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昔話に花が咲く

 ここしばらくの調査で、俺はそのことを確信していた。

 客観的な事実はない。

 だが、トールタ神の教会でも調べた結果による傍証もある。

 実に簡単な話だが、アティール女神――間違いなくバカであるということが、俺に確信を抱かせた。

 

 “神”であるなら出来るであろうことを、女神は何もしていない。

 つまり、この女神は、


 ――見て! 私はここよ! みんな敬ってもいいんだからね!!


 という感じで、動き回っているとしか思えない。

 やはり自己顕示欲が異常に強いんだろうな。


「……それはすぐにでも目的が叶うのでは?」


 俺の告白を受け、ゴードンから放たれた言葉はそんな質問だった。


「何故、俺が会いたいのかわかるか?」


 俺は念のため確認する。

 ゴードンは不思議そうに首を傾げ灰を落とす。


「文句を言うためでは?」

「正解」


 やはり間違えてはいなかったか。

 このゴードンという人間は、俺と同じように何事に対しても懐疑的だ。

 貴族の誇り、王家の権威――神への畏敬。


 つまり、これらに対しても決して思考停止を起こさない。

 そのきっかけは生まれつき不自由な足のこともあるだろうし……俺の存在がとどめを刺した可能性もあるな。


 とにかく俺は本当に、良いパートナーと出会うことが出来たらしい。

 そうとなれば、出来るだけ真摯に接して悪いことにはなるまい。

 俺は改めてゴードンの疑問に答えることにした。


「そのとおり、会うためなんだが、向こうは嫌がるかも知れない」

「嫌がることをするんだね」

「そうとも言うな」


 少なくともタイマン張るつもりではいる。

 そういう目算があったので、ハミルトンさんからの申し出を利用させて貰ったわけだ。


 だが、単純に接触しても恐らく逃げられる。

 それを防ぐための策は……出来てないんだよな。


 俺はタバコを携帯灰皿に放り込んで、淹れて貰った珈琲に口をつける。

 うん、旨い。

 ここから先も相談した方が良いのか、それとも……


「その話一端置いておいて。私の話をしても良いかな」


 細巻きを灰皿に置いて、ゴードンが申し出てくれた。

 本当に助かる。

 これは俺に助け船を出してくれたんだな。


「もちろん。そちらの要望の話だよな?」

「最終的にはそういうことになるが、まずは礼が言いたかったんだ――君の申し出は非常に役に立った。むしろ革命とはこういうことかと思ったほどだ」

「俺が前に侯爵に言ったアレコレか」


 それはわかるが、言葉の選択がどうにも不穏当だ。

 盛大に油断しているらしい。

 これで俺が「侯爵家に叛乱の気配これ有り」とかやったりする可能性は……まぁ、無いんだけど。


「父から聞き出すのに苦労したよ。基本的に君の言うことに懐疑的だったから」

「保守派かくあるべし……という感じだったからな」


 社会的地位のある“普通”の人間が革新派である方が珍しいだろう。

 あの時の俺はゴードンについても、


 ――領地に引きこもっている、ゴリゴリの保守派。


 と、想定してたからな。

 ノラさんは何か含むところがあったようだが……このノラさんとの関係性も確認しておきたいところ。

 だが、それよりも気になることがある。


「“異邦人”についてはどれぐらい?」

「多分、君が考えているよりも多いと思うよ。何しろウチの領地はヒロト・タカハシと敵対していたのだから」

 

 なるほど敵対しているからこそ、情報収集には余念が無いと。

 その理屈はわかるが、俺がヒロト・タカハシのことを知っている前提で話を振るのは……


「ノラさんの持っている情報は何処まで知っているんだ?」


 結局ここに戻ってくるか。


「いや、それについては知らないよ。ただ君の相手をするのに彼女は最低限、ヒロト・タカハシの情報は開示しているだろうと考えてね――何しろ子孫だ」

「そしてリンカル家も、ヒロト・タカハシと敵対していた者の子孫というわけか」


 それなら、似たような情報が揃う可能性もあるな。


「“異邦人”は、存在自体が無茶ですから――君よりはマシだけど」

「俺のは……壊れスキルのせいも大きいから」

「いや間違いなく、君の問題だと思うけどね」


 ノラさんと良い、ある程度、事態を把握している人間は必ずそういう結論に持っていくな。

 納得は行かないが、この辺りのsideリンカル家の話には純粋に興味がある。


 俺が促してみると、ヒロト・タカハシは“大密林”に接した領を持った貴族殲滅の勢いで行動していたらしい。

 その目的は、その辺一帯を王家ひいては国の直轄地に変える目算があったようだ。


 無茶な話を、と思ったが、そこら先にまた従順な家臣を封じるか、あるいはそのまま中央集権化を促すか、やりようもあったのだろう。

 そして、リンカル領にちょっかいを掛けてくるはずが、突如ヒロト・タカハシは行動を止めた。


 無論、当時のリンカル侯も色々搦め手を繰り出していたわけらしいが、それが有効に働いたとも思えず、

 ――ヒロト・タカハシはいきなりやる気をなくした。

 そう考えるのが一番しっくりくるらしい。


(ははぁ、その辺りで“孤高”スキルの仕様に気付いたか)


 と、ノラさんからの情報込みだと、気付けることもあるが、もちろん言わないで置く。


 そこまでやった頃には、ヒロト・タカハシの周囲には、結構な数の人間が取り巻いていたんだろう。

 その状態が“孤高”にとって毒であったとしても、即座に切り捨てることも出来ず……普通の人間に戻った事を隠す事を選んだわけだ。


 俺はカップの珈琲を飲み干して、新たなセブンスター(セッタ)を取り出した。

 ゴードンに説明したくなる気持ちを、煙と共にはき出す。


 ここで種明かしをしたいという気持ちは、単純にゴードンにドヤ顔をしたいという、稚気じみた自己顕示欲に過ぎない――つまりバカ女神と大差が無いわけだ。


 そう考えることで、自分の中の欲求を抑え込む。

 ゴードンは俺の中の欲求を知ってか知らずか――あるいは察したか――話を進めた。


 今まで“大森林”に接している領はヒロト・タカハシから圧力を受けていたわけだが、それが唐突になくなる。

 それによって、一応の平穏は訪れた。


 元々、この辺一帯の領主達の間に争いがあったことは確かなようだ。

 ヒロト・タカハシの暴風が、他の領主達を根絶やしにしたことによって、この争いは自動的に排除される。まさに結果論だが、どうやらこれによってヒロト・タカハシの目的は最初から、この地方の整理にあったかのように捏造されたらしい。


 だが当時の人間にしてみれば、そんなお為ごかしが通じるわけが無い。

 生き残った当時のリンカル侯は決して油断をしなかった。


「家……領の方の家には、大量に集められた“異邦人”の記録があってね」

 

 なにそれ読みたい。


 先ほどは自己顕示欲で、今度は知識欲か。

 ええいゴードンめ。

 次から次へと……などと八つ当たりしている場合では無い。

 何せ、ゴードンの話はまだ続いている。


 ある意味、必然的な展開によってゴードンは集められたその記録を読みふけったらしい。

 外に出ることは厳しかっただろうしな。


 身体のこともあるし、もしかしたら侯爵家の外聞も問題になった可能性もある。

 それによって、ゴードンは“異邦人”への思索を深めていったようだが……


「……集めた当時のリンカル侯というのは曾祖父?」

「そうだね」


 俺は話を遮って、今さらながらの疑問を差し挟む。

 そのついでにゴードンを制してアメリアさんに、珈琲のおかわりをお願いしにいった。


 アメリアさんは、無表情でかしこまってくれたが――あまり良い顔はされてない気がする。

 やはり就寝時間が削れているのが気になっているのだろう。


 ……アメリアさんの印象を悪くするのは願ったり叶ったりだが、ゴードンが倒れてしまうと、それはそれで問題だな。

 切りの良いところまで来たら、いったん引き上げることも視野に入れなくては。


「ありがとう助かるよ」

「俺はアメリアさんにお願いしただけだ。それより身体は大丈夫か?」


 戻って腰掛けると同時にゴードンから声を掛けられた。

 俺は即座に、身体の具合を尋ねたが――


「この話を途中で辞めた方が身体に悪い」


 それは確かだな。

 俺は灰皿に置いてあった、タバコを咥え直す。

 そして、俺はゴードンの意見に賛成であることを示すために先を促した。

 ゴードンは小さく頷く。


 俺の疑問は、その“異邦人”の情報はリンカル家にずっとあったということだ。

 その割には、現リンカル侯がどうにも暢気すぎるような気がする。

 俺という“異邦人”を相手にしているのにだ。

 ゴードンは笑いながらそれに応じた。


「だって、それはほとんどおとぎ噺だからね」

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