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戦後処理

「スキル? 失礼ですが、と言うことは修練次第で誰にでも習得できるということですか?」


 できればそうであって欲しくない。

 「鑑定・スキル」がレア扱いだったから、個人差がある物だと信じたいところだが……


「いや。このスキルは先天的な物だ。言ってしまえば我が家の血縁で無ければ所有することも叶わぬだろう」

「ははぁ。確かにあれは――」


 複数、魔法が使える配下がいればこそのスキル――と言いかけたところで、ようやく脳の配線が繋がったようだ。


「――このたび騒動で、近衛騎士の間で言葉を選ばなければ脱落者が多く出ていると聞いています。もしやハミルトンさんのスキルにも、影響がありましたか?」


「凄いな。最初は物を知らぬ“異邦人”そのものであったのに、ほんの一瞬の間に、追いつかれてしまった――実はそうなんだ。それだけに1番モヤモヤしていたのは私かも知れない」


 俺が見た限りのあのスキルで考えてみると、単純に“灯り(ライト)”を掲げれば良いというものでは無い。

 その状態で適切な位置に移動し続ける、多人数での連動が必要だ。


 それは一朝一夕で手に入れることが出来るはずがない。

 そういった熟練の部下達を、これ以上は無いほど馬鹿らしく、その上で深刻な理由で失ってしまったのだ。


 ……これは、八つ当たりされても文句は言えない。


 というか、あれで俺への感情をリセットできるなら……やはりそう簡単にはいかないだろう。

 やはり食事を断って正解だな。

 警戒を解くわけにはいかない。


「ムラヤマ。こちらからも質問良いか?」

「はい。答えられることなら」

「構えなくてもいい。私のスキルに関することだからな」


 話の流れ的にそうであろうとは思ったが、念のためだ。

 警戒の必要性を確認したところだし。


 しかし、確かに彼は俺の“実験”の被害者であることも間違いないだろう。

 答えられることには、無理に隠すことは止めておく。


「……そういうことであれば、できるだけはお答えしたいところですが――俺はスキルに関しても全くの門外漢ですよ?」


「ああ、そのあたりは確かにそうだろう。だが、それだけに不思議に感じたのだ。どうしてリンカル家のスキル“影切法師シャドウ・オクシデア”の特性に気付いた?」


 ああ、そうか。

 すっかり失念していたが、俺があのスキルの秘密……


 ――影が持っている剣だけで無く、その姿全体が刃物


 ……にいち早くたどり着けたのは、推測に因るものでは無いからだ。


 もっと単純に「()()()()()()使()()()」を知っていたのだ。


 推測もへったくれも無く、ただ答えを知っていただけ。

 が、そう答える前に念のため、ハミルトンさんが言う“スキルの特性”とは、これで良いのか尋ねてみる。

 ハミルトンさんは、それに頷いたので俺は改めて説明することにした。

 少しばかり、迂回しながら。


「ハミルトンさん、そもそも影に物質的な厚みがあると思いますか?」


 まず、ここから始めた方が結局早いような気もする。


「いや……無いように思うな」


 ハミルトンさんも律儀に付き合ってくれる。

 もしかすると、単純におしゃべり好きなのかも知れないな。


「でも影は見えるんですよ。しっかりとその場にあることは間違いないですよね」

「う……ん。それはそうだな。と言うことは影は確かにある――であれば感じられないが厚みは確かにある?」

「ごくごく薄い物がね」


 実際、影ってどういう状態なんだろう?

 しかしここはネットの無い“異世界”だ。

 もはや、この説明で乗り切るしか無い。


「……なるほど、その薄さがそのまま刃となるというわけか。しかしよく気付いた」

「そうでは無いんですよ、ハミルトンさん。俺はその理屈を知ってたんですよ。“向こうの世界”で」


「何? それではムラヤマの世界にもスキルがあったのか?」

「ここからが説明が難しいんですが……」


 色々考えたが、漫画オンリーで説明することにした。

 わかっている。

 空想を形にする方法としては、まず文章から入るべきだろう。


 空想科学(SF)に限らず。推理小説でもホラーでも始まりはまずこれのはずだ。

 いやそもそも、儒教のおかしなマウントの取り方が無ければ、人間が空想を形にするのは当たり前の流れだったかも知れない。


 中国でも、元時代になって儒者の地位が下がった途端、あれやこれやと“小説”と言う文化が花開いている。

 つまり自然に任せておけば、腐女子、いやゴキ腐リはそのうち淘汰されると思うのだが……


 それが国難であるというならあまり悠長なこともしていられないだろう。

 想像を形にするという点では、漫画の方が幾分か説明しやすいしな。


「つまり絵で、物語を作るのか……しかし大変では無いのか?」

「大変です」


 正直、週刊連載とか狂気の沙汰の、さらにその向こう側に一歩踏み出したような物だと思う。

 アシスタントと言う存在があったとしても人間がやっちゃいけない仕事だ。

 ……せめて週刊誌でもローテション組んだりとか……3週載せて、1週休んでたりしてるのもあるけど……


 とにかく今は漫画のアピールを続けなくては。


「それだけの効果はありますよ。何しろ元が絵ですから。あり得ないほど美目麗しい男共が、秋波を交わし合うところを、より具体的に描けるわけですから」

「それは……」

「で、実際の被害者が出るわけではありませんし」


 非実在青少年とか、正気な人間が作り出した言葉とも思えん。


 俺は思想的には法家に近しい物があると思うが、その法家が最高に行き着いた先に「秦」という大失敗例がもう控えているでは無いか。

 何でもかんでも法に委ねてしまおうという考え方は一種の思考放棄だと思う。


 強化すべきは法では無く、人のモラル。

 すぐに成果は出ないし、止めればすぐに荒廃するだろうが、これを続けなければ反動がえげつないことになるぞ。

 禁酒法が施行された環境下で、どういった連中が潤ったか考えてみれば良い。


 ……歴史は色々なことを教えてくれるな。


 この“異世界”の歴史はどういう風に紡がれてきたのか。

 とにかく、非実在青少年などという、恥ずかしい言葉を生み出さない歴史である事を祈るばかりだ。


「……しかし、それでは実物を美しく描く事になるのでは無いか?」


 すぐに気付かれてしまった。

 だが、これはノラさんに説明したのと同じ説明を繰り返すしか無い。


「ハミルトンさん、コレは一度蔓延したら根治は不可能だと理解して下さい。俺の“提案”は被害の拡散を防ぐため、あるいは勢いを弱めるため。対処療法みたいな物だと思っていただければ」


 これ、翻訳スキルが死んでると終わりだな。


「………………そうか」


 その苦虫を潰したような表情から、無事翻訳されたと判断する。


「それで、俺がハミルトンさんのスキルに見当が付いたのは――」

「そ、そうだったな」


 うん。

 わざわざ間を取っただけのことはあってすぐに立ち直ってくれた。


 ここで、話を逸らしても起きたかったし――やっぱり俺の実験が“元凶”だと思う。

 ……だから、ここで誤魔化しておきたい。


「その絵では、縦横に想像した事象が描かれるわけです――別に美しく描くことばかりができることではありませんから」

「そうか――そうだな」


 ちょっと危なかったが、進路変更成功……ということにしておこう。


「その絵で紡がれる物語の中に……あったんですよ。ハミルトンさんのスキルと似ている“技”が」

「なんだと?!」


 これは流石に驚いたか。


「リンカル家の歴史は私にはよくわかりませんが、もしかしたら“異邦人”が絡んでいるのかも知れません――あくまで推測ですが」

「…………」


 ハミルトンさんは無言で、何か考え込んでいる様子。

 実のところ俺は推測では無くて、ほとんど確信している。


 どうにも発想が特殊過ぎる……確かに同じ人類ひとが考えたわけだから、偶然似た発想になることもあるだろう。

 ハミルトンさんの使い方はかなりアレンジされていたが、例えそうだとしてもだ。

 “剽窃”上等の異世界でもあるしな。


 その後、スキルについて俺たちの間で話が尽きることもなく――もちろん俺の壊れスキルについても適当に。


 そして比較的和気藹々と――馬車はリンカル邸に到着した。

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