プロローグ
紺色の夜空に、溶け込んでいく白い息。
こんな季節は、どことなく物悲しい。
冷たい夜風に吹かれながら、中村優月(ナカムラ-ユヅキ)は、バイトの帰り道を1人歩いていた。
いつものごとく暗い道。
大通りから外れたこの道は、相変わらず人通りが少ない。
しかし、自分の家まで歩いて帰るには、この道が最短ルートなのだ。
(あっ、いつもの猫ちゃんだ…。)
塀の上をふと見ると、首輪の無い小さな黒猫がいた。
この猫はノラ猫なのだが、家の近所を住処としてるのか、時折見かける猫なのだ。
(なでなで…。)
頭をなでてあげると、くすぐったそうな仕草を見せる。
(カワイイ…。)
私がそう思ってるうちに、黒猫は塀を降り、ささっとどこかへ行ってしまった。
私はしばらく、黒猫の行ったほうをボーッと眺めていた。
しかし、あまりの寒さに、帰らなきゃと再び歩き出した。
(明日は月曜日かあー。また一週間が始まる…。)
(金曜日は学校休んじゃったから、明日は行かないと…。)
―考え事をしていたその時だった。
後方から聞こえてきたのはエンジン音。
振り返って見ると、何と結構なスピードを出した車がこっちに向かってくるのだ。
しかしこのままでは、歩いている私にぶつかってしまう。
なぜなら、私が歩いているこの道は、片脇が用水路になっていて道が狭く、車1台が通れるほどの道幅しかなかったからだ。
(でもさすがに、歩いている私に気付いて減速するよね…。)
ところが、車は減速しなかった。
そのままのスピードで私に向かってくる。
(嘘…!?)
私は横に避けようとした。
ところが、狭い道だけあって、避けるスペースなどなかった。
咄嗟に動いてしまった私の身体は、必然的にコンクリートの用水路に放り出される。
(え、やば…!! どうしたら…)
抵抗する間もなく、私は後ろ向きに用水路に落ちていく。
私にはそのとき、流れる景色がスローモーションに見えた。
(ああ… 私死んじゃうのかな…。)
私は用水路に落ちて、打ちどころが悪かったのか、そのまま意識を失った。
そして十数分後―、救急車に運ばれるときにはもう既に、私の身体は冷たくなっていた。