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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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“フジムラ”をしる者たち

 もうこれは仕方がない――


 視線を集めてしまうことをルコーンは諦めと共に受け入れた。

 ザインとサムを壁にして、何とか身を隠したいところだが、それも何とも自意識過剰なようで躊躇われる。

 双子2人が余計なことをして悪目立ちしなければ御の字。

 そう思うことにした。


 冒険者ギルドに顔を出すことになったのも2人のせい――“せい”はおかしいか。

 2人の働きで、情報を掴めたからこそ、こうやって次のとっかかりが出来たのだから。

 

「さて……来たは良いけど、これからどうする?」


 ザインがリーダーとも思えない、何とも頼りない言葉を口にした。


「そんなもの聞き込みしかないだろ?」

「それって、あの……フジムラだったけ? アイツと会う方法を聞けば良いんだよね」


 サムの返事に、キリーが乗っかってきた。

 それを聞いてルコーンが、


「違います!」


 と、即座に否定するが、


「違わないよ。僕たちは何としてもあの部屋に行きたいんだ」


 さらに重ねてブルーがそれを否定する。


「そうそう、まずは会わないと話にならない」


 キリーが頷きながら弟の言葉を肯定した。

 尚もルコーンは言い返そうとしたが、ザインがそれを止めた。


「とにかく、方向性はあってるからそれで良いじゃないか。俺も、2人が見たものが全部本当だとは思えないけど」

「「見た!」」


 勢い込んでザインの言葉を否定する2人。


「お前達が見たことは疑ってないよ。ただ何かを間違ってんじゃねぇか? って話だ」


 サムのフォローに、双子達の勢いが弱まる。

 ザインが肩をすくめ、ルコーンも双子の様子を見て思うところがあったのだろう。

 ほぅ、と一息ついて、


「ごめんなさい、キリー、ブルー。別にあなたたちが見たことを否定するつもりはなかったの」


 と、2人に頭を下げる。

 すると即座にブルーもシュンとなって応じた。 


「……うん。僕たちもルコーンがそういうつもりは無いことはわかってる。それに……」

「とにかく部屋――はマズいか。聞き込みするんだしな。何処か適当なテーブルで良いか」


 最後は何とかリーダーらしくザインが仕切り直した。



                     □



 あの日、『視覚浮遊フローティング・アイ』で2人の視覚に飛び込んできた風景とは、ムラヤマがマドーラの目の前で、転がっていた瞬間だった。


 ――子爵殿下の前で臣下の礼を取っている。


 と、考えられたがそういった動きの大きなムラヤマからピントを外してみると、その他にも双子にとってよくわからないものが“そこ”には溢れていた。


 そこも王宮の一室であるからには、華美な装飾が施された一室であるはずなのに、そういった物は綺麗に消え失せ、ただひたすらに使いやすさを重視した家具の配置。

 いや家具らしいとあると判明したのは、しばらく観察が済んで後ではあるが。


 次に2人が注目したのが、床の上に座り込んでいるマドーラだった。

 ドレス姿では無い、それどころか王族、いや貴族が決して身につけないような衣服を身につけている。


 言ってしまえば、それは庶民が着ている服によく似てはいたのだが、例えそうであっても、その格好は“男の子”のものだった。

 そうとなれば、ただ単に庶民の服を着ている、と言うだけの話では済まない。


 だが、そんな格好であるのにマドーラの表情には陰がない。

 無理矢理そんな格好をするように強要されたことは間違いないのに、時には周りでウロウロしているムラヤマに、なんだかブツブツ文句も言っているようだ。


 ムラヤマが臣下の礼を取ったと思ったのは間違いらしいと考えたが、その判断も揺らいでしまう。

 そして双子の心を本格的に捉えたのは、これからだった。


 マドーラは床に座り込み、あぐらを組んでいる状態で熱中しているモノ。


 ――何だか光る板に映っている景色が、凄いスピードで動いていて、それで遊ぶ。


 何とかそう説明したのは、キリーだった。


 “テレビゲーム”を初見でこれだけ説明出来たのだから、事情を知ってる者からすれば「たいしたものだ」という評価になるだろうが、さすがにこれではザイン達はわけがわからない。


 それでもマドーラが元気で有り、無茶な環境にあるわけでは無いと言うことは理解出来た。


 ここで1回目の『視覚浮遊フローティング・アイ』の効果時間が切れる。

 ゲームを目撃した双子は、それこそ精神力が尽きるまで『視覚浮遊フローティング・アイ』を使う、いやそれ以上に王宮に乗り込みそうであったが、それをロームが止めた。

 

 ――下手に踏み込むと、今の状況では安全を保証出来ない。


 「ガーディアンズ」随一の斥候職の言葉に、さすがに双子達も口を噤む。

 そのため、今度はしっかり計画プランを立てて、効果時間と精神力を有効に使って偵察を続けた。


 その中で、昨日夕刻に起きた、貴族達が送り込んだ冒険者の事も知り得たというわけである。

 双子達が、それ以上に、


「お風呂が! トイレが! ご飯が!」


 と、危険な順番で騒ぎ始めたので、一瞬緊張も走ったが、ルコーンがしっかり二人の魔法に釘を刺した。

 ムラヤマ本人も、部屋の隅で縮こまってまったく不埒な行動を起こしてないことも確認した上でだ。


 こうなると『嘘感知センス・ライ』の結果に間違いは無いようにも思えてくる。


 マドーラに対しては確かに丁重に扱っているようだし、身の回りの世話のために侍女をしっかりと手配しているというきめ細やかさ。

 結果――


「もういいんじゃね?」


 ――というサムの言葉に代表されるようなスタンスが出てくるのも無理からぬところだろう。


 だがルコーンは納得しない。

 双子も諦めない。


 それにこの時、双子は繰り返し聞かされていた、ムラヤマ――その時はフジムラであったが――が不思議な住居の話を思い出していた。

 もちろん、その話の大元はルコーンだ。


 あまりに不可解なムラヤマの力に、他の面々もある程度は確認しておこう、となった。

 精神衛生上の問題でもあるし、このまま再び王都を離れるというのもシコリが残りそうだ。

 

 とにかくマドーラとムラヤマに向き合った冒険者に話を聞いてみよう。


 そういう意図で「ガーディアンズ」は冒険者ギルドを訪れたはずなのだが……



                   □


「――目的をしっかりと整理すべき、というか先走りすぎだと思うんだ。とにかくムラヤマについての話を聞いてからだろう? それからどうするかは集まった情報次第だ」


 テーブルに腰掛けて早々、ザインが先ほどとは違って重々しく告げた。

 鎧姿では無いがさすがパーティーの要たるリーダーで有り、重戦士役を任ずるザインの言葉に、一同が思わず頷いていた。


 彼らが適当に腰掛けたテーブルはホールのほぼ中央で、その周囲には誰も近付かない。

 武装していないとは言っても、生半可な冒険者であれば、ザイン達はスキルだけで彼らを制圧することも可能であるから、仕方のないことだろう。


 こういう状態に「ガーディアンズ」もすっかり慣れているのか、この状態に今さら違和感を覚えないようだ。

 むしろ「ガーディアンズ」の比較的近い場所に腰を下ろし、会話を続けている女性3人組の方に違和感を感じてしまう。

 だが、どちらにしろ「ガーディアンズ」は構わず話をつけた。


「ロームは、どれぐらいかかるかな?」

「それはなんとも言えないよ。向こうには向こうの流儀があるだろうし――サム、冒険者ギルド(ここ)での情報収集ぐらいは、ロームに任せきりじゃ情けないぞ」

「でもよぅ……」

「その通りですね。とにかく聞いてみましょう。昨日、王宮に行った人がわかれば良いんですよね?」


 ルコーンの意気込んだ――それだけ一際音量の大きな言葉に、周囲がざわつく。

 周囲から人がいなくなったと言っても、それは「ガーディアンズ」に関心が無くなったからでは無い。


 むしろその逆。


 このハイエンドなパーティーがわざわざギルドに顔を出したのは何故なのか?

 これに関心を持っていない冒険者ものなど誰もいない。


「姉ちゃんさぁ……」


 キリーが頭を振って、思わず言葉をこぼす。


「え、あ、あれ? でも……」

「こうなっては仕方がないな――誰か、知ってることはあるか? それとも誰もここに来てないのな?」


 開き直ったザインの呼びかけ。

 さすがに、すぐにはこの声に応えるものはいなかったが……


「一応は聞いてる。教えても良いけど、あたしの質問にも答えてくれますか?」


 やがて、髪をツインテールに結った小柄な女性が名乗り出る。

 革鎧に短剣を装備した、斥候職然とした出で立ち。


 ――リナだ。

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