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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
第一章 ノウミーにて
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止められない巨人

「アーサーさん! メイルとアニカが巨人ジャイアント相手に出てるんですか?」

「あ、ああ。ギルドの今のところの手練れになるからの」


 チッ……


 世界システムの手が入ったか。


「もちろん嬢ちゃんだけで無く、他にも行っとる。で、さっき言ったみたいなやり方で――」

「指示を出したのはレナシーさん、要するにこのギルドのマスター?」

「そうじゃが」

「それって、ここに所属している冒険者に指示を――出せるんでしょうね」


 そこは今さら文句を言っても始まらない。

 問題は、この事態にどこまで関わるかだ。


 出来ることなら放置したいが――これは悪手だな。

 世界システムが動いている以上、何らかの形で俺が関わるように企画されている。


 もちろん、それを無視することも可能だろうが……


「ん? なんじゃ?」


 先ほどアーサーさんの唸り声から考えると、恐らくこのままだと巨人に負ける蓋然性が高いのだろう。

 そしてアーサーさんの経験を軽視しようにも、俺には“根拠”が足りない。

 この世界のガチンコ勝負の予想など出来ようも無いのだから。


 ならば――


「俺の流儀でやるしかないか――アーサーさん」

「忙しいなあんたは。今度は何じゃ?」


「レナシーさんって、報告受け取るにしても指示を出すにしても連絡のために冒険者ギルド(ここ)にいるはずです。それで間違いないですか?」

「う、うむ」


「じゃあ、そこに行きましょう。三階の多分、執務室かな? 昨日の部屋だと思いますが」

「そ、それはそうじゃが、あんたを連れて行くわけには……」

「状況、そんなに良くは無いんでしょ? アーサーさんの冒険者としての勘じゃ」


 アーサーさんは何かを言おうとして口を開くが、そのままモゴモゴと言葉を紡ぎ出せない。


「俺は“異邦人”ですよ、アーサーさん」


 強い言葉を柄じゃ無いと知りつつ使う。


「それに昨日の会合でレナシーさんに少し貸しがあります。それにこのまま手をこまねいて見ているのはマズい――アーサーさんだけじゃ無くて、俺もそう思うんですよ。“異邦人”の勘としてね」


 “異邦人”の勘?

 自分で言っておいてなんだが、まったくありがたみが無い。


 だが、この世界の住人が“異邦人”に対する、信仰に似た何かを持っているのは感じる。

 自分で信じて無くとも、“異邦人”の神通力を相手が信じていれば、この説得は――


「……行くぞ」


 ――成る。


                      □


 三階までは昨日の手順ルートを逆回しに辿れば、人とすれ違うことも無かった。

 元々、普通の冒険者が職員用の区画を通ることも無く、その職員も今は出払っているらしい。


 ほとんど一瞬とも感じられる呆気なさで、俺とアーサーさんは昨日の執務室にたどり着いた。

 アーサーさんが扉を開けるとレナシーさんの声が聞こえてくる。


「何を……アーサーさん、困るじゃ無いか」


 すぐ後ろに立っていた俺に気付いたらしい。


「俺が無理を言ったんです」


 俺は逆にアーサーさんを押しのける。


 そのままレナシーさんを真っ正面から見据えた。

 昨日のやり取りが、まだ大分効いているようだ。僅かにレナシーさんの視線が泳ぐ。


「君……何か用なら後から――」


 俺はそれを無視して、部屋の様子を確認。


 どうやら「紙」は、この異世界にもあるようだ。

 それが部屋中に巻きちらされており――司令部はここで間違いならしい。あいかわらずの鎧女がいるが、この際どうでも良い。


「この付近の地図はある? 正確に言うとアースジャイアントが侵攻してくる方面の地図だ」

「な、何を……」

「あるのか無いのかを聞いている」


 無茶を通そうとしているのは自覚している。

 だからこそここで引く選択は無い。


 さらに俺は鎧女も睨みつけた。

 この考え無しに下手に動かれては面倒だ。


「あ、あるがしかし……」


 レナシーさんから、ようやく答えが返ってきた。ここで引く。


「状況があまり良くないと聞いています。そして、それは間違いないようだ」


 俺はもったいを付けて、床に散らばる紙を拾い上げる。

 あまり乱雑な書き殴りの文字。

 情報元の混乱具合が手に取るようだ。


「レナシーさん。その地図と、ここに集められた情報で一端整理しませんか? 俺もそれを手伝いますよ」

「……何故、君が?」

「理由は二つ。私はいわば部外者です。新しい考え方が見つかるかも知れない。もう一つは簡単――俺は“()()()”ですよ?」


 それがどうした!


 と、某提督のように返されたらどうしようも無いが、恐らくこのはったり(ブラフ)は効く。


 俺はもちろん知らない。

 だが、レナシーさんぐらいの社会的地位があるなら、()()()()()()()可能性は高いと見た。


 そう――“異邦人”の過去の事績を。


 知っていればいるだけ、その知識が判断を鈍らせる。

 ましてや昨日の今日だ。

 アーサーさんに言ったような“貸し”は無いが、プレッシャーならある。


 ほとんどアーサーさんを説得したのと同じ手口だが、これによってアーサーさんの反応までも説得の材料に数えることが可能だ。

 場面ごとに、違った態度をとっていては信頼を損ねるが、今の状態は首尾一貫が守られている。


 案の定、レナシーさんの視線が盛大に泳ぎ始めた。

 その視線の先に、俺の言葉を後押しするような態度のアーサーさんがいれば……


「よ、よし、とにかく整理しなくてはいけなかったんだ。やってみよう」


 ついにレナシーさんが決断した。

 俺にとって都合の良い決断を。


 即座に床に散らばる紙を、拾い集め始める。

 ……ああ、こういう作業だけならずっと続けられるんだけどなぁ。


                     □


 整理の過程で、まずハッキリしたのが、臨時パーティーの職業クラス的なチグハグさだ。

 メイルは剣士だが、壁役タンクが出来そうな程の重装備では無い。その他、ヨハンとキーンという二人もいるのだが、これまた軽装の戦士。


 ちなみに、この二人が昨日の羊羹と金鍔らしい。


 そして壁役も可能な重戦士が一人いるが、いかんせん技量不足。

 ここまでわかったところで、アースジャイアントを支えることが出来るか確認してみたところ、


「難しいじゃろ」

「特異種となれば尚更……」


 レナシーさんとアーサーさんは揃って、否定的な答え。

 アーサーさんには俺が強く言って、ここに残って貰っている。


 本来、囚人であるという俺の建前を守るため。

 さらにその経験からの助言が有用に思えたからだ。


 そして臨時パーティーの残りの面子を確認してみると、斥候職が一人。そして魔法職としてアニカ。

 斥候職はほとんど賑やかしで、アニカは一番のダメージディーラーたり得るのだが、一撃でアースジャイアントを葬り去るまでの技量は無い 


 こういったことが判明してしまえば問題点はさらに追加される。


「回復出来る職業は?」


 俺が尋ねた瞬間にレナシーさんはうつむき、アーサーさんは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 つまり、これだけ紙が氾濫してるのも、あちらこちらと神官職を探し、こちらに呼ぶための手配を行っているせいらしい。


 もちろん、それが最優先でタンクに優秀なダメージディーラーも手配しているから混沌の極みだ。

 しかし、あまりにも手薄じゃ無いか?


「変異種が発見されたのは随分前だったんだ。それで各街から手練れが出ていってね」


 それが見事に裏をかかれたというわけか。


巨人ジャイアントは、現在どこにいるんです?」

「この街の近く……いやもう至近と言っても良いだろう」

「出た6人は無事なんですか?」


「何とか、他の方向に引っ張ってくれてるようだが、どうしても回復の手が足りない。ポーションでなんとかしてくれているようだが……」


 ジリ貧だな。


 もはや躊躇したり、他の手を試す余裕は無いと判断するべきだろう。

 考えていた作戦があまりに単純な手なので、すでに試されているかも知れないが、提案だけは行ってみる。どうせ単なるオブザーバーポジションだ。


 するとまずは――


「この街の南側に川がありますよね――ああ、これかな?」


 俺は広げられた地図を指さした。

 この情報は、昨日ゲームに興じる二人の言葉を覚えていたからだ。

 何が幸いになるか、本当にわからない。


「あ、ああ」

「この川の深さ、水の勢いはどうです?」

「それは……」


 言いよどむレナシーさん。

 地図で知ってるぐらいか。

 ここで頼りにしたいアーサーさんに向き直ると、


「結構深いぞ。流れはさほどでも無いがの」


 ビンゴ!


 流石にアーサーさんの経験は頼りになる。

 この情報は貴重だ。貴重だが、しかし――


 そこで2人の様子を確認。


 ここまで来れば察しそうなものだが……未だ何事かを閃いた様子は無い。

 俺は仕方ない、と内心で踏ん切りを付けて、作戦の説明を開始した。


「――試してみたいことがあります」  

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