの下の隙間から、山や海や街が、遥か小さく見える。


どうやら、ここは相当高いらしい。


(ま、まさか…)


自分でも信じられなかったけど、私は今、フワフワ雲の上にいる。


(何でこんなところに…。)


そのときふと、昨夜の出来事が頭の中を巡った。


車が猛スピードで突っ込んできて…

避けた私は用水路に落ちて…、


(そうだ…。あのとき、私死んじゃったんだ…。)


不意に悲しい気持ちになった。


私はつい、母親の悲しそうに涙ぐむ姿を思い浮かべてしまった。

今頃、家族や友人は悲しんでいるのかな…。


大切な人が悲しむことほど、自分にとって辛いことはない。


いや、でも、雲の上といえど、今自分はここに確かに存在している。

本当に自分が死んだのか、まだ実感が沸かない。


(死んだ後の世界なんて、考えたこともなかったけど…)


もしかして自分の身体が無いのかとも考えたけど、見るとちゃんと存在していた。

手もあったし、足もあった。


でも、少しだけ透けているようだ。

手で遮っても、遥か遠くの景色はうっすらと見える。


(要するに、今の私はユーレイってことね…。)


私は、不意に肩の力を抜いた。

と同時に、身体がフワッと宙に浮いた。


重力に縛られている日常の世界とは違い、私は空中を思い通りに動くことができた。


(ユーレイって空も飛べるんだ…。)


私は、せっかくなので色んな場所に行ってみることにした。



2


まず初めに訪れたのは、虹の架け橋。

距離があったのでずいぶんと飛んできたけど、やっと虹の最先端にたどり着いた。


普段は遠くにしか見えなかった虹も、実際に近くで見ると、かなり大きくて、そして綺麗だった。

どうやらこの架け橋は、小さなキラキラの粒子が集まってできているみたいだ。


(見とれるほどキレイ…。)


私は思わず、虹の架け橋を向こう岸に向かって歩き始めた。

虹を渡ることは、私の幼い頃の夢だった。


(こんなに長かったら、到底渡り切れないけど…。)


しばらく歩いてたけど、私は途中で橋を渡ることを止めて、また空に飛び出した。



次に訪れたのは、天使のはしご。


私は、あえて地上付近に来て、空を見上げる。

そして、はしごが降りてくるのを待った。


すると雲の隙間から、光が放射状に漏れ出して、幾つもの天使のはしごが地上に降り注いできた。


(何とも神秘的…。)


私は、そのうちの1本のはしごを上り始めた。


上りながら改めて見渡すと、幾本もの天使のはしごは、まさに天衣無縫な光の筋だった。

とある詩人が、光のパイプオルガンと表現したのも納得できる。


(パイプオルガンかあ…。)


私は上りながら、とある友人がピアノを弾く姿を思い出していた。


(…あの人は、今元気にしてるだろうか…。)


私は不意に悲しくなった。

涙がこぼれて、遥か下の小さな景色に吸い込まれていく。


それでも私は、はしごを上り続けた。


(…私のバカ。)



はしごを上り切るのには、結構かかった。

でもずっと考え事をしていたせいか、体感的にはあっという間だった。


はしごを上った先は、最初に私がいたフワフワ雲だった。


そして雲に降りるなり、私は座り込んだ。


(居場所も行き場所もないのに、私は何をしてるんだろ…。)


私は泣いた。

涙が枯れるまでひたすら、泣いて泣いて泣きまくった。



3


泣き疲れた私が、俯いていた顔を上げると、想像もしないものを目の当たりにした。


いつしかそこにあったのは…、階段。

ひたすら上まで続いている、幅の細い真っ白な階段だった。


(白い階段…。)


でも、それが何の階段なのか、考える前に直感で分かってしまった。


―これは、天国への階段。


これを上れば、天国に行ける。

何も確証はないのに、私にはそんな気がしてならなかった。


(私が幼い頃に死んだおばあちゃんも、この階段を上ったのかな…。)


私は何となく、その階段を上り始めていた。


(これを上ったら、悲しみのない世界に行けるのかな…。)


しかし、私はふと足を止める。

なぜか、この階段を上ってはいけない気がした。


「まだ、上る時じゃないよ。」


と、心の中の自分が言った。


(うん、そうだよね…。)


―でも、本当は自分でも分かっていたんだ。


(私には、やり残したことがある。)


もう二度と、楽しかった日々には戻れない。

でも、もう二度とみんなに会えないわけじゃない。


(もう一度、あの人に会わなきゃ…。)


私はそう決意し、フワフワ雲を飛び降りた。

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