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王宮へ

 え~僭越ながら、紹介させていただきます。


 左からサム、キリー、ブルー、ザイン、ルコーン、ロームです。

 冒険者ギルドに登録しいるパーティー名は「ガーディアンズ」(同ネタ多数)。

 “大密林”で、粋に暴れ回っていたらしいです。


 世に知られた冒険者の中で最高峰とも言われているらしいですが、当人達は求道者のように“大密林”に挑み続けているとのことです。

 本来なら王都で、国事に関わるような冒険者達なんですが、そういう立場をうち捨てて、さらなる高みへ研鑽を続けている。


 見上げた冒険者魂!


 ……これ、俺が悪いの?


 いや、その結果プラスになったらしいから恨まれてはいないよな……多分。

 “大密林”でレベリングしてたわけだから、本拠地はリンカル領の……どこか。

 そう言えば街の名前を聞いていない。


 問題はそこで、ゴードンと彼らに縁が出来たということだ。

 今日この日に、王都ここに現れたのも偶然では無くてゴードンに頼まれたから――つまり、何がどうでも俺を王宮に送り込むことは決定事項だったらしい。


 それでも最初は「ガーディアンズ」とリンカル家の連絡要員という感じの身分をくっつけようと思っていたが、


「無くても良いでしょ?」


 と、実にあっけらかんと言われてしまった。


 確かに、好き勝手に振る舞うのならリンカル家の紐付きでは、色々と面倒だ。

 面倒だがしかし、最初はそういうものが無いとさ~


 ……あの野郎、面白がってるな。


 おかげでルコーンさん以外からは、好奇心を抑えられない眼差しでジッと見つめられている。

 ルコーンさんは、明らかに不審人物を見る眼差しだ――が慣れていると言えば、慣れているか。


「ムラヤマさん――で良いんですよね?」


 一際背の高い人物が話しかけてくれた。

 この人がリーダーの「ザイン」だな。


 責任感のある、いい感じのリーダーだ。

 そう言えば「鋼の疾風」も良いリーダーだったような気がする。

 立場が人を育てる、ということかも知れない。


「はい。取りあえずその名で行こうかと思ってます」


 俺は、そのリーダーシップに敬意を表して正直に答えた。

 ルコーンさんの表情が歪む。


「……カケフという名は本当なんですね」

「もちろん嘘です」


 ルコーンさんの確認にも正直に答える。


「あ、あなたは……!!」

「自分が正義だと名乗った覚えはありませんので」


 悪びれずに告げてみると、二の句が継げなかったらしい。

 こういう時“悪”って簡単だと思う。


「……待ってくれ、前に我々を助けてくれたのはそちらだと聞いてるんだが」


 左端に位置するサムから声がかかる。

 ザインほどでは無いが、立派な体格の男性。聞くところによると、いわゆる物理方面でのダメージーディーラーらしい戦士職とのこと。


 ついでに済ませておこう。


 キリーとブルーは、双子の姉弟で魔法職らしい。

 俺から見ると、まだまだ子供――背も低いし――何だが、二人揃っての攻撃で、真のダメージディーラーはこの姉弟みたいだ。

 残る一人の女性、ロームが斥候職兼任の前衛というか遊撃らしい。


 職業的にも男女比的にもバランスが取れているような気がするが、この辺は割とどうでも良いな。

 王宮に呼ばれているということで、その全員が何だか白無垢みたいな格好をしている。

 そして左から、焦げ茶、銀、銀、赤茶、金、茶、という髪色の配置。


 やっぱり帽子は被らないのがスタンダード……では無くなった気もするが、最近王都に帰ってきた彼らは、そういう心づもりであるらしい。


「……結果的に、助けましたね」


 改めて彼らを観察しながら応じる。

 同時に思い出されるのは、あの飛んでるだけであまり大したことは無かったムカデのことだ。

 ビームライフルで穴を開けてやれば済んだしな。


「それは正義では?」

「人を助ける時に、正義とか、そういうお題目必要ですか? 俺は当たり前のことを普通にしただけですよ」

「偽名の件は?」

「……ですから、その件は悪だという自覚はありますが、改めるつもりはありません」


 何とも難しい表情を浮かべて黙り込んでしまったサムさん。

 それほど難しい事を主張しているわけでは無いんだがな。俺の立場になれば自ずと答えは出てくると思うのだが。


「ねぇ、『嘘感知センス・ライ』使ってもいい?」


 今度は双子の姉の方――キリーから尋ねられる。

 俺は頷いた。

 その魔法の使い方、すでに間違っていると思うが、そこまで親切に教えることも無いだろう。


 というか、これ神官職専用の魔法ってわけでは無いんだな。

 ……それに恐らく精度は……ああ、そうか……


 そうこうしているうちに、キリーが呪文を唱える。

 この街中で唱えるわけだからこっそりと、ということは言うまでも無い。


「じゃあ、始めるよ。『悪いことをするつもりですか?』」


 何だその質問の仕方は。

 思わず笑ってしまいそうになるが、グッとこらえる。


「いいえ」


 こんなの俺の心持ち一つじゃ無いか。


「……『王家を害するつまりですか?』」


 突然に言葉を発したのは、ロームか。

 俺は肩をすくめながら「いいえ」と答える。


「『国を脅かすつもりですか?』」

「いいえ」


 で、ルコーンさんか。

 以前もこういうやり取りしたわけだが、今度は呪文センス・ライ付き。

 いい加減警戒心を緩めてくれないものか。


 そちらにあまり興味は無いんだ。


 ただ単に、王宮内に入り込む――隠れ蓑では無いな。

 何というか“あやふや”なものになるために、そちらの名声を利用したいだけなんだよな。


「……よくわからないな。そちらは、どういう意図があるんです?」


 ザインが乗り出してきた。

 俺は肩をすくめ、こう答えるしかなかった。


「言いたくありません」

「また……」

「こちらからもよろしいですか? ……というよりも、かなりサービスしたはずなんですけどね」


 俺は薄ら笑いを浮かべて、このやり取りを打ち切りにかかる。


「あなた方はゴードンに結構世話になったと聞いています。少しぐらいのこと、協力しようという心意気はありませんか? 人に善を問うのであれば」

「少し……かどうかは……」

「俺が、王族にもこの国にも良からぬ事を企んでいない事はわかったはずです。そして実際、ずっと前から俺は何もしていない」


 ルコーンさんが尚も追及の構えであるが、他の5人は少しは考えてくれたようだ。

 それに俺が“ゴードン”と呼び捨てにしていることも大きいのだろう。


「基本的に今の俺はゴードンと協力態勢なんですよ。そのゴードンが、何か良からぬ事を考えていますか? 彼はそれほど暇では無いでしょうし、王都で混乱が起こることも歓迎はしないでしょう」


 これでサム、ザイン、ロームの表情が変わった。

 出来れば口に出さずに済ませたかった「高度な政治的判断」に思い至ってくれたようだ。


 姉弟はそもそも、あまり深くは考えていなかったようで、この状況に飽いているらしいな。

 では、俺への同調意見が圧倒的多数であることを確定するか。


「聞けば皆さん、研鑽為されたとのこと。であれば、俺が問題を起こすようなら、そちらで対処為されてはいかが? 自信はおありなんでしょう?」


 はい、安い挑発です。

 だけど見事に、5人の目の色が変わった。

 俺がマドーラを害する可能性……ああ、そうか。


 “蘇生”ぐらいはしそうだな。


 しかしそうであったとしても、もうちょっと慎重に――ああ、そうか。

 「冒険者」でしたね。

 存在がすでに詰んでいらっしゃる。


「……ま、お手を煩わせるつもりは無いですけどね。ゴードンはいい“友人”です。顔を潰すようなことはしませんよ」


 脅して、宥めて……もう一回、脅すという基本的な手法に一回足りないわけだが、これでルコーンさんも、何とか折り合いをつけたらしい。

 

 そして、わざわざ王宮からここまで迎えに来させ、3台の馬車に揺られる。

 同乗したルコーンさんのジト目を受け流しつつ、ザインさんと交流を深めつつ、城門へ。

 そこでハミルトンさんの出迎えを受け“あやふや”にさらなる箔をつけて、王宮に侵入成功。


 俺がハミルトンさんと親しくしていることが、最後の“脅す”にもなったようだが、もう止めることは出来まい。

 そのハミルトンさんが、通常行われるであろう手続きを簡略化してしまった。


 「ガーディアンズ」は、リンカル家の内部状況は知らないようで、色々困惑しているようだが、これで責任問題になれば、リンカル侯のせいに出来るな。


 ……いや、別に問題を……起こすんだな、うん。


 ま、とにかくそんなわけで――


 ――王宮だ。

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